Yahoo! JAPAN 政策企画

ネットを通じて選挙について知る、語る自由を(その2)

前回に引き続き、インターネットと選挙運動に関し、ご紹介します。
今回は、選挙運動などに関連して、公職選挙法違反となる行為についてです。

これまでのところ、インターネット利用を理由とした公職選挙法違反の罪で裁判所に有罪と判断された事件は存在しないといわれています。
ある地方選挙の候補者が法廷で争うことを覚悟のうえで、選挙運動にブログ、Twitter、USTREAMなどを利用し、書類送検(警察が被疑者を逮捕せずに捜査書類を検察官に送ること)されたケースもありますが、結局、起訴猶予(被疑事実は認められるものの、諸般の事情を考慮したうえで起訴はしないという、検察官の処分。裁判は行われませんので有罪となることもありません)となりました。

刑事事件である公職選挙法違反について、起訴するかしないかは、個別の事件のさまざまな事情を考慮して検察官が総合的に判断しますし、また、インターネット利用を理由に公職選挙法違反の罪で裁判所が有罪と判断した前例はないまたは非常に少ないので、今回の衆議院総選挙で同じように違反したとして、同じように起訴猶予となるか、また起訴されたとしても、その後裁判所がどのような判決をするのかは明らかではありません。
しかしながら、捜査機関や検察官の判断は法律を所管する省庁(公職選挙法の場合は総務省)の有権解釈を基本として始められますので総務省の見解が実務に与える影響は少なくありません。
もちろん最終的に、どのような法的処分が下されるか否か、その場合の量刑の相場など明らかではない部分が多いとは言って、公職選挙法に違反したと判断され、法的責任が追及されるおそれは否定できませんし、国会の場で政治的な責任を追及されたりする可能性もあります。

では、実際にどのような行為が禁止されているのかご説明します。
(定義や範囲については、末尾※印の参考資料をご参考ください。また、最終的には、裁判所の判断に委ねられています)

選挙運動に関しては、選挙の公正を確保するために、街頭演説、選挙カーの使用、連呼行為、拡声器の使用、戸別訪問、飲食物の提供、新聞広告など、公職選挙法に非常に多くの規制が存在しますが、インターネットとの関係で一番問題になるのは、「文書図画の頒布(ぶんしょとがのはんぷ)」(142条)です。

この規定は、「選挙運動」のために使用する「文書図画(ぶんしょとが)」は、一部の例外を除き、「頒布(はんぷ)」できないとしています。違反すると2年以下の禁錮または50万円以下の罰金に処せられます(243条1項3号)。

1. 「選挙運動」とは
「選挙運動」というのは多義的な言葉ですが、公職選挙法における「選挙運動」とは、「特定の公職の選挙につき、特定の立候補者または立候補予定者に当選を得させるため投票を得もしくは得させる目的をもって、直接または間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をすること」と解釈されています。

ある行為が「選挙運動」に該当するかは、時期や場所、方法、対象者などを総合的にみて判断されることになりますが、ある候補者に対する投票の呼び掛けなどの他、ある候補者を当選させようと考えてその候補者の政策が妥当だと思うといった書き込みを行ったり、その候補者の街頭演説の写真をアップロードしたりすることなども「選挙運動」に該当するおそれがあります。

一方、個人の日常的な「今日○○でランチを食べた」といった書き込みや趣味に関する書き込みはもちろん「選挙運動」には該当しません。また、単にSNSである候補者をフォローしたり、友達登録するだけでは基本的には「選挙運動」には該当しないと考えられます。
自身の政治的な考えに関する書き込みをすることも、「選挙運動」に該当しない限りにおいては、禁止されていません。今回の総選挙に自らは立候補していないある政党の幹部の方が公示後もSNSを利用していますが、「選挙運動」に該当しないように注意をしながら政治活動としての範囲で行っていると考えられます。政党の公式ホームページの更新、SNSでの公式アカウントによる書込みも同様に選挙期間中の現在も行われているものがあるようです。

2. 「文書図画」とは
「文書図画」は、「文字もしくはこれに代わるべき符号または象形を用いて物体の上に多少永続的に記載された意識の表示」と考えられており、ポスター、ビラ、葉書、書籍といった、印刷物のほか、パソコンのモニターに表示される文字、画像や動画も含まれていると解釈されています。
政見放送についても細かなルールが定められており、テレビで放送された政見放送を録画して動画投稿サイトにアップしてしまうと公職選挙法違反となるおそれがあります。なお、かつて、音声はさすがに「文書図画」に当たらないだろうと考えて、映像は流さず自らの主張を音声データのみで、インターネット上で配信した候補者もいたようです。

3. 「頒布」とは
「頒布」は、「文書図画を不特定または多数の者に配布する目的でその内の一人以上の者に配付すること」をいい、不特定多数の方にみてもらうためにブログを開設・更新すること、SNSに書き込みをすること、電子メールを送信すること、画像・動画をアップロードすることも「頒布」に該当すると解釈されています。

次回も引き続きインターネットと選挙運動についてご紹介します。


※参考資料
・国会答弁書
参議院議員藤末健三君提出インターネット等の選挙運動への活用に関する質問に対する答弁書
参議院議員藤末健三君提出公職選挙法におけるインターネット選挙運動の規制に関する質問に対する答弁書
参議院議員藤末健三君提出ツイッターを使用して選挙運動を行うことに関する質問に対する答弁書
衆議院議員馳浩君提出インターネットを利用した選挙活動に関する質問に対する答弁書
衆議院議員馳浩君提出インターネットを利用した選挙活動に関する質問に対する答弁書

・裁判例
平成17年12月22日東京高等裁判所判決

・参考文献
選挙制度研究会『実務と研修のためのわかりやすい公職選挙法』
国立国会図書館『我が国のインターネット選挙運動―その規制と改革―』