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民法(債権法)改正について

現在法務省の法制審議会で民法(債権法)の改正が検討されており、その中間試案が公表されました。
予定より少し遅れているようですが、間もなくその中間試案に対する意見募集が開始されます。

今回の改正は、明治29年の民法制定以来はじめて抜本的に民法(債権法)の在り方を見直すものになりますが、その目的は、①民法制定以来の社会・経済の変化に対応すること、②民法を国民にとって分かりやすいものにするということ、にあるとされています。

①の民法制定以来の社会・経済の変化に対応するというのは、民法が制定されてから現在までの間に新たな技術やサービスが登場し産業構造も大きく姿を変えており、民法制定当時に想定していなかったケースもでてきていますので、そのようなケースを想定したルールを明文化するというものです。

②の民法を国民にとって分かりやすいものにするというのは、民法は国民生活に深く関連するルールを定めたものなので一般の方が民法を読んでその内容を理解できるようにする必要があり、そのために専門的な法律用語を日常的な用語に置き換えたり、条文上素直に導けない解釈を明文化するというものです。

今回は、①の民法制定以来の社会・経済の変化への対応にフォーカスしてみます。

民法(債権法)は経済活動を法的側面から支える基本インフラでもありますから、経済の実態が変われば民法(債権法)も見直されるべきですので、この機会に民法(債権法)全体について民法制定時には存在しなかったビジネスや取引にとっても使いやすいものであるかどうかを検証し、必要な修正を加えることは大切なことです。

明治29年からの大きな社会・経済の変化の一つとして、今日においては多数のお客様に画一的に商品・サービスを提供するビジネス(電気、ガス、水道、電車、バス、コインパーキング、スポーツクラブ、コインロッカー、銀行、ホテル・旅館などなど)が国民生活に密着し、一般化しているということがあります。
このようなビジネスでは、どのお客様とも一律の条件で取引すべく、契約の一方当事者であるサービス提供者があらかじめ契約条件を約款(利用規約)として定型化しておき、それをお客様に開示するという形で契約を締結しています。
しかし、現行民法が想定しているのは、当事者が合意した内容が契約の内容として当事者を拘束するというもので、約款による契約については想定されていません。
約款については、裁判所の判断のリーディングケースとして、大正4年の大審院(大日本帝国憲法下の最高裁判所に相当するもの)の判例があり、そこではお客様が約款に含まれる具体的な内容を認識していなかったとしても反証のない限り約款の内容による意思で契約をしたものと推定すべきであると判示されています。
ただし、裁判例は、事案の個別事情によって、異なった解釈が出ることもありますので、ただ一つの事例についてたまたま出された裁判例が万能ということにはなりません。
約款の取扱いについても、法制審議会民法(債権関係)部会の部会資料42の13ページから14ページにおいて、具体的な裁判例をいくつか挙げながら、「以上のように、約款の拘束力に関する判例のルールは必ずしも明確ではなく、また、約款の組入れの問題と内容規制の問題・・・が明確に区別されないで処理されているとの指摘もある」と説明されています。

このように現行民法では、約款が確実にお客様との間で契約内容となっているかどうか分からないことがビジネス上のリスク要因となっています。
幸いYahoo! JAPANの約款が契約の内容にならないと裁判所において判断されたことはこれまでありませんが、約款に合意していないとして約款が契約の内容にならないと相手方当事者から主張されることがあります。

民法上に約款についてのルールが示されれば、サービス提供者はそれに従い安心して約款による取引を行うことができますし、お客様としてもそのルールに従って、取引しようとする契約の内容を把握することができます。

もちろん約款を作成したサービス提供者に圧倒的に有利でお客様を一方的に害するような不合理な条項や、そのような条件になっていることをおよそ想定できないような条項まで有効とすべきではありません。
しかし、このような個別の条項の合理性の問題と、契約条項の総体である約款がどのような要件で契約の内容となってサービス提供者とお客様を拘束するのかは別次元の問題です。

法務省の法制審議会では、このような契約条項の総体である約款が契約の内容になってサービス提供者とお客様を拘束するための要件を「約款の組入要件」とよんでいます。
そこで現在示されている案は、「契約の当事者がその契約に約款を用いることを合意し,かつ、その約款を準備した者(以下「約款使用者」という。)によって、契約締結時までに、相手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会が確保されている場合には、約款は、その契約の内容となるものとする」というものです。
ここでは、
A 当事者がその契約に約款を用いることを合意すること
B 契約締結時までに、相手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会が確保されていること
の2つが要件となっています。

Aの要件は、当事者が合意していないものは契約にならないという伝統的な考え方から導かれています。
しかし、実際には、例えば消費者は約款に合意して地下鉄に乗っているのか、約款に合意してコインロッカーを使っているのか疑問があります。
合意は黙示のものでもよいと説明されており、裁判では合意が推認できるかどうかの事実認定の問題として処理されると考えられますが、実際には、地下鉄やコインロッカーのケースでもサービス提供者が定める約款が存在することを全く意識していない方もいらっしゃるのではないでしょうか。必ずしもサービスを利用しようとする全員が、サービス提供者が定めている約款があるだろうから契約の内容は約款に委ねようと明確に考えているわけではありません。

当事者においてサービス提供者が定める約款が存在することを全く意識していない場合、約款を用いることを合意していないとして約款は契約内容とならないということになってしまうのか、現状約款どおりの取引が当然に行われている実態に混乱をきたさないのか、という問題が発生してしまいます。

約款はサービス提供者にとって多数の相手方の取扱いを一律に規律するものですので、約款の組入についても個別の相手方の合意の内容で異なる取り扱いをするべきではなく、Bのような「相手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会が確保されていること」という類型的な要件だけで十分なのではないかと考えます。