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熟論1【1】生活保護制度って

松原:みなさん、こんばんは。
「Yahoo!みんなの政治」を提供しているYahoo! JAPANが、日本いま抱えているさまざまな問題を、熟論、議論をたたかわせて考えていきたいと、こういう企画をスタートさせました。今日はその第1回です。ゲスト、まさに熟論していただくお二人にこれから自己紹介していただきますが、私はモデレーターを務めさせていただきます、東洋大学の松原聡です。よろしくお願いいたします。では、片山さんから自己紹介をお願いいたします。

片山:はい、松原先生の大学院でも講義させていただいたことのある片山さつきです。安倍内閣では総務省の政務官をしております。どうぞよろしくお願いいたします。

松原:今日一番言いたいことは何ですか? なんだかすごくおしとやかな発言……。

片山:今日申しあげたいのは、生活保護の問題で、私と長妻さんはもう数回議論しているのですよ。税と社会保障の一体改革でも与野党が逆の時に質問しているのですが、大体、民主党が甘かったから生活保護が増えたと。もっと自立につなげなければというお話と「長妻通達」のお話をしてきたのですが、画期的なことは、自民・民主が同じ法案に合意して、衆議院を生活保護法の抜本改正案が通りまして、国会対策上のいまの話し合いの状況ではいま国会で参議院も通過する可能性はきわめて高い。社民・共産だけが反対という状態で、ひとつ進んだということをみなさまにお伝えしたいです。よろしくお願いします。

松原:でも両者が一致してしまうと今日熟論にならないので、やはりそこは本音でバトルしてもらいたいと思うのですが、もうおひとかた、民主党長妻さん、自己紹介をお願いいたします。

長妻:民主党衆議院議員の長妻昭でございます。
私は目指すべき社会、これは格差が小さくすべての人の居場所と出番がある社会、と。こういう社会をつくりたいと思い、政治をしております。これはおそらく自民党とも維新の会ともかなり方向性が違うのではないかと、こういう社会像の違い等も今日議論できればと思っております。

松原:あさって(6月14日)誕生日だそうで。

一同:(笑)

長妻:まさに東京都議選があさって告示です。それから参議院選挙も来月控えていて、そういう中で多分この生活保護の問題も話題にはなると思いますので、今日そのあたりを出来れば、同じ法案をいま賛成しているから、ではなくて、ぜひハブとマングースになって。どっちがハブで……。

片山:どっちが……?

松原:どっちが(笑)。そういうかたちで、熟論をしていきたいと思うのですが、最初に今日話題になる生活保護について、おおよそのところを少し説明させていただきます。【図1】まず、その生活保護の一番もとになるのが日本国憲法です。第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と。「国は、その国民の権利を、あらゆるすべての生活部面で向上及び増進に努めなければならない」と。これが国の義務になっているわけです。ですから、国民は健康で文化的な最低限度の生活を送ると。もちろん、では最低限度の生活ってなんなのかとか、それからたぶん今日議論になってきます不正受給の問題もあるかもしれない。このあたりのところの一番の根本は憲法の第25条「健康で文化的な最低限度の生活」、これを国が国民に対して保障しているといっていいのではないかと思います。
それがですね、生活保護の制度としては生活保護法としてこれが具体化されているわけです。ここに、まさにいま紹介した憲法第25条ですね。この法律は日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とすると。ですからずっと生活保護の中にいるのではなくてやはり自立していただきたいと、こういうことが法律の理念の中に入っていると、こういうことです。
このあたりでなにかありますか? コメントなど、片山さん。

資料:憲法第25条

片山:はい。よくですね、教護の法律というのが明治時代からあって、救貧法みたいな話だったのですけれども、戦後、いまの憲法ができて、25条をひくものとして生活保護法ができた時というのはもう何百万人の引揚者の方がいて、もう食うや食わずやの状況だった時にとにかくなんとかしなきゃというのでつくったうえに暴動等が起きたことも含まれて手直ししているのですね。
ですから、全体として国民のセーフティネット、必要な人に確実に保護を実施するという基本的な考え方の法律なのですが、ややいまの世相から見てどうなのかなという部分があって他の国の法律制度に比べるとあまりにも自立が前に出ていないなということがあって、今回われわれは生活保護法の改正をご提示して、1カ所の修正を除いては民主党もみんなの党も維新も全部賛成してくれたと。まず基本として保護から脱却を促すということがこの法律の中に強くなければいけないというのがあまりなかった。それを入れたいと。その辺です。

松原:【図2】逆にいえば第1条にはその自立を助長と書いてあるのに、実際の法律の中身とか運用があまりそうなっていなかったと。

資料:生活保護法第1条

片山:書いてあるのに、そう。中身があまりにもそうなっていなかった、そうです。

松原:長妻さんどうでしょう。この憲法と、この生活保護法、それから実際の運用ですね。そのあたりのところ。いままでどうだったかというところを少し。

長妻:これまずですね、生活保護ができた経緯というのがイギリスなのですが、

松原:救貧法ですね。

長妻:はい。貧困は自己責任だと、それまでそういう考えであったのが、貧困は社会の責任ということで、イギリスでできたわけですが、やはり生活保護の不正受給、これはいけません。これは犯罪ですから。これはわれわれの政権の時も厳しく取り締まるということをやってまいりましたけれども、ただこれ忘れてはいけないのが、生活保護というのは、国民を助ける最後の救命ボートなのです。で、不正をしぼるあまり、本来受けるべき人も、救命ボートに手を差し伸べている人を振り切ってそれを入れないということになると、これは救命ボートの役割を果たさないのではないかと思います。そのあたりをメリハリつけて議論しないと、とくにわれわれがおかしいと思っているのは自民党が今年の8月に戦後最大の生活保護の受給額を切り下げるわけですね。で、その計算根拠も非常にあいまいな形で切り下げていって、切る一方で本当にいいのかどうか。不正受給と本来受けるべき人が受けるということは、現にこれ、分けて考えないといけないと思っております。

松原:片山さんが言った自立の問題についてはどうでしょう?

長妻:今回の法律、われわれ衆議院で賛成した法律は自立を重点に置こうということで、生活支援戦略、民主党政権の時に骨格をつくった法律なのですね。その自立のところの観点というのはかなり盛り込んで、学習支援とかですね、あるいは働ければ一定の貯蓄をして生活保護から抜け出た時にお渡しするとかいろいろな工夫をしている面、とくに自立のところも強くサポートしていくということに注目してつくった法律です。

松原:この生活保護法、憲法でもありました、この最低限度の生活とはなんぞやというのは、今日議論の中で触れていきたいと思います。その引き下げがいいか悪いかということはいまおっしゃいましたけれども、それは議論の中で触れていきたいと思います。【図5】もう少しですね、生活保護の制度についての説明をさせていただきたいのですが、生活保護の受給費とはどのように決まるかと、こういうことです。そして、この最低生活費がいくらかということはこれから議論になると思いますし、下げていいのかもっと上げなければいけないのか、これは議論の幅がありますけれども、最低生活費というものがある水準になった時に実際に収入があればそこから引き算すると。ですから、たとえば最低生活費が10万円で収入が9万円あれば、極端な話、生活保護費は1万円と。逆に、収入がゼロであれば全額が生活保護費として支給されると、こういうことで、もちろんその収入の中には年金も入ります。勤労所得も入ります。で、各種扶養手当も入ると、こういうことです。この年金というのが実は大事なところで、これもあとでまた議論していきますけれども、国民年金を払わない人の比率がだんだん増えていますけれども、ですから年金を払わないで年金がもらえなくても、収入が減って実は生活保護に頼めば何とかなってしまうという面もあるわけで、この点ももう少し議論していきたいと思います。

資料:生活保護受給費

片山:それはすごいモラルハザードですよね。

松原:そうですよね。そこもまたあとで議論していきたいと思います。
では具体的に、生活保護でどのくらいのお金がもらえるのか。これ生活費ですから、都市部と郡部、地方で違います。【図9】ひとつ例を出しました。3人世帯。夫婦ですね、夫33歳、奥さん29歳だとしましょうか。で、4歳の子どもがいる。こういったような3人世帯を考えると、東京都の区部などでは、たとえば17万2170円、毎月支払われると。まあ相当の金額ですね。17万円という水準です。これもあとで議論しますが、17万円稼ぐのは結構大変ですよね。ですから、その水準はどうなのか。そして地方の場合には地方は生活費が安い、家賃が安いということで12万4680円を月々もらえると。繰り返しになりますが、個人で収入があると、たとえば東京都に住んでいる人で10万円の収入があれば、生活保護からは7万2000円の支給があると。こういう仕組みになっているということです。
【図10】もうひとつ例を出します。1人親、お父さんかお母さんかの1人しか親がいなくて子どもが2人いるケースです。東京都区部ですと19万2900円、地方郡部等で15万7300円、このような金額が支払われると、こういうことです。このような水準についてどうでしょう?

資料:生活保護受給の具体例①
資料:生活保護受給の具体例②

片山:まず今日その話になると思い、国会でも質問したデータを持ってきたのですが、生活保護の国際比較でいきますと、いま大体、地方だと1人の生活扶助が6万5000円、東京都区部だと8万4000円くらいもらえるのですよ。これ、税金はかからない。同じベース。

松原:少し待ってください。いまの金額は先ほどの数字と違っていますけれども、家賃が入っていない?

片山:家賃が入っていない。

松原:これに家賃が加わると先ほどの17万円、と。

片山:そうですね、ですから家がこの人はあって、光熱費もあるという前提で、本当に生活のお金だけが、これ。これが日本のお金なのですね。地方都市で6万何千円、一番高いところが8万何千円。では福祉の国と言われているスウェーデンがいくらかというと4万4000円なのです。フランス、ドイツが3万何千円で、アメリカに至ってはフードスタンプだけですから1万5800円です。これが主要先進国の、自由と人権の国の生活保護の相場です。
フランスで国立行政学院というところへ行っていて、そこで習いましたのは、ヒューマンネイチャーとして働いてもらおうと思ったら最低賃金よりも低い生活保護にしないと、どちらかというと生活保護や扶助は、日本でいうと救護とかシェルターに近い形にしないと絶対働かないと。それに加えてある程度義務をかける。職業訓練とかコミュニティサービス、これが世間の相場であるということがひとつ。

松原:あの少し待ってくださいね。水準の話はまた先でやります。

片山:それともうひとつ、それに関係あるのは、先生はいま19万2900円とおっしゃったのですが、たとえば母子家庭、30歳、4歳、2歳の母子家庭で換算しますと、単にもらえる生活保護や住宅補助だけではなくて、医療費の自己負担もゼロですから、本来であれば医療費、状況に応じて自己負担。それから国民年金の保険料と国民健康保険の料金とNHK受信料が全部タダで保育料がタダなのです。23区は。これを全部合わせると年収、年に383万円の公費負担になり、税込みでこれだけのものを維持しようとすると、年収が467万円になるのです。そういうことです。

松原:あの、これはまた議論していきますけれども、生活保護というのは、いま片山さんが国際比較で出したのは1人当たり、日本が6、7万円のときに諸外国がもう少し低いという問題。それからここで出しましたのは、それに家賃が加わると。で、かつ、この数字に入っていないのが、医療費。それから教育費が加わっていくので、実際はもっと金額が上がると、こういうことですね。

片山:そうですね。

松原:で、長妻さん。片山さんはどちらかというと「これ少し多すぎるのでは?」というご発言でした。どうですか? この金額を見て。

長妻:これ注意して議論しないといけないのは普通の状態であれば多すぎる、少なすぎるという議論ができるかもしれませんが、本当に生活保護を受けるというのは、日本は入りにくく出にくい生活保護だといわれておりまして、たとえば母子世帯で、生活保護を受けているご家庭を調べると、これ厚生労働省の資料ですが、68.1%の方がDVの被害を受けている経験があるのです。自殺の10万人当たりの率も、生活保護の方は全国の自殺率よりも倍も高いのです。ですから、うつ病の方、傷病者の方が大変多い中、働けるのに働かないというのはこれは本当に支援をしないといけないのですが、働きたくても働けない、そういう方々もいらっしゃるというのはおさえておかなければいけないのと、国際比較というのも非常に注意深く見ないといけないですよね。で、たとえば私の資料ではこれは予算委員会で出した資料なのですが、こういう表があるのですけれども。

片山:それは、全体の経費であって1人がもらう金額ではないですよね。

長妻:生活保護の受給率が人口当たり、まあ日本とドイツとフランス、この赤っぽいところですよね、日本が非常に低いと。あるいは社会扶助費の対GDP比で見ても、このブルーのところ、日本が非常に低いと。きちんと出典もある資料もありますし、厚生労働省の資料でもですね、どれだけ生活公的扶助制度を受けているかということを見ると日本は人口当たり1.6%、イギリスは2.6%、スウェーデン4.1%。まあドイツは0.4%ということで、フランスは2.4%、それと年金が充実しているので、他の国は高齢者の受給者はあまりいないのですが、日本は60歳以上の生活保護の受給者が半分以上を占めると。そして、どんどん増えているということで、本当にうつ病とか精神疾患の方とかが多いので金額というのもよくよく吟味してみないといけないと思っています。

松原:水準の議論はこれからやっていきますが、でもたとえば自殺率が高いのは僕もよく見ますけれど、では生活保護を受けている方の自殺率を一般の方と同じ水準に下げるまで生活保護費を多く出すべきかとかそういう議論ではないですよね?

長妻:もちろんそんなことを言っているわけではありません。ただ、その生活保護受給者の方々は全国の平均よりもそれだけ非常に追い詰められている方が多いと。

松原:だからではもっと出せと?

片山:いや、それは長妻元大臣がですね、この機会だから絶対に申しあげたいことがひとつあったのです。大臣のところにもいろいろとインタビューが行かれたと思うのですけれども、例の大阪の森口の事件、いろいろな事実関係があがってきて、何が関係あるかというと、子どもさんを連れた女性の方、結果的にはたぶん餓死じゃないかという形で亡くなられる前の相談がきていた時点で、実際には30万円をお店で働いていて実際には収入があり、元勤めていた会社で旦那さんの会社の経営者からも支援を受けているという状態の中、突然母子が別のところに転居し、1歳児と2歳児の健診を受けていないからおかしいと思っても父親も連絡が取れないという状態になりしばらくして見つかったのですが、これがDVなら、DVと認定された場合には、今の生活保護でセーフティネットとして欠けているとしたら、これだと思うのですよ。DVシェルター。この手の、昔でいえば何の条件もなく社会鍋のようにとにかく困ったら1カ月でも2カ月でもいてくれという施設が生活保護法上きちっと位置付けられていなくて、自治体もそういうものをつくれる余裕がないと。NPO任せであるということがあるとしたら問題なので、その問題がない場合に、あらゆる意味での生活困窮なのかと詰めていくと、あの餓死の統計というのが、日本では少ない年で20人、多い年で50~60人あるのですが、私、全部とはいわないのですけれど半分くらい見たのです。自分が生活保護の見直しをやるとき責任があるから。で、これはプライバシーの問題があるから全部は言えないのですが、それ以外の理由が、つまり本当に生活困窮だけなの? といったら、他にそこに自分を追い込んでいかれる別のきわめて特殊な家庭事情がある方が大半でしたよ。

松原:まあ、ここは要するに生活保護費の水準とか、それが受けやすいかどうかという問題とそれ以外の要因が出てくるはずで、逆にいうと生活保護制度がしっかり機能していれば、餓死なんて日本ではありえないはずなのに現実に起きてしまった、という問題も含めて議論していくということなのですが、長妻さんひとことありますか? この点について。

長妻:そうですね、今自殺者の数の話を申しあげましたが、これが多いからもっと上げろということかとおっしゃいましたけれど、いやそういうことを言っているのではなくて、ですから生活保護を受給している方々というのは、非常に精神的にも、あるいはいろいろな環境的にも困難な状況に置かれておられる方が多いので、一概にいまわれわれが金額を、自分に置き換えた時の金額で一概に見るのはいいのかというようなことを申しあげたので、一般の方の自殺率は年々減っているのです。自殺対策で。ところが生活保護受給者の方々はむしろ増える傾向にもある、非常に困難な状況だということを申しあげたわけです。

松原:【図12】もう少し生活保護の実態・制度について説明していきたいのですが、どういう方が生活保護を受けられているかというので、左側の大きいほうのグラフで、こちら側のグラフが今です。それからこちら側の小さいほうの円グラフ、これが過去のグラフでして保護世帯、どういう方が受けられているかという比率がだいぶ変わってきているのです。今、いろいろ話題になっている母子家庭とか高齢者世帯とか障がいのある方というのがやはり相当大きな比率になっています。しかしそれ以外の方、これが7%であったのが今は18%に増えているとこのような実態があります。ですから、高齢者、母子家庭、あるいはお父さん1人だけという世帯と傷病、障がい者の世帯というものの比率が相対的に落ちていって、その他の比率が3倍、いや2倍強の数字になっていると、こういう実態があるというのもひとつ加えて説明させていただきました。

資料:世帯類型別保護世帯数

長妻:少し注意しないといけないのは、この高齢者世帯というカテゴリーは、これはおそらく世帯主が高齢者だと思う方も多いかもしれませんが、これは全世帯の構成員が65歳以上の方なのです。その他世帯というのはたとえば、その他世帯の人数でいうと大体9.4%が65歳以上の人が人数でいえばいらっしゃるし、このその他世帯でも人数でいえば障がいとか病気をお持ちの方が7.6%いらっしゃるということで、なにか報道ではその他世帯は全部働けるのだというような報道もありますけれども、中身はそういうことになっているということ。

松原:まあただ、統計の取り方は変わっていないわけですからひとつ、数字としてはこのような変化が出ているということ自体は間違いないということです。

長妻:そうですね。

松原:ただ解釈が、すべて働ける人ということではないという指摘はありますが。ただ、統計の取り方は繰り返しになりますが変わっていないので、この構成比はだいぶ変化がでてきたというのがひとつの事実として。

片山:そうですね。実際推計では、いま世帯で長妻先生がおっしゃったのですが、個人個人での推計もしていまして、40万人くらいは20代から50代までの病気やなんらかの理由がない人だというような推計も、あります。

松原:そのあたりのところを含めて、その水準がどうなのかということと、それから本当に必要な人にこの生活保護が向いているのか、それからもちろん生活保護を受けている方に十分なケアがいっているのか、このあたりのところがまさに議論になるところです。それで、ここまでお二人の先生から議論をしていただきながら制度の説明をしてきましたが、ここで生活保護を大きく変える法案が衆議院を通った段階ですが、なぜこのような議論になっているかというと、ただ抽象的に生活保護の制度を見直そうねというレベルではなく、実は非常に深刻な財政的なことを含めた問題があるので、その説明の方に入っていきます。
【図6】これは、昭和27年から今までの非常に長期間のグラフです。で、昭和27年には204万人の方が生活保護を受給していたと。生活保護は世帯で見るときと1人1人の数で見るときと両方がありますが、これは個人、ですね。世帯数ではありません。一番ピークの時は昭和27年、もう60年前ですね、204万人が受けていたと。それが若干の上がり下がりがありますけれども、一番低い時、これは平成7年で88万2229人まで受給者が減ったと、こういうことです。
問題はその先でありまして、急激にカーブが上昇になっています。ここのところですね、急激にカーブが上がっていっていて、平成25年、今年の1月です。215万人が生活保護を受給していると。ですから、これが60年近く以上前の204万人の水準を突破して、生活保護制度ができてから最大の215万人になったと。要するに、日本が豊かになってきて1人当たりの国民所得、高度成長期を通して上がってきたと。実際それに応じて下がってきたのですが、実はこの傾向が急激に逆転して、88万人でしたのが、3倍弱ですけれども215万人まで上がっていると。そして、生活保護がこれだけ上がるということは、先ほど世帯当たりの数字を紹介しましたが、1人当たり8万円とか10万円というお金がこれにかかっているわけですから、やはり大変な財政的な負担になっていると。だから減らせというのはおかしいのですよ。でもこうやって増えていったことの現状、理由はなんなのかとか、こう増えている状況に対してどうするのかと。そして、財源は無限にあるわけではありませんから、そのあたりのところを含めて、これから議論しなくてはならないと、そういうことです。
【図18】それからこの財源の問題、もうひとつ別の側面から見てみたいと思うのですが、それがこのグラフです。これは東京都の足立区です。足立区が、要するに生活保護というのはただ審査をしてそこにお金を出すというのではなくて、1件1件の生活保護の支給対象者に対して自治体がケースワーカーを置きます。ケースワーカーは大体80人、1人の方ですね、80人くらい見ていると。ということは、生活保護の受給者が増えれば、自治体の中でケースワーカーをどんどん増やしていかなければいけないと、こういう問題があります。
ここ足立区というのは非常にケースワーカーの比率が高いのでここで紹介しました。3年間のグラフです。棒グラフの方です。平成21年度はケースワーカー、これ地方公務員です。区の職員の方です。271名、それが平成22年度には294名、そして平成23年度には312人と。これ要するに80人に1人くらい置いていかなければならないので、生活保護の受給者が増えるということはそれだけ市町村あるいは東京特別区の職員がケースワーカーとしてそこに張り付かなければいけないと、こういうことです。
で、今度は折れ線グラフの方を見ていただきたいのですが、見えるでしょうか? これは、足立区は3千数百人の職員の方がいますので、職員の中でケースワーカーが占める比率、これがもう毎年上がっています。平成21年度は7.8%、22年度は8.5%、23年度は9.1%です。ですから、足立区の場合は、10人に1人の区の職員の方がケースワーカーとして、すべての時間をかけて張り付いているという、こういう状態で、ですから先ほどお見せしたこの生活保護を受ける方の数が増えているというのは、単に財源がそこにつぎ込まれているというだけではなくて、そこに市町村基礎自治体の職員の方が張り付く率が増えているということで、その分ほかの仕事に回る職員の方が減っていると、これも事実ですので、やはりこういうような現状を考えていくと、やはり今、生活保護はいかにあるべきかというのが問題になると、こういうことだと思います。このあたりで生活保護の制度その他について概観してきました。どうでしょう、では今度は長妻さんから、この段階で何かコメントありますか?

長妻:これまずあの、わたくしも何人もの受給者の方とお話ししましたけれども、非常に困難な状況の方が大変多いというのと、もうひとつはやはり、2つ出来事が重なると、これは本当に人ごとでない、つまり、離婚をして自分がガンになったとかですね、何らかの2つの出来事があると、ですから自分自身もあるいはここにいるどなたでも、日本国にいる限りは本当に困難な状況になったときは、国は見捨てずに必ず最低限度の文化的な健康な生活を保障すると、こういう最後の、国家の存立基盤にかかわる制度だと思っておりまして、ですからだれでもひょっとしたら自分もなる可能性もあるということを念頭にやはり議論しないといけないと。
先ほどの職員の数なのですけれども、実は就労支援員という、ケースワーカーを補助する、就職・自立を促す職員という方もいらっしゃるのですが、これ一概に人数が増えればその財政圧迫ということでもないのです、一概に。つまり、就労支援員を増やしてそこでコストパフォーマンスといったら言葉は悪いですけれども、就労支援員を増やして自立する方が増えれば、つまり生活保護から抜ける方が増えれば、その就労支援員の人件費を上回る財政の負担が減るというような調査結果もあるのです。実際の自治体で取り組んでいる。

片山:実績そうです、はい。

長妻:ですから、決して人数が、職員が増えればそれを減らしたほうがいいということでもない。
それからもうひとつ、生活保護が増えているのは、やはり景気とほぼ連動するのです。ですからやはり社会保障の脆弱性というのも、年金の脆弱性というのがかなり大きいと思いますので、われわれとしては年金改革も進めるということです。

松原:ただ、ケースワーカーの数は、おっしゃるような緩和要因もありますけれども、少なくとも足立区の場合には、行政改革で職員の数を減らしていきながら、このケースワーカーの数が増えているということが現実にやはり自治体の業務に相当深刻な影響を与えているというのが事実で、就労支援員を増やしたから影響が緩和されるというのは一面ありますけれども、やはりこの数字は深刻に受け止めるべきだと思います。それから長妻さんがおっしゃっていることが抽象的で、国が最後の面倒を見るのだよとか、それから増えたり減ったりするのは景気に連動していると、こういうことですけれど、これ少しもう一度見ていただきたいのですけれども、このグラフがそのまま景気に連動しているのかと。

片山:していない。

松原:ということが1点です。それから、国民の1人当たりの所得のような生活のレベル全体が上がっているということも考えなければいけなくて、その意味では平成7年からこのような高い上がり方をしたことについて、やはりどのように、これは政治家としての責任ですから、ただ単に景気に連動して増えたから、全部それは国が最後の面倒を見るべきだということにはならないと思うので。やはりここまで大きな増え方をしてしまっている、そしてそのことが数として増えているだけではなくてケースワーカーが増えたりして、実際に自治体の業務に大きな影響を与えているということについてはもう少し説明がないといけないと思うのですが、どうでしょう?

長妻:これやはりひとつ、景気や失業率の相関性というのがあるのと、もうひとつ。

片山:何回も議論したのですが、都市により、つまり町により県によりこれだけ率の差のある制度はないのです。では経済成長率や産業の強さがそれだけ違うかというと日本は均一性が強いから違わないですね。つまり大阪府と福井県の差というのはすさまじくて、では福井県がそんなに豊かかというとそんなことないのです。ですから甘いとか辛いとか、つまり既得権化しているとか、悪いですがそういうものが随所にあるので、国民がみんなおかしいと言っているわけですよ。

長妻:あの少しいいですか。

松原:長妻さんこれですね、あ、どうぞ。あの、聞きますが、要するに、地方の格差の問題、もう一回触れます。大阪市とか、それからいま紹介した足立区とか板橋区とか、そういうところは非常に生活保護の受給率が高いしそれに対して富山県とか低いところもあると。【図6】しかしまずトータルで見てですね、この80万人が210万人まで、130万人近く上がった、そのことについてもう少し議論してみませんか。

資料:生活保護受給者の推移

長妻:いや、ですから申しあげたいのは、ひとつは先ほど申しあげたのに加えて、たとえば年越し派遣村というのがありましたね。非正規雇用の方が増えて、格差が広がって、相対的貧困率というのを民主党政権で公表しましたけれども、これを過去さかのぼってみると格差を示す指標でもあるのですが、それが拡大をしていると。そのような観点と社会保障の脆弱性、これが出てきたという観点もこれはもちろんあると思います。

松原:片山さんどうでしょう。
この格差の、地域間格差の問題はあとで触れることにして、この全体として200万人だったのが90万人弱になり、また急上昇したということ。

片山:私は実はこの平成6、7、8年の時に大蔵省の厚生労働係の主査をしておりまして、シルバー人材センターの改正とか、その他のいろいろな子どもの関係の児童扶養手当と一緒にこの生活保護を横で見て、みんな、だれもが言っていました。審議会の委員もマスコミの方も。この生活保護はもしも日本に恥の概念がなくなったら、これほど甘い制度はなくてみんなここにいっちゃうわと。外国に比べてもものすごくゆるいというか、就職しなくてもいつまでもいられるようになっていて、世間体が悪いというのがなければみんなこっちにいっちゃうよねと。1兆円じゃ済まないよねと思っていたら、当時主計局長は、日本人は何とかして働くよといっていて、私たち違うよねと思っていたらこうなってしまったのですが、その時に連合(日本労働組合総連合会)、労働関係の2団体が合体して、新しいワーキングシェアという報告書を出してしまったのです。その時に、つまり専門的な知識も含めて、いわゆる派遣なども含めてね、昔のいわゆる完全雇用型の日本株式会社的なものはもう維持が無理だねと。なぜならこの時には円高が79円までいってしまったからです。そうするともう海外に移転するということをある程度……。

松原:この時とはどこですか?

片山:平成7年です。一番ダウンの時です。つまり、一番低い時にこの問題は始まっていて、一番低い時に、景気はそんなに悪くなかったはずなのですが実は円高で日本の産業は傷んでいて、その時に少しでも日本に会社を残したいのであれば連合(日本労働組合総連合会)側がそれこそ、日経連(日本経営団体連盟)側とも組んだうえでね、日本型ワークシェアを提示して、ここからすべてが始まっているのです。で、そうするとつまり、雇用保険に長いこと継続して入っていて、失業手当が延々と出るとかいろんな雇用保障がある人の割合が減っていって、そこからワーキングプア的ではないですけれど、いわゆる就職寒冷期世代もはじまってしまっていて、いま起きていることは、もちろん働ける世代の4、50万人に限ってですよ、働いていたのだけど条件があまりよくなかったので、わりにストンと失業保険が切れたあとにこちらにくることになってしまったのですが、その受け皿としての第2のセーフティネットが、私たちが野党にくだるときに長妻さんたちにお願いしてつくった求職者支援が悪いけど全然ワークしないから、今回新しい支援制度をいまの法律でつくっているのですが、第2セーフティネットできちっと受けなければいけないものがないまま日本に構造的に常用雇用でずっといいサラリーをもらえるわけではない人が一定程度出てしまったと、私はここの方がよほど問題で、安倍政権としてはそちらに手を、光を当てたいと思っています。

松原:ここの増え方がいま議論になったわけです。急激に増えていると。で、この増えた要因が、おそらくいまお二人の間で少し認識が違ったところで、ここは面白いところだと思います。長妻さんは、やはり景気とかそういうような?

長妻:非正規雇用ですね。労働の規制緩和。

松原:というようなことが増えたことが大きいのだと。それに対して片山さんは、日本人の中で、この制度を使えたら、こういう言い方は少し問題かもしれませんが、使えるなら使ってしまえ、みたいな。人の意識もあるし。

片山:まずあの、もらえるものならもらっておこう、働いたら損だ、の意識は確かに増えてしまったのですよね。

松原:それでですね、そのあたりのところで生活保護の制度をどうするかと。これが本当に必要な人が増えたのか、そうではないのかというところもこの制度を考えるときには大事で。ここで少し話題を変えたいと思います。

長妻:少しいいですか? 1点。これは平成で書いてあるのですが、おそらく平成元年というのは、1989年。

松原:バブルがはじけた、そうですね。

長妻:バブルがはじけ、1985年からバブルがはじまって……。

松原:平成元年はこの辺になります。

長妻:バブルの非常に景気がいいときですよね。バブルがはじけて景気が悪くなり、生活保護というのは多少遅い形で出てくるともいわれているので、そういうこともあると思うのですよね。生活保護の先ほどのあの水準、マクロ的な議論も必要ですけれども、では本当に受給者の方にいろいろと話を聞くというようなことも重要なので、少し先ほど金額の話が出ましたけれども、たとえばコンビニエンスストアで3食お弁当を買っている方が生活保護受給者でいらっしゃって、これはぜいたくではないかという議論になったのですが、その方はなかなかスーパーにいって食材を買って、それをつくって何日か食べるということができない。たとえばそういう方がいらっしゃるとか、それぞれ事情があるから生活保護を受けておられる。
先ほども片山さんがおっしゃいましたけれども、そこも本当におさえておかないと、確かに今の私でしたら、かなり安い金額で極限生活で生活をしろといえば生活できるかもしれませんけれども、同じ環境で議論すると非常に誤る可能性があるということも申し添えておきます。

松原:そうですね、ひとつのケースをしっかり見ていかなければいけないのは間違いない事実ですし、それから地域間に格差がある問題も見ていかなければいけませんが、ただやはり日本は豊かになったはずで、景気の変動があるといったところで失業率がそんなに一気に上がったかというようなことを考えると、この増えたことについてもう少し客観的な議論も必要なのではないかと思いました。

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