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アベノミクス第三の矢の本気度 IT分野の成長戦略を問う 神は細部に宿る

アベノミクスの第一、第二の矢が奏功している中、我が国の今後の継続的成長のためには第三の矢である「成長戦略」の実効性が問われている。
OECD事務局長が訪日した際にも、アベノミクスへの支持とともに「成長戦略」の成功が鍵であると述べるなど、海外からの期待も大きい。成長戦略の中でインターネットビジネスを展開している私たちが最も強い関心を寄せているのは、「世界最高水準のIT社会の実現」だ。

・「成長戦略」より「利用規制」?
成長戦略では、「ITを活用した民間主導のイノベーションを推進。」や「世界最高水準の事業環境を実現する規制・制度改革の徹底。」が掲げられているにもかかわらず、成果目標が「2015年度中に、世界最高水準の公共データ公開内容(データセット1万以上)を実現。」と小粒だ。公共データの公開については内閣府を中心に準備が進みつつあるが、公開されるデータセットについて民間で積極的な利用をしたいという声は少ない。一方、「世界最高水準の事業環境を実現する規制・制度改革の徹底。」という点では、民間企業が保有するビッグデータの利用を促進するための事業環境の整備について、具体的目標が示されていない。それどころか、「成長戦略」という名目の下で「利用規制」をもたらしかねない検討が進んでいる。

・インターネットビジネスが成功している国は?
インターネット企業の趨勢を見るまでもなく、これからの国力は、その国が保有するCPUの数、データの数、そしてエンジニアの数が左右するものになっていくと予想される。国内に豊富なデータを集積していくためには、データを自由に使える環境が不可欠だ。
また、インターネット上のビジネスは国境を超えて提供されており、海外企業と同じ競争環境で戦えることが最低限必要だ。その際、どの国の制度が成功しているのかを見ることが重要となる。
グローバルに見渡して、現時点でインターネットビジネスが最も成功しているのは米国だ。一方、先進国でありながら負けている地域はEUであることははっきりしている。プライバシー保護の領域でいうと、EUはプライバシー保護のために極めて厳格なデータ保護規制を持つ。しかし、米国からのサービスを受け入れるために米国との間ではセーフハーバー協定を結んでおり、EU内の米国企業は協定に基づいて、米国内ルールに従えば良い。現在、EUではデータ保護規制を強化するための見直しを進めている。しかし、米国とのセーフハーバー協定については、EU域内の人々からの支持を集めるサービスの継続に配慮して期限を延ばさざるを得ない、という結論に至っている。
一方、我が国では成長戦略という観点よりもプライバシー保護を専門とする法学者を揃えた検討会で議論が進みつつあり、その中にはEU型の厳しい事前規制を志向する有識者も含まれている。アベノミクス第三の矢の本気度が試されているのだ。

・事業体の知恵を生かす
多くの企業がデータを活用したいのは、より良いサービスを提供するためである。例えば、(1)店舗での購入履歴を利用することで、無駄なく適正な発注、製造、配送が確保できるため1つ100円程度と比較的安価でおにぎりが販売可能なこと、(2)インターネット検索の単語と位置データを利用することで、インフルエンザの流行をリアルタイムで知り感染予防につなげられること、(3)クレジットカードの利用履歴を分析して第三者による成り済ましによる悪用を防止できることなど、データ活用により、実際にさまざまなメリットがもたらされ、大きな経済効果もある。
しかし、これらの結果はデータを分析してみて始めて、何のデータをどう分析すれば有用であるかがわかるものでもある。事前に全ての利用方法が分かっているわけではない。私たちが危惧するのは、これから様々な形で活用が広がる可能性がある領域に、制限をかけてしまうことにある。データ利用については、「同意」が必要な場合も、そうでない場合もあり、「匿名化」処理ができるものも、できないものもある。「同意」があれば何でも許されるわけではなく、「匿名化」で全ての問題が解決できるわけでもない。
データ利用は、収集方法、解析方法、開示や利用方法、利用によってもたらされる個々人の意思決定への影響度など様々な要素を総合的に勘案して、妥当性を判断しなければならない。すべての領域について、その判断を適正にできるようなスーパーマンは存在しない。データを利用しようとする個々の事業体は、それらを具体的に理解しており、適切な判断をすることができる位置に近いともいえる。産業上のイノベーションを活性化するためには、産業に携わる人々への信頼を制度として形にすることこそ求められているということを忘れられてはならない。ここをどのような形で制度設計するかは大きな課題であると考える。

・神の形を注視したい
「神は細部に宿る」。成長戦略の本質が宿る細部の設計が、万一、正しくないのであれば、アベノミクスそのものが画に描いた餅ということになってしまう。海外配信コンテンツに消費税が課せられていないことで価格競争力におけるハンディキャップを国内企業が負わされている現実がある。政府は検討をしているものの、来年度からの対応は困難だという事実も、細部に宿る神の形を示しているように感じる。言われて久しいが「ドッグイヤー」で進む領域について「1年」も待つということが、どのような結果をもたらすのかを真摯に考えることが重要ではないだろうか。
私たちは、ITに関する各種の制度に宿る神をみながら、アベノミクスが本物であるかどうかを注視しつづけなければならない。

別所 直哉
ヤフー株式会社執行役員社長室長