Yahoo! JAPAN 政策企画

知財高裁による意見募集(アップル対サムスン特許事件)

今、世界から注目されている日本の裁判がある。知財高裁で韓国サムスン電子と米国アップル日本法人とが争っている特許侵害をめぐる訴訟である。
注目したい点が二つある。一つは知財高裁がこの裁判について行った意見募集手続きであり、もう一つは、知財高裁の判断そのものである。

■■■意見募集手続きへの注目■■■
意見募集手続きは、日本では法制化されていないため、今回、知財高裁はこれを独自に行った。
裁判当事者以外の第三者から裁判の内容に係る意見を募ったのは、知財高裁における日本の裁判史上、初めてのことである。この裁判の帰趨が及ぼすさまざまな影響から、裁判所が判断に慎重を期していることがうかがえる。

3月末に締め切られたこの意見募集に対しては、実に世界計8カ国から58件の意見が寄せられた。知財高裁が思っていた以上に多かったそうだ。Yahoo! JAPANも一意見を提出した。
標準規格に必須の特許(標準必須特許)にかかわるこの裁判は、その判断いかんによっては、ビジネスのあり方ひいては社会に大きな影響を及ぼす可能性があることから、意見募集手続きがなされたことを評価したい。今後も、同様の社会的影響の大きい裁判については、意見募集を行ってほしいと考える。
それにしても、なぜこの裁判にこれほど関心が寄せられているのだろうか。

■■■裁判のポイントはFRAND宣言■■■
アップルの製品が自社の特許を侵害しているとして、まずサムスンがアップル製品の東京地裁に差止の仮処分を申請した。これに対して、予防的に、アップルがサムスンに対して債務不存在確認訴訟(=サムスンに対する損害賠償義務を負っていないことの確認)を提起した。東京地裁は、アップルの主張を認め、サムスンの主張は権利濫用にあたるとして、損害賠償請求権を認めなかった。(平成25年2月28日東京地方裁判所 平成23年(ワ)第38969号 債務不存在確認請求事件

今回の判断において、最も重要なポイントは、サムスンが、係争中の特許につき、ETSI(欧州電気通信標準化委員会)に対してFRAND宣言をしていたことにある。FRAND宣言とは、FRAND条件(公平・合理的・非差別)で、標準必須特許について第三者にライセンスを提供する用意があることの宣言である。
特に通信分野においては、ボーダレスな相互通信利用の実現のために製品等に標準規格の採用が必要であるため、標準必須特許を持っている企業等は、公平・合理的・非差別にその特許ライセンスを第三者に提供することが求められる。そうでなければ、標準規格を採用する企業は、標準必須特許を回避できない一方で、これに基づく差止請求に脅かされながら、高額なライセンス料要求に応じざるをえないこととなる。差止請求の認定がなされば標準規格の普及に悪影響を及ぼすし、ライセンス料の高騰はユーザーの利用料に反映される。こうしたことがもし生じれば、市場を縮小させ産業の発達を阻害することにつながる。FRAND宣言がなされる意義は、ここにある。

-世界各国の関心-
東京地裁は、FRAND宣言をしたサムスンに誠実交渉義務があることを認定し、これを果たさなかった一連の交渉経過を特に重視し、サムスンの権利濫用を認定した。
サムスンとアップルは世界数カ国で同様の特許訴訟を繰り広げている。当事者の自国での訴訟は、それぞれ自国の企業に軍配をあげるものとなっており、当事者以外の国での衡平な判断に注目が集まっている。そのような中、権利濫用により損害賠償請求権を認めないという東京地裁の判断は、世界中で高い関心をよび、引き続き知財高裁の判断にも関心が高まっているのである。

■■■Yahoo! JAPANの意見について■■■
以上のような経緯を経て、知財高裁は、「FRAND宣言がなされた場合の当該特許による差止請求権及び損害賠償請求権の行使に対する制限」について意見を募集した。
Yahoo! JAPANは、1.FRAND宣言がなされた標準必須特許についての差止請求権の行使が産業の発達に寄与するという特許法の目的に反する場合には、その制限が認められるべきものと考えること、2.損害賠償請求権の行使に対する制限は抑制的であるべきものの、一定の条件では原審判断のごとく行使が認められない場合もありうると考えるとの意見を提出した。

-差止請求権の行使に対して-
特許法の目的は、産業の発達に寄与することである。特許権のみならず、およそ知的財産権に基づく差止請求権は、産業の発達や文化の発展に寄与するという法目的を超えて認められるべきではなく、当該法目的に反する場合にはその行使を権利濫用として禁じるべきではないだろうか。
そもそも権利濫用の法理は、明確に定立しているルールの制約を越えて問題を解決するためのものである。判断者が衡平・合理的だと信じたところにしたがって認定されることから、この法理は、恣意的判断回避のために抑制的に用いるべきと一般には言われている。
しかし、技術革新がこれまでにないスピードで進み、制定法が想定していない現実が社会の変動と共に生じている中で、知的財産権の分野においても、これまでに予期していなかった権利行使の態様や利用実態が生じている。知的財産権に基づく差止請求権の行使についての権利濫用の適用は、今後増えていくのではないか、と考えるところである。

-損害賠償請求権の行使に対して-
損害賠償請求の趣旨が私人間の損害の公平な分配にあることから、原則として、その制限は抑制的であるべきだと考える。しかし、FRAND宣言を取り巻く事案の特殊性からすれば、もはや私人間の公平に留まらない問題といえ、個々の事案に応じて損害賠償請求権についてもその行使を制限してよいのではないだろうか。

この意見募集を経て、知財高裁はどのように判断するのだろうか。また、知財高裁の判断に世界がどのような反応をするのだろうか。楽しみである。