Yahoo! JAPAN 政策企画

データでつかむサイバー犯罪動向(3)

1.インターネット上の違法・有害情報
ここまで2回にわたって、各種サイバー犯罪統計を紹介しながら、サイバー犯罪の実態について考えてきました。前回と前々回は、インターネットを利用した詐欺行為や不正アクセス行為など、インターネットを利用した犯罪行為についての統計を確認してきましたが、今回は、インターネット上で流通すること自体が違法とされる情報(犯罪予告、規制薬物の広告、児童ポルノ画像の投稿など)や違法ではないものの問題視される情報(違法行為の請け負い、自殺勧誘など)について、関連の統計を確認してみます(以下、これらの情報を「違法・有害情報」と総称します)。

インターネット上の違法・有害情報への対策としては、警察庁が一般財団法人インターネット協会に委託するかたちでインターネット・ホットライン業務を行っています。この業務は、インターネット協会内に設置されたインターネット・ホットラインセンター(以下、「IHC」といいます )が、国民から広く違法・有害情報についての通報を受け付け、その内容に応じて警察やサイト管理者などへ通報・連絡する取り組みです(詳しくは、こちらをご覧ください)。

IHCが受け付けた違法・有害情報の数や内容については、警察庁やIHCから統計資料が公表されています。今回は、最近公表された平成25年の違法・有害情報の通報状況を確認してみましょう。

【警察庁】平成25年中の「インターネット・ホットラインセンター」の運用状況等について
【インターネット・ホットラインセンター】「平成25年中のインターネット・ホットラインセンターの運用状況について」


2.大幅に減少した通報件数
まず、IHCが受理した、違法・有害情報についての通報件数の総数を確認してみましょう。図1で確認できるとおり、ここ数年、ほぼ一貫して増加してきた通報件数は、昨年に入って、突如、前年比30%以上の大幅な減少となりました。


図1 IHCが受理した通報件数の推移


この数字を報じた新聞の見出しなどにも、その減少数の大きさへの驚きがよく表れています。

[平成26年4月24日共同通信] 違法ネット情報の通報が激減―会員制サイト増などで
[平成26年4月24日時事通信] 通報求む、違法ネット情報=巧妙化か、初の大幅減―2ちゃんねるは削除0%・警察庁
[平成26年4月24日産経新聞] 違法ネット通報3割減 会員制サイト増加で

スマートフォンやタブレット端末が普及し、ますます多くの人が多くの時間をインターネット利用に費やしているなか、インターネット上に流通する情報量も拡大していると考えるのが自然です。そうしたなか、インターネット上の違法・有害情報について、通報件数が大きく減少した理由はどこにあるのでしょうか。

今回の通報件数の大幅減少について、インターネット・ホットライン業務の実施主体である警察庁からは公式な見解は示されていませんが、新聞報道などによれば、警察庁の担当者のコメントとして、会員制サイトや発見しにくく細工したサイトが増えるなど、「違法・有害情報の掲載方法が巧妙化している」との見解が示されています。はたして、実際に会員制サイトの増加など、違法・有害情報の掲載方法が巧妙化していることが、通報件数の減少の原因なのでしょうか。


3.実際に数字を確認してみる
通報内容に関するデータを確認してみましょう。図2は、IHCが通報を受理した情報を、「違法情報」、「有害情報」、「その他の情報」に分類して成24年と平成25年を比較したものです。

図2 IHCが通報を受理した情報件数の内訳


なお、IHCは、その運用ガイドラインにおいて、取り扱う違法情報や有害情報の種類を定めており、図2の「その他の情報」とは、ガイドライン上定められた「違法情報」や「有害情報」に当てはまらない情報のことを指します。

この「その他の情報」の中には、著作権侵害情報や商標権侵害情報など、IHC運用ガイドラインでは取り扱っていない違法情報も含まれますが、そのような情報は数としては少なく、アダルトサイトなどの「子どもに不適切なサイト」などが大きな比率を占めています(IHC公表統計の2-3で確認できます)。

さて、まず図2を確認して気づくのは、IHCが通報を受理した情報のうち、かなりの部分(図2緑部分)が、「違法情報」にも「有害情報」にも分類されない「その他の情報」に分類されているということです。したがって、IHCへの通報件数総数の大幅減少のかなりの部分は、「その他の情報」の減少で説明できてしまいます。実際、通報情報件数の減少分(約7万件)の7割超(約5万件)について、「その他の情報」の減少分が寄与していることがわかります(表1赤字部分)。


表1 IHCが通報を受理した情報件数の内訳


表1からも明らかなとおり、先ほど引用した新聞記事などでは「違法ネット情報の通報が激減した」と報じられていましたが、実際は、違法情報についての通報減少は全体へ1割程度しか影響しておらず、誤解を招く見出しであったといえます。

4.IHCへの通報件数は「インターネットの危なさ」を表す数字なのか
このように、IHCに寄せられる通報のかなりの部分は、「違法情報」にも「有害情報」にも分類されない「その他の情報」であることがわかりました。また、この「その他の情報」のうち、大きな比率を占めるのが、アダルトサイトなどに代表される「子どもに不適切なサイト」であることは、既に述べたとおりです。さらに、このあと詳細を確認しますが、通報される「違法情報」の件数のうち、相当部分が「わいせつ情報」で占められているのです。

これらを総合して考えると、IHCへ寄せられる通報件数のデータは、その総数に着目する限り、私たちの生活に深刻な影響を与えるような「サイバー犯罪」や「インターネット上の危険」の実態を的確に把握する上で適切なデータとは言えなさそうです。

もちろん、このことは、IHCの通報件数に係るデータに有用ではないと言っている訳ではありません。例えば、IHCに通報される情報のうち、総数ではなく、私たちの生命や身体の安全、財産の保護などに対して、より深刻な影響を及ぼす可能性があるデータに着目し、その動向を確認することは、サイバー犯罪への対応を考える上で大きな意味があると考えられます。


5.違法情報の内訳
それでは、実際に通報された違法情報の内訳を確認してみましょう。平成25年にIHCに通報された違法情報の数は、約3万件であり、前年比で8,562件減少しました。この減少のうち、どのような情報がどの程度減少したのか、内訳を示したのが表2です。


表2 平成25年に通報された違法情報の内訳


表2からも確認できるとおり、通報された違法情報のうち、最大の比率を占めるのが「わいせつ画像等」です。結果的に、違法情報全体の減少分(8,562件)の相当部分(41.6%, 表2赤字部分)をわいせつ画像等の情報の減少で説明できます。

次に、私たちの安全などにより関連の深い、深刻な犯罪に結びつく恐れがある違法情報の動向を確認してみましょう。表2に示された違法情報のうち、こうした情報に該当するのは、「薬物犯罪の実行を公然とあおる情報、規制薬物広告」や「通帳、携帯電話の譲渡等の勧誘・誘引」などが挙げられます。

これらの情報についての通報件数を確認してみると、それぞれ通報件数は大きく減少しており、全体の通報件数の減少に対する寄与度も大きくなっていることがわかります(表2青字部分)。薬物犯罪や通帳・携帯電話の譲渡など、インターネットを利用した犯罪が大幅に減少しているとのデータは他の統計からも確認できませんし、この部分についての通報件数が減少したというのは、警察庁が説明するように、会員制サイトや発見しにくく細工したサイトが増えるなど、犯罪の手法が巧妙化している可能性があり、今後も注視していく必要があります。


6.終わりに
いかがだったでしょうか。これまで3回にわたって、さまざまなサイバー犯罪関連統計を紹介してきました。これらの統計をみなさんと確認しながら、お伝えしたかったメッセージは、2つに集約されます。

1つは、私たちが普段見聞きする「サイバー犯罪」や「インターネット上の危険」について、私たちがぼんやりと持っているイメージと実際のデータが示す実態は異なっていることが多いということです。

もう1つは、サイバー犯罪などの実態を捉えるためにデータを把握することは大事ですが、他方で、限られたデータをもとに全体を判断してしまうと、結局、サイバー犯罪の実態を捉え損ねてしまうということです。変化の速いインターネットの世界で行われる犯罪を正確に数字で捉えることは容易ではなく、それぞれのデータにはさまざまな限界があります。データの解釈に当たっては、その特性を踏まえるとともに、さまざまなデータをバランスよく確認することで、サイバー犯罪の実態に慎重に迫ることが重要なのです。