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熟論5【9】まとめ

別所:最後に3人の先生方から、今日の議論を踏まえてひと言ずつ総括ではないのですが、ご意見をいただければと思います。それでは、関口さんからよろしいでしょうか。

関口:繰り返しになるかもしれませんが、今、日本が変わらなければいけないし、変われる最後のタイミングではないかと思うのです。2010年から人口が減少に向かっていて、国内の人口はどんどん減っていきます。私もいろいろな海外の国でIT系の取材に行くのですが、特に最近、力があるというか、伸びているというか、競争力があるのは、例えばフィンランドだとか、シンガポールだとか。必ずしも人口が多いところではなく、中堅、中小の国のほうが、元気がいいのですね。それがなぜかというと、新しいそういった情報技術のようなものを活用して、少ない人数でも生産性を高められるような、そういう仕組みを作っている。さっきのアイルランドでいえば、そのために、企業を呼び寄せるために法人税も引き下げてちゃんと呼んでくる。というようなことを、戦略を持ってやっているわけです。日本は嵩が大きいのでなかなか同じようにはいかないのですが、せめて、そういった岩盤規制のところもそうですし、特にこれから出費が重なっていくような分野というのは、どうやって効率よくしていくのか。生産性を高めていくのかということで、少ない人数でも、少ない就業人数でも国の経済がちゃんと回っていくという仕組みが大事ではないでしょうか。
それと、今までの議論の中で出なかったのですが、グローバル戦略ですね。今回の成長戦略をみて、「グローバル」という言葉はいわゆる枕詞として何度も出てきているのですが、「グローバル戦略」という言葉は1個も出てこないのです。「国際戦略」も1個も出てこないのですね。確かに、海外展開と最後のところに少しは書いているのですが、それは外国人観光客を呼んでくるとか、そういうことの話であって、本来の日本の企業が海外に行って、ちゃんとビジネスをしてその上がりを国内にフィードバックする。この仕組み、それから海外の企業が日本にどんどん投資で入って対内投資を高めていく。このへんのところがあまり描けていないような気がしていますので、グローバル戦略、内と外に向けたグローバル戦略、これもやっていく必要があるのではないでしょうか。

別所:ありがとうございます。竹中先生、いかがでしょうか。

竹中:この間ある会議で、内閣府大臣政務官の小泉進次郎さんがこういう発言をしたのですね。「2020年まではオリンピックもあり、日本経済は何とか前に行けるのではないだろうか。そのチャンスである。しかし、2020年を過ぎると、見たくない現実がすべて見えてくるのではないだろうか」。非常に示唆に富んだ発言だと思います。このままで社会保障制度が成り立つはずがないし、人口減少に対して本当にどう対処するのかと。いつまでもいろいろなことに反対していて、労働市場の改革が進まないと、女性の参加率も進まないし。本当に日本経済はどうなるのだ。そういう意味では、2020年のオリンピックをチャンスとして活かしながら、数少ない日本の好機であるというような、ある種、建設的な緊張関係を持った捉え方で、いろいろなことを実現していかなければいけないと思います。
それとの関連で、冒頭で、ダボスで総理が4つの約束をして、それが実現の方向に向かっているようだと見られていることが、このパーセプションが大事だと申し上げましたが、これを着実に制度化実現させていくことが重要なのですが、次の段階の総理の国際的な公約というのをやはり考えなければいけないと思うのです。その点でいうと、実は今の内閣は、良くも悪くも経済産業省の官僚が非常に強い影響力を持っていて、その人たちが頑張って、こういう労働市場改革などをやっているのは事実です。逆に、経済産業省主導なので、弱いというか抜けている部分がある。それはやっぱり金融だと私は思います。
それとの関連で、金融ですね、今回の中に、コンセッション、インフラの運用権を民間に売るという計画を、去年から10年で3兆円というのを、3年で3兆円と前倒ししてやろう。その中で、例えば大阪は地下鉄をコンセッションにかけたい。上水道をコンセッションにかけたい。浜松市は上下水道をコンセッションにかけたい。宮城県の村井知事は、仙台空港もコンセッションにかけるということで、140社が集まってもう議論が始まっています。このバランスシートを活かして、それを民間に開放していく。これは、オーストラリアは資本のリサイクルというふうに呼んでいます。大変、重要な政策だと思います。というのは、アメリカはGoogleなどの特別な会社がありますが、イギリスで企業価値の大きな会社というと、BAとかBPとか、元国営企業なのです。日本でもトヨタを別格とすれば、NTT、NTTドコモ、元国営企業です。それと、ソフトバンクでさえ、その中に元国鉄の一部の日本テレコムが入っているわけで、やはり政府が持っている巨大な資産を民間に任せて、それで民間の活力で活性化してもらう。その分、財政にはお金が入ってきますから、そのお金で新しい必要なことをやっていく。この資本のリサイクルというのが、私は次の非常に大きな骨太の成長戦略、活性化戦略になっていくのだと思っています。しかし、これにはそこで働いている公務員をどうするのだとか、ものすごい抵抗が強い。でも、それをぜひ、次の段階で掲げられるように私は主張したいと思いますし、そういう方向で物事を考えていっていただきたいと思います。

別所:ありがとうございます。伊藤先生、いかがでしょう。

伊藤:今、経産省が、非常に影響力があるというので思ったのですが、実は私、経済産業省で「稼ぐ力研究会」をやるので座長になってくれ、と。もう1年前ぐらいですか。変な言葉だなと思いながらも、大事なことだと思い、引き受けたのですが、今回はそれがまさに政府の文章の中にも入ってきていて、そういう意味では宣伝なのですが、経産省の「稼ぐ力研究会」、資料もご覧いただいたらいいと思うのですが。ポイントは、今日何回も議論になったように、ボールは政府の側ではなくて民間側のコートにあるのだということで、民間がこれからどう動くかということがカギだと思います。
1年ほど前に、ソフトバンクがアメリカのスプリント・ネクステルという携帯電話会社を買収したことがあって、世間が驚きました。1兆5000億円の借金をして2兆円の買収をするわけで、しかも買収先は、アメリカの1位に大きく引き離された3位で、5年ぐらい確か赤字が続いている会社で。孫さんはそれの広報もあるのでしょうが、たまたま私がその晩に出ていたワールド・ビジネス・サテライトという番組に出てきました。私が孫さんに聞きたいことは1つしかなかったのですね。「孫さん、こんな投資をして大丈夫なのですか?」。でも彼はニヤッと笑って、「伊藤さん、ここで勝負しなければ男の子じゃない」と言うのですよ。「何ですか?」と聞いたら、「お金はジャブジャブある」と。だから、日本にないのはお金ではなくて、リスクをとって勝負すること。それが彼の言うところの男の子だろうと思うのですが。なかなか、本質的なところを突いている話だと思います。そういう意味では、もちろん、こういう制度改革をしたり、いろんなデフレ脱却をしたりというのは非常に大事なのですが、それはあくまでも環境設定であって、ここから本当に日本の企業が動いていくのかどうかというところがカギになるわけで。そこが、我々がしっかり見ていかなければいけないのかなと思っております。

別所:ありがとうございました。今日は、新成長戦略について3人の先生方からいろいろなご意見をうかがいました。新成長戦略が公表されたということだけでなくて、今日もいろいろ議論していただきましたように、実際にこれが実現していくということが非常に重要だと思っています。そのうちの半分が、話に出ていましたように、「民間側に頑張れ」と言っているわけですから、民間側としてもできることをやっていくのだという覚悟が必要だと思っています。もう1つはこの中にも書かれていますし、今日も何回か触れられましたが、ラストチャンスと考えて、今の危機感というのを国民が共有していくことが重要ではないかと思います。今日は新成長戦略についていろいろなお話をうかがうことができて、非常に大切な時間だと思いました。3人の先生方、ご参加いただきましてどうもありがとうございました。