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熟論5【7】岩盤規制に対する取り組み

別所:先ほどから少しお話がでている農業ついて、お話をうかがえればと思います。

これが、攻めの農林水産業の展開ということで書かれているものになっています。農業改革のところは最初にも少し触れましたように、従来岩盤規制の一角だと言われ続けている分野なのですが、今回の成長戦略について、竹中先生は農林水産業分野に関してはどのように評価されていますか。

竹中:この問題に関しては、実は規制改革会議で担当されたのは、フューチャーアーキテクトの金丸さんという方です。金丸さんが頑張ったので、ここまで来たと私は思います。それに対して、産業競争力会議でも新浪さんが担当して、それをバックアップして、2人でここまで持ってきたということだと思います。
もっとこうやったらいいのではないかとか、我々は学者だからいろいろ議論できるし、もっと自由化したらいいじゃないかと。しかし、なかなかこうならない理由は、いくら理想的なことを言っても、最終的には政府と与党一体で議院内閣制が成り立っていますから、与党の成長部会、総務会で認められないと、本当に絵に描いた餅に終わってしまいます。ただ、最終的には与党でどこまで認められるか、ここまでだったら認められるという交渉を担当の省庁とか、場合によっては担当の政治家とやって、それでこういう結果が出てきているわけです。
その意味では今回、農協の話に初めてある種手をつけた。農協の改革は、半世紀ぶりの改革だと思います。半世紀ぶりに農協に手がついたということは大きい。そして、この中にありますが、特区の中で農業委員会が作られて、農地を転用したり、農地の新しい売買をする時は、地元の農業委員会の承認が必要です。その農業委員会というのが、地元の農業関係者のボスのような人が形骸化して、結果的に農地、農業に対して新しい参入ができません。休耕地がすごくたくさんあるのをご存じだと思いますが、休耕地というのは、その農地を使いたい人がいても使わせないから休耕地になるわけです。そういう農業委員会、それを今度、養父市というところが特区で、その機能を実は市役所に移します。ちょうどたまたま、この瞬間、菅官房長官はこの養父市に、視察に行っています。そういうこともできるようになったという意味で、非常に大きな一歩になった。これが実は突破口になって、新しい化学反応が起きてほしい。例えば、おおそうかと、新しいことを養父でやるのだったら、例えば愛知県の農業関係者がそこに進出する発表をしたり、例えば新浪さんがローソンファームを作ってもいいよと発表したり、新しい動きが出てくる。小さな動きです。これはサプライサイドの改革ですから、伊藤先生が言われたように本当にすぐには結果が出ないのですが、新しい動きが目に見えて出てくるということが期待されているのだと思います。
ただし、さきほど言ったように、交渉は相手があるわけで、やはりなかなか落ちない岩盤もあります。それは農業生産法人、つまり企業形態で農業をやろうと思ったら、普通の株式会社では農地を持てなくて、農業生産法人にしなければいけません。その農業生産法人には、株主の要件というのがあります。例えば何割以上が農民でなければいけないとか。これにはまだ、手がついていません。何とかここを突破して、そうすると株式会社が本格的に農地を所有してもっと大規模な農業をできるでしょうし、そこにIT投資を行ってオランダ型の農業にすることもできるでしょう。ご承知のようにオランダという国は、国土面積、日本の9分の1しかありませんが、今、世界で第2位の農産物輸出国です。1位がアメリカで、2位がオランダです。カナダやオーストラリアよりも、オランダのほうがたくさん農産物を輸出しています。日本もそうなれる可能性があるわけですから、そこに企業が入って健全な競争の中でイノベーションを起こしてもらう。その入り口に立ったということです。

別所:ありがとうございます。入り口としての価値をどれだけきちんと理解することかなと思っております。伊藤先生はこの点についていかがでしょう。

伊藤:農業や、後の医療も似たところがありますが、規制や制度だけみると確かに岩盤でなかなか難しいように思えますが、現実はすごく変わってきていると思います。例えば、これは誰かがきちんとやるべきだと思いますが、日本の農業における金額で、いわゆる競争力があると定義できればという話ですが、農家によって売られている農産物は全体の何割ぐらいなのでしょうか。私の直感ですが、半分以上はそういうところに出ている。果物や野菜は皆そうですし、米でもそのようなところはいっぱいあるし、あるいは酪農でもあるわけです。ですから、現実はこういう規制の中にどっぷりとつかっている人たちが日本の農業の中心にいるのではなくて、経済活動としては、結構そうではないのでしょう。私はTPPに非常に関わったのでよく知っているのですが、いわゆるプロ農業といわれている方と随分付き合って、彼らは、まさにTPPこそ日本の農業を変える非常に良いチャンスだと言っています。ですから、そんな背景がある中で、政治の役割は現実の動きを止めているかもしれないものに対して、一つひとつ直していくというか、マジックはありませんから、それこそ10も20も50も100もいろんな制度一つひとつを薄皮のようにやっていかなければいけないということと、それから流れがもうこっちに動いている。
攻めの農業などという言葉は、おそらく10年前、20年前はなかったと思います。どうやって日本の農業を守るかという話が多かったわけですから。だからこういう流れは大事にしていく。医療も同じだと思います。現場の今の医療の問題を考えて、ここままではいけないと考えているお医者さんはいっぱいいます。ですから、後でまた出てくる混合診療の話なども含めていろいろな改革が出てくるわけで。竹中さんがおっしゃった株主の話がありますが、ああいったものもやろうとする人がいてできないから話題になるわけで、恐らく30年前ぐらいだったら誰もそんな話をしなかったと思います。だから、現実の変化と制度の変化をいかに政治が現実に追いつくかという意味では、今回のことは非常に大事だと思います。

別所:ありがとうございます。関口さん、いかがでしょうか。

関口:岩盤規制というと雇用、農業、医療などと言われますが、私は全部おしなべて言って良いのだろうかと思います。医療はいまだに岩盤だと思いますが、農業と、先程言った雇用のところは、かなり崩れてきているように思えます。農業でいえば、農業の就業人口が全体の3%を切って、2%いくつという状況になってきて、もう担い手がいないというのが、実際に働いている農業の方が自分たちも相当わかってきている。全中や全農の方はわかりませんが、実際に携わっている方がその状況をわかっていて、何とかしなければいけないということで多分にスタンスが変わってきているのではないでしょうか。それを岩盤規制ということで、ことさらプレイアップすることは良いのですが、やはりそれを変えていかなければいけないという意識が少しできつつあるのではと私は期待をしていまして、だからこそこのタイミングでやらないとどうにもいかなくなる。先程のお話にもありましたように、やはり生産性をどう上げていくかはキーになりますから、いわゆるビッグデータや、ITなどのツールを活用して、農業の生産性を少ない人数でもちゃんと高めていけるような仕組みに変えていくという意味で、今回の農業規制において、規制改革は非常に大事だし、やるべきだと思っています。

別所:ありがとうございます。今もお話が出ていましたけれども、農業と並んでもう1つ、医療があります。

医療については、ここに書かれています健康産業の活性化と質の高いヘルスケアサービスの提供がうたわれています。農業もそうですが、医療も岩盤規制の1つだと言われていて、なかなか変われなかった分野ですが、竹中先生はここについてはどのようにお考えでしょうか。

竹中:岩盤規制という言葉が良いかはともかくとして、もう10年も20年も前からこれはおかしいのではないかと議論されているのに、非常に強い既得権益を持った人たちが強い政治力をもって変えることを阻んできているもの。その1つの典型が農業ですが、もう1つの典型がこの医療の、その中で特に分かりやすい例で今日いらっしゃっている皆さんはご存じかもしれませんが、意外と皆さん知らないのは過去35年間、この国では新しい大学の医学部が1つも作られていないということです。
すごいと思いませんか。35年間、新しい学部がないのです。一番新しい学部は、1979年に作られた琉球大学の医学部で、それ以降もいろんな大学が医学部を作りたい、作りたいと言っているわけですが、お医者さんの団体が医者の数を増やすなと。医者の数を増やしてほしくないと。今までのような居心地のいいところにいたいということで、結果的に何が起こっているかというと、このお医者さんの数というのは国によって随分開きがあるのですが、OECDの国をみてみると、大体人口1000人あたり、3人から6人の間におさまっています。日本は人口1000人あたり2人ですから、明らかに少ない。
面白いのは、どういうわけか日本のお医者さんは西日本に偏っていて、東日本がすごくお医者さん不足で、だから今、東北で大変なことになっている。今度、これを特区で何とか新しい学部を作りたい。さっきから新陳代謝とか、稼ぐ力とか、そのためには健全な競争が必要ですが、35年間新規参入のない業界はろくな業界ではないと思います。でも、そういうことが現実に起こっていました。
それに対して今回、特区の枠組みを使って突破口を開こうというのは1つの議論です。医療は成長戦略だけではなくて幅広い議論をしなければいけないのですが、成長戦略に関してもう1つ言うと、この間安倍総理が、もう数か月前ですがミャンマーへ行って、ミャンマーにおいてODAで非常に立派な病院を作るということをおっしゃった。これは本当に良いことだと思います。ODAとして大変意味のあることだと思いますが、病院ができたとしてそこで働くお医者さんはどういう人なのかというと、日本の大学の医学部で国際的に活躍できるお医者さんを作れるようなところはなかなか思い当たらなくて、結局、イギリスやアメリカのライセンスを持った人が来て、イギリスやアメリカの薬を使ってそこの医療機器を使うことになります。そうすると、日本全体の医療システム、日本の医療は良いのだと言いながら、それを実は現実には使えない。その意味でも国内の医療がもっと柔軟に国際競争力を持てるように変わらなければいけないと思います。
伊藤先生が後で話されるかもしれませんが、医療費というのは、これから年金を上回って社会保障の一番大変な部分になります。そういうことも踏まえて、柔軟な医療費のあり方、医療のあり方を考えなければいけない。そこに出てくる1つが混合診療といわれるものです。いろんな診療がある中で、日本の保険制度、皆保険制度はある意味でとても素晴らしい。間違いないのですが、そこから少し離れた保険外のことをやると、全て保険の適用は認めないということで大変な金額を払わなければならない。
田原総一朗さんが、奥さんが病気になった時に一部自由診療にしようと思ったら、一気にその費用が10倍ぐらいになるということを聞いてびっくりしたそうです。そういう混合診療について、今までは混合診療という言葉は使わずに、高度先進医療、併用医療という言葉を用いていましたが、それについて今まで15の病院でしかできなかったものを、15の特定の機関が関係を持っている医療機関についてはこれを当てはめようというのが、今回の成長戦略の規制緩和の中の1つの大きな部分になっています。問題は、15の特定の機関と関係を持っているというのが、どの程度の関係を認めるかによって、それが150になるのか100になるのか、1500になるのかよくわからない。これも今後の制度設計次第だと思います。いずれにしても、医療は単純に市場の中だけでは解決しない。これはみんなわかっていることですが、しかしそれにしてももう少し競争的なメカニズムを入れて、私たちの医療サービスを良くするためにも、経済を活性化するためにも使おうという中身になっていると思います。

別所:ありがとうございます。医大の件はご存じない方もいらっしゃると思います。今のお話を聞いて、かなり驚かれたのではないかとも思います。実際、医大は西高東低になっていて、これは調べたお医者さんがいらっしゃるのですが、もともと東北地方に医大ができなかった1つの理由が、戊辰戦争にあると言われています。ですから、100年引きずっている問題が今回のことで解決に進めば、非常に大きなことではないかと思います。今おっしゃっていたように、医療制度は保険制度と密接不可分な関係にありますし、産業に関する期待度もあるのですが、どうしても点数や保険の中でしかビジネスができないという制約が課せられているところでもあります。その中で今回、一部ですが混合診療が拡大していくということが開かれたわけですが、長期的にみて健康産業の位置づけと産業としての期待を伊藤先生はどのようにお考えでしょうか。

伊藤:成長戦略を考える時に、医療をどう位置づけたら良いかというのは大事な問題で、よく比喩で言うのですが、日本経済は長い列車のようなものです。ものすごくパワフルな機関車が必要なのです。それがITなのか、新しい産業技術なのか、イノベーションなのかわかりませんが、全部の車両がすごくパワフルな機関車だったらどこに向かって走っていけば良いかわからないので、それなりの快適で効率性が高い客車は極めて重要で、医療はその部分が大きいと思います。ここをしっかりやっておかないと、限られた財政資金の中で我々が期待するような医療は受けられないだろう。そういう意味では、他の成長戦略とは少し違うかもしれませんが、極めて重要な成長戦略だと思っております。
さらに申し上げると、勝負はこれからです。日本の医療費の問題はいろいろと挙げることができますが、あえて1つだけ数字を申しますと、日本の我々国民が医療に使っているお金をGDPで割ると、要するにGDPあたりの医療費になるわけですが、大体先進国の中で真ん中、それより少し下にさえあるのです。平均を大幅に上げているアメリカがあるために数字はかなり歪んでいますが、これだけ世界で最も高齢化しているにもかかわらず、ここまで医療費を抑えてきたのはそれなりに成果を認めてあげなければいけないと思います。結果として、我々の平均寿命が世界で最も長い。理由は医療よりも日本食だと言う人がいるからわかりませんが。ただ、これからどんどん高齢化が進んできますから、この先はこのままではいかないわけで、ある意味では非常に良いタイミングで、ここでやれることをきちんとやるという意味では混合診療やICTの利用もそうですし、医療についてはもっと大物がいくつかありますが、そういうものを含めてこれから議論していくことが非常に重要です。失敗すると、もちろん成長だけの問題ではなく日本の財政そのものがおかしなことになってしまいますから、より多くの人に関心を持ってもらいたいと思っています。

別所:ありがとうございます。関口さん、いかがでしょう。

関口:最初の法人税の話とも関連しますが、やはり税金の相当の金額がここに消えている。これに歯止めをかけていかないと、この国は成り立っていかないのではないかと思います。日本の場合、国民皆保険という、これはこれで素晴らしい制度なのですが、それにあぐらをかいて過剰診療、重複診療、あるいは過剰投薬など、こういったものが平気で行われています。ついこの前も、指を切って病院に行ったのですが、そうしたら「2週間お薬出しますね。」と言われました。「2週間も薬なんか飲めませんよ。」と言ったら「3日にします。」と、その場で変えてくれました。では、その2週間の根拠は何だったのかと問いただしたくなりますが、そういった形でユーザーのチェックが入らない珍しい商行為、というと変ですが、医療行為というのはそういう意味ではお客さんとサプライヤーの間で価格が決まらない珍しい業界です。そういった中で、今言ったようなことが起きている。混合診療も新しい技術を開発するという意味では前進でいいと思いますが、一番医療業界が気にしているのは、それによって国民の目が支払いに対して厳しくなることを恐らく懸念していると思います。
実際、2006年のIT新改革戦略では竹中さんが骨折りされましたが、あの時に例えばレセプトですね。レセプトの完全オンライン化ということを2010年度までにやるとうたったのですが、その後の麻生政権の時に文言を変えて、「地域医療の崩壊を招かぬように」という一言が入りました。これはどういうことかというと、地域の開業医のお医者さんが儲からなくならないようにという意味です。それによって結局、さっきの話ではありませんが、せっかく決めたことを骨抜きにしてなかなか実現していないという中で今の状況がまかり通っている。ですから、これを何としても変えていくという意味では、再三申し上げていますようにITや情報、特に過剰診療とか重複診療というのはレセプトやそういうものをちゃんとデータで明らかにすればすぐわかる話ですので、そういったところを合わせてやっていく必要があるのではないでしょうか。

別所:なるほど、ありがとうございました。