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熟論5【5】雇用改革について

別所:次に雇用のところについて、お話をうかがいたいと思っています。

柔軟で多様な働き方の実現ということがうたわれています。時間で計るのではなくて、成果で計っていくことで働き方の見直しができるのではなかということが記載されています。ここはかつて、ホワイトカラー・エクザンプションの話がでた時に散々議論をしてなかなか進まなかったという苦い経験もあるのですが、今回もう一度同じように成果で計っていく働き方が柔軟な働き方の1つとしてあるのではないかという提案がされていて、ここは非常に重要な提案ではないかと思っております。この点について、先生方のご意見を少しうかがいたいと思っています。伊藤先生からお願いします。

伊藤:雇用の改革が大事ということは多くの方が思っていると思います。ただ、いろいろな働き方があるものですから自分に照らし合わせてその改革が自分にとって本当に得なのかみんな考えてしまって、逆に言うといろいろな反対意見もあるということで。ですから、私はこの話はどちらかというと外で見ていたものですので、傍観者的な言い方で申し訳ないのですが、これはとにかくまず突破口を作る。それが今回のいわゆる年収一千万円以上のホワイトカラー・エグゼンプションで、それで成功を少し見せてさらにその先、いろいろな改革をしていくしかないかなと。ただ、明らかなのは、今までの働き方や制度の延長線上にはなかなか日本の明るい未来を描くような形はないと思います。そういう意味で第一歩だと思います。
もう1つ申し上げたいのは、今いいチャンスなのかもしれないですね。これだけ雇用が詰まってきていて、失業率が3.6%ぐらいまできていて、どちらかというといわゆる失業問題、雇用問題というよりは、人をどうやって確保するかというのが大きな話題になっている。こういうマクロ環境を背景に、いろんなことを改革していくのだろう。だから、また後ほど出てくるかもしれませんが、ブラック企業についてよく議論されていますが、ある意味でいうと、非常に雇用条件が悪い状況の中で生まれてきた部分があるわけですから、そういう意味で今日本の雇用が抱えている問題はトータルにこれから解決するために、これを上手く使いながら一歩一歩進めていけばいいと思っています。

別所:ありがとうございます。竹中先生いかがでしょう。

竹中:経済成長の源泉は労働である、働くことだと、まさにアダム・スミス以来ずっと認識された一番重要なポイントで、やはり我々がちゃんと働かないと、働くための1つの組織、器が企業であって、そのコーポレートガバナンスはもちろん重要ですけど、しっかりと働いてそれが経済を高めていく。同時に、個人からみても働くということが極めて重要なのですよね。個人と社会の接点です。やはり経済的に自立して、給料をもらって自分や自分の家族を支えないと生きていけないわけですし、自己実現の場でもあるし、本当に基本中の基本なわけです。
私が、実は先ほど、成長戦略が発表される10日ほど前までは50点くらいしか取れないと思ったのだけれど80点だった。最大の要因は、実はここなのです。時間で計る労働というのは確かにあります。何時間働いたからいくらというのは大変重要なことで、これからも重要です。しかし、例えばこのプロジェクトをやってくれ、これだけのレポートを書いてくれ、こういう成果を出してくれ。それに対して成果、対価を払う。知識産業になってくればなるほど、そういう働き方は現実に周りですごく増えているわけですよね。そういう働き方も認めようではないか。今までの働き方が別に悪いのではないが、そういう働き方も認めようという議論もずっとして成果に基づくということを言ったわけですが、厚生労働省は最初から絶対認めようとしなかった。議論の途中で田村厚生労働大臣が私的な意見として、「年収7000万とか8000万とか特別な人には、そういうことがあり得るかもしれないね」という話になった。ところが最後1000万になりました。
私、ちょうどこのプロセスの時に海外出張していたのですが、海外出張の途中でいろいろな情報が入ってきて1000万になったと聞いて、これ本当かなと思いました。まさに4大臣会合でそこまで下りていったということだと思うのですが、これは総理官邸、菅官房長官、甘利さんを中心によくやられたなと思います。だから、大きな一歩なのだと思います。これからも多様な働き方を認めましょう。繰り返し言いますが、日本の典型的な働き方、終身雇用、年功序列というのは、それにふさわしい働き方だったから定着したわけです。政府が別に決めたわけでもなくて定着したわけで、それはそれで今でも大企業の製造業のように適した企業がいっぱいあるわけで、それは続ければいいです。しかし、たぶんそういう中で働いている人たちというのは全体の中でみると2割ぐらいしかいないのではないかと思います。
従って新しい働き方、特に女性の労働参加率を高める。高齢者もどんどん働いてもらわなければいけない。私や伊藤さんの年齢でいうと、就職していたらほとんどリタイアしているわけですが、たぶんまだまだ働けますよね。そういう人が働きやすいような、週に何日働きたいとか、多様な働き方を認めるということの非常に大きな一歩が踏み出された。この労働問題の非常に難しいのは、ILOのもとになったフィラデルフィア宣言というのがあって、働き方の問題というのは大変重要だから、労働者と雇う方と政府と3者で協議しなければいけないということになっている。協議は必要ですが、その場として労働政策審議会というのが設置されていて実は今回も、1000万円ぐらいの枠で新しい働き方を認めるが、具体的な制度化は労政審で議論するということになっているわけです。労政審はこれまでそういう働き方に、我々が提唱したことに対してずっと反対してきた人たちで、そこで議論されるということで先ほど言ったようにこれから本当に制度化がなされるかどうかをしっかりと見て、言うべきことを申し上げていかなければいけないかなと思うのです。
難しいのは、労働者の代表は、誰ですか?労働者の代表といって労働組合の連合とかの代表が出てきますが、労働組合の組織率なんて今2割とかでしょう。あそこに出ている人は、私も労働者ですが、私の代表だとはとても思えない。労働者と働く側と雇う側と政府が3者協議しなければいけないが、本当に労政審が今のままでいいのかとか、そういう問いかけもしながら本当にきちんとした制度設計ができて、何度もいいますけど、いろんな働き方を認めようと。ようやくそういう方向に踏み出そうとしている。そういう位置づけだと思います。

別所:ありがとうございます。関口さん、いかがでしょう。

関口:雇用はやはり大事な話だと思います。雇用の中でも企業を越えての雇用の話と、企業の中の雇用の話とあると思うので。企業を越えてというのは文字通り雇用の流動化ということで、いろんな働き口を求めて人々が移動していけるような環境、これは現場の社員もそうですし、さっき話に出た経営者も含めて、そういった形で横の移動ができる仕組みをどうやって作っていくかというのが企業を越えての雇用の問題として大事だと思います。企業の中でいえば、多様な雇用形態ということでいろいろな働き方をそこで認めなければいけないと思うのですが、日本の場合はやはりモノづくりで大変に成功を収めたということで、モノづくり型の雇用形態というのが一番いいのだと信じてずっときてしまった。
何かというと、時間管理なわけです。工場の管理というのは朝8時に来て夕方5時までラインが動いていますから、その時間にそこにいてもらわなければ困る。ですから、必ず会社にはやってくる。ここで対面とかが重視されるわけですが。ところが、今見ていただくと、大企業、製造業の日立だとか東芝だかそういった大企業を見ていただきますと、実際の社員の8割方がホワイトカラーです。現業というか、いわゆるブルーカラーは2割ぐらいしかなくなっている。そうすると、2割の働き方はそれでもいいのでしょうけど、その働き方を本社ですとかにも当てはめて、工場が動いているから本社も出てくる。こういう仕組みになっているわけです。
大事なのは、国際競争の時代になっているわけですから、いかにホワイトカラーが短い時間でより付加価値の高いものを作って、それを対外的にも売っていけるか。こういう勝負になっている時に、モノづくり型の、言ってみれば運動会方式の参加することに意味があるという雇用形態のまま引きずっていると、これは国際競争の中で立ちいかないのではないかと思います。

別所:ありがとうございます。今の労働法制、労働基準法を中心とする労働法制が、製造業を中心とした雇用形態が主流だった時に確立したまま、ほとんど変えることができていなかったという矛盾がずっとここまできていて、そこに対する挑戦を今回の新成長戦略の中で打ち出しているのが、この部分ではないかなと思っています。先生方もおっしゃったように、今の雇用の環境そのものが、労働基準法が制定された当時とだいぶ違ってきています。パッチワークとして裁量労働制とかフレックスタイムというものはすでに導入されていますが、それでは追いつけないほど産業構造が変わってしまっている中で、労働法制が取り残されているということを象徴しているのかなと、お聞きしながら考えていました。
竹中先生もおっしゃっているように議論をしていくとしても、今の労政審の構造が本当にそれぞれの代表者で構成されているのかということがやはり重要だと思っておりますし、法律を変えていくということであれば、立法事実が重要ですので、立法事実をきちんと説明できるような代表者が集まった場を形成していっていただきたいなと思いました。

伊藤:今度、労働の話についてもうちょっと大きな話を1つだけさせていただきたいと思うのですけども、成長戦略の話ですから今何がってあるのですけど、やっぱり働くとか労働とか雇用というのが確実に変化してきていて、そういう将来のトレンドの話、先ほど関口さんもおっしゃったモノづくりマインドが強い働き方とのギャップを意識しなければいけないのかなと。
それを説明するためによく使うのですが、働くということには3つの英語の対語が思い浮かんで、1つ目がlaborという肉体労働をする形、2つ目がworkというまさにホワイトカラーの仕事をする、3つ目はplayですよね。例えば、ヤンキースの田中投手とか小澤征爾さんはplayerといいますが別に遊んでいるわけではなくて仕事しているわけですよね。産業革命で機械がlaborをどんどん奪った時に労働者が怒ったのです。それで、機械を打ち壊したわけですよね。確かに自分たちの仕事が奪われるわけですから、けしからんという話だったわけですけど、確かにそういう面はあるのだけど、長い目でみたらああいう形で機械が入ったから我々今、船の底でかじを漕がなくていいわけですし、要するにlaborからかなり解放されたわけで、workが中心になりました。製造業の中でもworkerの仕事が多くなりましたが、これが今すごく変わってきている。
さっき、20%ぐらいの人がいわゆる組合の参加であるというような話も含めて、workerから長い目でみるとplayerの方向に大きく変わろうとしている中で、worker型の雇用制度を考えていかなければいけない。それも急速に制度を変えると、自分たちの仕事を壊すのではないかという、まさに労働の打ち壊しみたいなことが起きているわけですが、現実問題として多用な働き方をしているというのは根底になる問題が非常に重要で、これは日本だけではなくて海外でもそういう議論がずっと行われているわけで。そういう形でみると、おそらく雇用改革や労働改革はマジックがあって1年、2年で全部変わるということではないと思いますが、今回のホワイトカラー・エグゼンプションが重要なことは、そういう流れの中でこういう働き方もあるのだよ。しかも、社会的に認知された形でできる。後は、一人ひとりの人が選ぶかどうかという話になってくると思いますが。そういう意味で、大きな変化の中にあるということを我々常に意識しながら雇用問題を議論しなければいけないと思っています。

別所:ありがとうございます。竹中先生、どうぞ。

竹中:伊藤先生が言われたように、雇用の問題はまさに始まったばかりで、長く続くと思うので、あえて申し上げておきたいのですが、私は労働経済の専門家ではありません。ただ、私なりにいろいろ勉強させていただいて、本当にこの労働の話は難しいです。難しいから、非常に偏ったキャッチフレーズが躍って、きちんとした議論が妨げられるという世界なのです。本当に機械の打ち壊しみたいな話だと思います。
例えば、今日本ではどういう雇用のルールがあって、やむを得ず解雇する場合はどういうルールに基づくのかという解雇のルールが大変不明確です。それは必ずしも法律で明示されていなくて、判例に委ねられていて、その判例が非常に古い判例なので、そこが不明確なのです。だからそれを明確にしましょうと言ったら、あるメディアが解雇の自由化を主張しているというわけです。解雇の自由化なんか誰もそんなこと言うはずありません。今度は時間ではなくて成果で評価するようなシステムにしましょうと言ったら、残業代ゼロだというわけです。いや、違うのです。残業というコンセプトがなくなるということを言っているのに、そういうキャッチフレーズが躍って、政治家の皆さんは、投票者の方から批判を受けるのではないかと、すごくナーバスになるので、非常に議論が進まない。こういう議論というのは、一種の機械の打ち壊しと同じだと思います。
例えば、今回だって、金銭による紛争の解決が含まれているのですが、別にお金を払ったらすぐクビにしていいというそんな議論ではありません。でも、労働で紛争が起きた場合は、最後は今でも金銭で解決されています。それしかないではないですか。そのルールがまたないので、大企業の強い労働組合を持っている人はものすごくたくさんのお金をもらえるのに、中小企業の人はほとんど数万円で泣き寝入りみたいな世界で、非常に大きな不平等があります。だから、そういうものに対してルールを作りましょうということが、この成長戦略の中でも議論がされています。
こういう機会だから申し上げたのですが、キャッチフレーズで打ち壊しの議論で、問答無用でこれからも議論が進まなくなるということになると、この労働市場の改革は本当に行き詰ると思います。

別所:ありがとうございます。本質的なことがキャッチフレーズの中でかき消されてしまって議論ができなくなると非常に最悪の結果だと思っております。先ほど触れられました解雇の問題も、解雇のルールを明確にしたいという波が何年も前から起きていますが、あれも実は判例に基づくと言いながら、判例はその時代、その時代に応じたジャッジメントをしているだけで、昔のジャッジメントのルールが今本当に適用可能かどうかというのをきちんと議論しないままルールができると心配だという声にかき消されてしまうと、正しい議論ができなくなるということです。ここは見ている立場ではなく、一人ひとり皆さんも考えて、キャッチフレーズに踊らされずに政府がきちんと議論していただけるということを、支えていくことをしていただければと思います。