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熟論5【4】コーポレートガバナンスの強化

別所:稼ぐ力ということで、コーポレートガバナンスの強化ということが書かれています。

コーポレートガバナンスを強化することで稼ぐ力をということなのですけど、果たして本当に稼ぐ力に直接結びつくのだろうかということを読んでいて不思議に思いました。コーポレートガバナンスの強化と稼ぐ力の結びつきというのはどのように考えればいいのかというところを、竹中先生に教えていただければと思います。

竹中:成長戦略の打ち出の小槌みたいなものはないのですが、非常に基本的な議論としてずっと我々が議論してきたのは、日本は開業率が低いということです。既存する企業に対する開業、新規オープン、スタートアップが非常に多い欧米10%ぐらいに対して、その半分ぐらいです。でも、それと同じだけ、廃業率も低いのです。何を言いたいかというと、日本は開業も廃業もない国。 つまり、新陳代謝が非常に弱い国。やはり、いい企業と悪い企業が入れ替わることによって経済は発達、発展していくわけですが、そのメタボリズムというか新陳代謝が非常に弱い。これはどうしてか。例えば、平均の企業の収益率、ROI、ROEでみると、日本はやはり非常に低いわけですよね。つまり、少し言葉はきついかもしれませんが、収益を上げられない企業がゾンビのように、生きながらえている。従って、そこに新しい企業が入ってこられない。それをさらに比べてみると、あまり収益を上げられない社長さんが居座っていて、社長さんに辞めてもらって新しい有能な人を迎え入れるようなメカニズムがほとんど働かない。
この間、サントリーにローソンの新浪さんが迎え入れられるというのが日経トップの大ニュースになりました。こういうニュースというのは世界の中では普通なわけです。プロの経営者というのがいて、プロの経営者がいろいろな企業を回る。しかし、日本では生え抜きの、兄貴分の代表みたいな人が社長さんになって、自分の弟分みたいな人が取締役などになって、例え社長が失敗しても辞めてくださいとは言えない。少々、物事を非常に簡単にし過ぎて話していますが、やはり緊張感を持って経営をしてもらわなければ企業は良くならないでしょう。実際、日本の収益率は低いわけです。それを高めるためには、内部でいろいろな仕組みが必要であろうと。
実はこれは世界共通の課題です。今、法制度と経済の問題というのは非常に重要なテーマとして各国で議論されているわけですが、アメリカはいわゆるエージェントモデルと言いますが、株主がいて、株主の資産運用の代理人としての企業が存在している。従って、代理人の代表としての取締役会が大変重要ですが、いろいろな不祥事も起きてくるし、問題も起きてきた。そこで、この取締役会の機能を強化するために、社外の、しかも独立した社外取締役、社長さんとは別に友達でもない、何かの関係もない。独立した社外取締役を増やす努力をずっとしてきて、国によりますが、いくつかの国では半分以上それにしろと義務付けしている国もあるわけです。もう1つは株主が重要ということで、株主を重視するような法律を持っている国もあります。日本は歴史的にはそちらに近かったのかもしれません。では、株主が重要な役割をコーポレートガバナンスに果たしているかというと、日本の場合は、株式の相互持合いというのをやっていて、私はあなたの会社の株主、あなたは私の会社の株主。だからお互いに口出しするのをやめようねということで、株式の相互持合いがコーポレートガバナンスを弱めてきたという経緯もあります。ドイツは、これをやめさせたわけです。ドイツの企業が最近強くなった要因の1つがここにあるとも言われている。
コーポレートガバナンスの強化、日本では独立した社外取締役を増やそうということと、場合によっては義務付けようということと、そして株式の相互持合いについても全く手がつけられていませんが、何かの制限を加えるということを去年からずっと議論しているのですが、ずっと反対しているのが経済界です。実はさっきおっしゃったように、企業もしっかりしてくれと条文に書いてあるといったのは、まさにそういう経緯があったということだと思います。今回、経団連もようやく少し態度を変えてきて、そして新しい会社法で努力義務として社外取締役のことが置かれましたが、それにとどまらずに2年後の会社法の改正に向けて、それを義務付けるような方向に向けてさらに強化していこうではないか。それが今回の成長戦略に書かれています。私の認識では、海外の投資家が最も重視している要因というのはいくつかありますが、1つが法人税率ですけど、もう1つは間違いなくコーポレートガバナンス、それともう1つは労働市場がより柔軟になるというこの3つを海外の投資家は最も日本が変わるかどうか。日本経済が成長という観点から変わるかどうかということで重視していると認識しています。

別所:ありがとうございます。新成長戦略の中に書かれているコーポレートガバナンスのところだけですと、今竹中先生にご説明していただいたようなところがなかなか読み解けなかったりするところがあるので、解説していただいて良かったと思っています。ただ、コーポレートガバナンス、なかなか難しい問題だと思っています。もちろん、今も株主総会の招集通知には、ご存じのように社外取締役は取締役会の出席率とか書かないといけないこともあり、特に機関投資家の方々はそういうところを見て、信任をしたり、出席率が低い時は信任しなかったりという行動を一部はとっていらっしゃいますけど、少数株主の立場はまだまだ日本では弱いので、独立社外取締役ということだけでどこまで期待できるのかということはかなり難しいかなと思っているのですが、コーポレートガバナンスの強化は、社外取締役以外に、何か今後追加していくとしたらどんなものがあるとお考えでしょうか。

竹中:基本的には、社外取締役によるチェック、そして情報公開を徹底してそれをマーケットおよび株主がチェックする。それが基本だと思います。今、それは大変難しいとおっしゃいましたが、世界中難しいと思って、いろんなトライ&エラーを重ねているというのが今の状況ではないのかなと思います。しかし、1つ非常に参考になるのは、委員会設置会社というやり方があるわけですよね。委員会設置会社というのは、社外の人が例えば指名委員会、社長誰にするかという指名は社外の人がやるわけです。社外の人が。委員会等設置会社になっている会社はいくつかあるわけですね。金融機関でいうと、りそな銀行が資本不足になって公的資金を注入した時に、そこは今後コーポレートガバナンスを強化するために委員会設置会社にしましょうと決めました。実は今度、みずほ銀行が反社会的勢力との関係でいろいろ問題を起こした時、それに対してどう対処するかといった時に、自らが委員会等設置会社にすると言ったわけですよね。これ、問題を起こしたから委員会等設置会社にするのだったら、金融機関は問題を起こす前から全部やったらいいじゃないかと、こういう議論があるわけですよね。そういうことを真面目に考えている国会議員もかなりいらっしゃるわけで、そういうことも含めて2年後の会社法の改正に向けて議論をしていけばよいのではないでしょうか。

別所:ありがとうございます。会社法の改正も深く絡んでくる問題だろうと思っていますし、会社法の中でコーポレートガバナンスに関していうと、内部統制の基本方針を取締役会で決めなければいけないのは明文で定められています。ただ、残念なことに今の会社法の読み方でいうと、どちらかというとそこに書かれているコーポレートガバナンスはコンプライアンスの話が中心になってしまっていて、竹中先生がおっしゃったような、本来的な意味での企業の効率性、成長のためのガバナンスという視点がまだ少し足りないのかなと個人的には思っています。ですから、ぜひ会社法の改正の中でそこも少し議論していただいて、本来の意味でのコーポレートガバナンスを会社法で確保できることを期待してきたいと思っています。

竹中:参考までにもう1つ、我々でカジュアルな会話で使う言葉で、後から出てくる雇用の流動化が必要ですよね。雇用の流動化は必要ですが、社長の流動化も必要だということを我々は議論しています。

別所:ありがとうございます。そのためには、後で出てくるかもしれませんが、社長とか経営者の人たちの流動化が図れるような、人材プールが必要ではないかと思っています。

竹中:海外ではそういうのを紹介するのが1つのビジネスになるわけですよね。そういう社外取締役を紹介するビジネスの会社は多数存在しています。

別所:そういうものが1つのモデルになるのかなと思っております。

伊藤:成長戦略との関係で少し議論を戻したいと思うのですが、コーポレートガバナンスはもちろん重要だと思うのですが、先ほどの前文にあった稼ぐ力だと思います。つまり、メインプレーヤーは民間企業で、政府がいくら踊ったって民間企業が動かなければ何も動かないわけで、あるいは企業だけでなくて国民を含めてですね。では、稼ぐ力をどうやって高めるかという話になってくると、コーポレートガバナンスは1つの重要な柱だと思いますが、金融もすごく大事です。特に地方の企業の話になってくると、資金をめぐった企業の再編とか、あるいは先ほど労働の話をされたのですが、それに象徴されるような新陳代謝をどうやっていけばいいか、あるいは人材をどう育成していくかという話もある。だから、コーポレートガバナンスは非常に大事なのですが、それがさっきの竹中さんの言葉をお借りすると、打ち出の小槌ということではなくて、いろいろなものを同時にやっていくことだと思います。
コーポレートガバナンスに関連して、もう1つ申し上げると、先ほどの開業と廃業の話は私非常に関心を持っていて、イノベーションと結びつけてお話させていただきたいのですが、経済の世界ではイノベーションというのは大きく乱暴に分類すれば、2つに分けて考える必要がある。1つ目が改良型イノベーション。よりいいものを、コストを安く品質を高めていくという既存の流れで、テレビでいうと4Kを出したり、今より薄いテレビを作ったりという形になるわけです。あるいは自動車でいえばより燃費がいいとか。それに対してもう1つは、破壊的なイノベーションがあるわけです。つまり、既存のものを壊して新しいものに作り変えていく。今までウォークマンでみんな音楽聞いていたのだけど、いつの間にかネットの上で、デジタルで、iPhoneで買えるだとか。今まで本屋で本を買っていたのだけど、いつの間にかkindleで本を読める。これが破壊的イノベーション。今さら申し上げる必要もないのですが、改良型イノベーションは大企業が熱心にやる。自分たちがビジネスを持っていますから、何も自分たちのビジネスをあえて壊してやるというよりは、今の延長戦でやることがインセンティブであるわけです。一方で、破壊的なビジネスって誰がやるかというとベンチャーや新規企業で、失うものがありませんから。失うものがないわけだから、それをやって一か八かということだろうと思うのですね。
そうした時に日本にとって非常にやっかいなのは、先ほど竹中さんがおっしゃったように、開業率、廃業率が非常に低い。日本の企業は生まれてから平均寿命が12年だと言われています。アメリカは6年です。これはどういうことを意味しているかというと、アメリカは企業を作ったらすぐに高いリターンを求められる。高いリターンを求められて対応できなければ、早めに撤退、倒産、廃業ということが強いられる。しかし、またその失敗を教訓に次にいけるという繰り返しがあるわけで、日本の場合は企業を作るのはそう簡単ではないが、作ったら絶対につぶさない。銀行がつぶしたくても、政府が保証してつぶさない。それでもつぶれてしまったら、今度は家族が保証で苦しむというような話になってきていて。では、なぜ日本は1990年までこれで回ったのかというと、90年までは、日本はキャッチアップ的な特性が強かったものですから、大企業が改良型イノベーションで良かったわけです。ただ、今のように世界の先端のほうにいくと、それだけでは日本は回らないということになってくる。なぜそんな話をしたかというと、コーポレートガバナンスは大事ですが、もっと広い話がそこにはあるのかな。つまり、社外取締役が来て議論する以前の問題として、竹中さんが最初におっしゃった新陳代謝みたいな話があって、要するに何がこの背後にあるかというと、結局失われた20年の中で日本は必死で企業を作り変えようとして、その後でデフレの中で動かなくなって結局20年動かなかったのですよ。だから、グローバル化やICTの技術、少子高齢化、国内マーケットの飽和だとかそういうものに対して、いろいろなものがいろんな理由で動かなかった。もちろん、マクロ的なショックを起こして少しでもそういうものを動かすということも大事なのですが、もう少しミクロ、産業レベル、企業レベルに落とすと、稼ぐ力を目指すためにはやらなくてはいけないことがいっぱいあって、おそらくコーポレートガバナンスもその中の1つの重要な流れだと思っています。

別所:ありがとうございます。関口さん、いかがでしょうか。

関口:私もコーポレートガバナンスは大事だと思うのですが、ただ日本の場合はコーポレートガバナンスとコンプライアンスを混同している経営者が結構いるのではないかということです。日本の企業が、特に製造業を中心として元気がなくなってきているのは、要するに余計なことができなくなった。新しいチャレンジ、挑戦が社内の中でできにくい仕組みになってきてしまった。箸の上げ下ろしも全部監視されている状況になってきています。例えば、アメリカのGoogleがいろいろなものが生まれるというのは、労働時間の20%ぐらいを好きに使っていい。昔の日本の企業でいえば、研究費、開発費の10%、15%ぐらいを自由に使っていいと言う時期があったと思います。そういうものが企業の底力とか新しい開発力を損なっているという意味でいうと、いわゆる会社がきちんと回っていくためのコーポレートガバナンスは大事なのですが、それをはき違えると逆効果になる。そこだけ、気を付けてほしい。
それから、竹中先生がおっしゃったことで、日本は非常に居心地がいいわけですよね。ですから、日本の企業で業績が悪くてクビになる経営者はいないわけです。そういう仕組みがないので辞めさせられないわけですね。不祥事や背任行為があれば別ですけれど、そうしますと大企業でも税金をちゃんと払っていない企業はたくさんありますし、中小企業においてはもっとそういう例がみられる中で、さっきの法人税の話にも関連しますけど、やはりそういった企業も社会的なサービスは受けているわけですから、払うべきものは払わせて、それで居心地をある意味悪くしないと新陳代謝はいつまで経っても進んでいかないのではないかと思います。

別所:ありがとうございました。