Yahoo! JAPAN 政策企画

熟論5【3】法人税の税率引き下げについて

別所:先ほど、竹中先生が海外からの評価が高いということで、エコノミストに高い評価が書かれたとおっしゃっていました。エコノミストの中に、第3の矢ではなくて、今回の政策は千本の太い針だという表現が結びのところに書かれています。かなり数が多いですが、一つひとつの施策がしっかりしたものだということを表して、1本の矢ではなくて千本のしっかりした強い針の束だという書き方をされたのではないかと思います。これから、それぞれの太い針について順番におうかがいします。
最初は税制です。法人実効税率を数年かけて20%台まで下げるということが記載されています。この法人実効税率を数年で20%台まで下げることに関してどのような期待を抱いているのかということと、ここには数年ということと20%台ということしか書かれていないのですが、この数年というのはどのくらいの年数が妥当で、20%台には20%から29%まであるわけですが、それがどういうものなのか、どうお考えなのかということをお伺いできればと思います。

ちなみに、ご参考までにこれが瞬間で切り取ったものですが、他の国の法人税率を比較した図になっています。竹中先生からいかがでしょうか。

竹中:成長戦略という観点から何が妥当かと聞かれれば、数年ではなくて1年で20%台の一番下の20%にすればいいということになると思います。ちなみに、イギリスは24%をこれから20%にしようとしているわけで、香港、シンガポールが17%ですから、そこまでいくというのが理想といえば理想ですよね。こういう政策の議論は本当に難しいと思うのですが、何年で何%まで下げるのかというのは誰も聞きたいし、私も知りたいわけですが、実はこの背景にあるのが何かというと、まさに霞ヶ関文学を深く読むことがすごく重要になってくると思うのですね。
少し話が全体に広がりますが、さっき私は80点だと言ったのですが、実はこの新成長戦略が発表される10日ぐらい前まで、私は50点ぐらいだと思っていました。実は最後の10日ぐらいで大逆転して、この80点ぐらいまで持って行かれたというのが、私がメンバーとして見ている印象です。最後、何をやったのかというと、この内閣のものすごく大きな特徴ですね。今までの内閣の政策の決め方と、この内閣はだいぶ違うと思います。今までは、民主党は殆ど何も決めなかったから置いておいてですね、それまでは例えば経済財政諮問会議、規制改革会議、いろんなところで議論をして、それに基づいて丁々発止をやった後、総理、ないしは合意を得て総理が決断するという形になってきたわけですよね。今の内閣は、諮問会議でも産業競争力会議でもいろいろな議論をするのですが、申し訳ないけれどそれぞれの担当大臣がそこではそんなに役割を果たさなくて、最後すべて総理官邸に持ち込まれています。総理官邸で官房長官を中心に総理が背後におられて、そこで、つまり官房長官を中心とした4大臣会合、5大臣会合で全てが決められる。非常に大きな特徴を、安倍内閣の政策決定として持っていると思います。
その意味では、経済財政諮問会議や産業競争力会議や規制改革会議は、何かトスを上げているような感じで、それを官房長官がパーンとスパイクで打っている。私はそんな印象を持っていて、それが本当にどこまでできるのかというのは、10日ぐらい前まで分からなかったのですが、最後の10日ぐらいでバン、バン、バンとスパイクが打たれ、このようになった。法人税については、産業競争力会議より経済財政諮問会議で深くなされていますから、伊藤先生にぜひ聞いていただきたいのですが、一般に言われているところにすれば、財政赤字の時に財源をどうするのだと財務省が言うし、法人税を引き下げてもどれだけ効果があるのかと言う人もいる。その中でとにかく20%台、分かりませんけど28%なのか29%なのか。数年というのはできれば3年ぐらいと、そのようなイメージでいろいろな思いがあるけど、同床異夢のような形でこの合意がなされているわけです。霞ヶ関文学の表現はそういう表現なわけです。
だから、これからどうなるか。これからのバトルによって、これはもっと引き下げることもできるし、私は、重要なのは、今実質35ぐらいから29、28に下げるにしても、2、2、2とかで下げていくのではなくて、希望としては初年度にガーンと下げて、政府の姿勢を示してほしいなと思うのです。ですから、今言えることは、数年かけて20%台に下げる。そこまででいろんな思いで合意がされているわけで、これがどうなるかはこれからの経済財政諮問会議の頑張り、産業競争力会議の頑張り、総理、官房長官のリーダーシップ、それによることだと思います。こういうものは、今回のものには非常にたくさんあります。後で出てきますが全中をどうするか、農業をどうするかという話。それから、ホワイトカラー・エクゼンプションをどうするかという話。それも全部制度設計はこれからなのです。方向は示されている。でも、制度設計はこれからですから、成長戦略が示されたことによって、むしろバトルが始まったと考えるほうがよいと思います。

別所:わかりました。ありがとうございます。せっかく示された方向をきちんと進んでいけるようにしていくことが非常に重要なのだろうとお話をうかがっていて思いました。もう1つは、おっしゃるとおり政策ですので、今の時点でリニアに何年かかけて下げていくことを決める本当の意味があるのかということも確かにあると思います。といいますのも、先ほどおっしゃいましたように、諸外国は法人税を下げていく傾向にあるわけで、数年経った時に、この絵姿が他の国が下がっていった時に、同じように競争力があるかというような問題もあると思っていますので、今の時点で切り取った瞬間としては、数年かけて20%台と読んでおくのが正しいのかなとうかがっていて思ったのですけど、伊藤先生はまさに法人税のところ、深く関わられている立場にいらっしゃると思いますが、いかがでしょうか。

伊藤:法人税の議論は、2つあります。まさに今、竹中さんがおっしゃった、成長戦略、今日本の成長のモメンタムをどう作るかという意味で、法人税は非常にインパクトがある政策で、従って何をやるかということが1つ。もう1つは、中長期の日本の税のあり方を考えた時に、法人税だけではなくて他の税も含むのですが、その中で法人税がどうあるべきかという話だと思います。これは政府の見解というよりは、経済財政諮問会議の中で我々を含む民間議員が最初に出した提案の中でどう書いてあるかというと、なるべく早く考えていくべきということに加えて、中長期的にはとりあえず25%を目指すべきだということを書いたわけです。そのメッセージは何かというと、その場合は中長期的なということは今回の成長戦略とは直接関係ないのですが、将来を考えた時、私の個人的な意見ですが、おそらく消費税はもう少し上げていかなければならないだろう。所得税ももう少し改革が必要だろう。全体としてフラットで確実に社会保障の財源を掲げるような税をかけていく中で、法人税の立ち位置というのは、特に所得、所得割といわれている部分については税率を下げていくのが好ましいだろう。それ以外に見ても、海外との競争関係もそうでしょうということだろうと思います。
他方で、今日話題になっている当面の成長との関係でどうなるということになってきた時に、今回の骨太に描いてある数年で20%台ということで、おそらく20%台というのはいろいろな解釈があると思うのですが、この図で見るとドイツあたりを相当意識して、少なくともそれぐらいまでは数年でいきたいなという思いを持っている人は多いのだろうと思います。今回、もちろんある段階から骨太の中に法人税のことが書けるという確信がだんだんでてきたわけですが、最初の頃は骨太にどこまで書けるだろうといういろいろな議論があって。ある意味でいうと、骨太にここまで書いたということが非常に大きいということだと思います。実際の来年度以降どういうふうに税金を下げていくのかということは、ご案内のように今年の年末までの税制大綱の中で決めるわけで、おそらくそこには好むと好まざるとこれから秋以降にかけての日本の経済の状況とか、税制、税収の動きだとか、あるいはどういう議論になるかわかりませんが、消費税の引き上げの議論もそこに何らかの形で入ってくるかもしれない。という形でぐちゃぐちゃの中でこれから議論が行われてくる中で、とりあえず数年で20%台まで持っていくというように書けたのは非常に大きかったと思います。

別所:なるほど、わかりました。ありがとうございます。新成長戦略の中では、法人実効税率の話が、日本企業の海外流出を抑えたり、逆に海外企業の日本への投資促進という文脈で書かれている部分もあるのですが、実際に法人がさまざまな負担をしている中で、確かに税負担というのもあるのですが、社会保障に関連する企業の負担もかなり大きいのではないかと思っています。税収で言いますと、法人税が昨年度で約8兆円ぐらいだったと思いますが、社会保障関係で法人が負担している金額は24兆円ほどになっていて、3倍ほどの負担になっています。海外からの外国企業の誘致ですとか、あるいは一部触れられていますが、雇用の流動化のために多様な雇用形態をといった時に、企業側が気にしているのは実は社会保障料を含めたさまざまな負担だったりするので、本当は法人税の話と社会保障費の負担の話を一体でやっていくほうが合理的なのかなと思っているのですが、今回、そのうち法人税の実効税率のほうだけが先んじて書かれているというのは、優先順位として法人税のほうが優先すべきだという判断があってという理解してよろしいのでしょうか。

伊藤:どういう判断でこうなったかということは、おそらくいろいろ人の色んな思惑があると思うのですが、個人的な感想を申し上げると、社会保障負担と法人税を一緒に議論したら、こんな短い期間で何もまとまらなかったと考えるべきではないですか。社会保障負担は非常に大事な話だと思いますが、もっと別の意味で大きな議論だと思いますから、そういう議論はこれからもきちんとしていくべきだろうと思います。むしろ法人税、しかも実効税率ですよね。あえてターゲットを絞ってやったということで、やっとここまでできたと思います。

別所:フォーカスすることでプライオリティが高いものがきちんとできたと理解いたしました。ありがとうございます。法人税の税率のところについてなのですが、先ほどの何%、数年をどうするかということに関して、関口さんはどうお考えですか。

関口:先ほど竹中さんのお話で、海外のメディアが評価している1つの大きな理由がこれだと思うのですが、ただ20%台といった時に、20%から29.999まであるわけですね。ここのどこに落ち着かせるかというのは非常に大事でありまして、なぜ法人実効税率を下げるかというと、日本から企業が外に出て行かない、あるいは外から呼び寄せるというある意味明確な狙いがあると思います。だとすると、まず日本の企業が日本に思い留まるという意味でいくと、せめてドイツ並みというのは必須だと思うわけです。すでにこれまでの議論の中で、ドイツ並みという言葉が先行していますから、29%ぐらいというのは即刻やらないと今回のアベノミクスのメッセージ性が損なわれてしまう。海外から企業を呼び寄せてくるという観点で考えると、今度はアジアの他の国との競争になってきますので、アジアの他の国は25%の前半にきているわけですね。さらに下がる部分もあると思うのですけど。そう考えると、早期に今度は25%以前、20%台前半を目指していかなければいけないと、私個人的にはそう考えています。
ただ一方で、税収の問題がありまして、大体1%下げると法人税収は4500億から5000億ぐらい減るわけですので、その穴埋めをどのようにやっていくのか。課税ベースについても、今税金を払っていない企業がいっぱいありますので、そういったところにどういうふうに払わせていくのかが大事だと思うのですが、それよりも大事なのは繰り返しになるかもしれませんが、メッセージ性が大事だと思うのですね。ずるずるとやっていると、下げてもあまり実効性が伴わないので、やるのだったらスパッとやる必要があると思います。

別所:ありがとうございます。せっかく目標はここだと掲げられたので、それが実際に実行されるときに、本当に確実にここまで実行されていくのだと外にまでわかる形で、何年かけて何%ずつというのをきちんと設計していただくことが大事だと思いました。

関口:ヨーロッパなんかでも、例えばアイルランドなんかは、ITで成長したのですが、海外のIT系の企業、あるいは医薬とかそういう先端技術会社と呼ばれるところを呼び寄せるために、10%まで下げたわけですね。その後、12%ぐらいまで戻しましたが、そのくらいのことをやって、アイルランドと日本は立ち位置が全く違いますが、そういう意味でのメッセージ性をどう込めていくかというのが大事ではないでしょうか。

別所:おっしゃるとおりメッセージ性を込めたものが大事かと思っています。まさにこの新成長戦略そのものが1つの最初のメッセージの打ち出しだなと思っております。今後、暮れに向けて具体的にどうしていくのかという話がだんだん煮詰まっていくと思うのですが、どうしても税率を下げるということになると、代替財源どうするのかという話が持ち上がってくるのではないかなと思っているのですが、この代替財源との関係をどういうふうに、特に成長戦略という観点から考えていけばと、伊藤先生はお考えでしょうか。

伊藤:いくつかポイントがあると思います。先ほど申しましたように、実効税率を下げていくということが極めてフォーカスする対象として大事だし、インパクトがある。しかし、それだけで法人税改革を終わらせるべきではないという見方も当然あり得るわけで、法人税改革どうしたらというところで当然出てくるのが、いわゆる課税ベースをどうみていくかという話。特に、外形標準がこれから大きな話になってくるわけで、これはいろいろな見方があると思います。一方では、それをやってしまうと中小企業が大変だという議論もあるし、他方では長期的には日本の産業が活力を持つためには新陳代謝を図る意味でもいいというし。いずれにしても代替財源ということだけでなく、当面、法人税率引き下げの方向で動き始めたわけですが、同時に中小企業の法人税全体を見直すという動きがこれから出てくるだろうと思います。
その上で、代替財源ということでもう1つ踏み込んで申しますと、私は個人的には法人税だけで税収の話をするのはすごく危ない議論だろうと思っていまして、一部の政治家の方が言っていてちょっとショックを受けたのですが、「景気が良くなったからといってそれで法人税率を下げるなんておかしい。それだったら、一時的に増えた分は歳出に回せばいいじゃないか」という話をしていて、真面目におっしゃったかどうかわかりませんけれど、そういうことではないと思います。従って、法人税率を下げた時に、法人税で税収を確保しなければならないということは歳出との見直しも含めて、あるいは先ほどおっしゃった社会保障関連の制度も含めて議論していかなければいけないというのが1つ。
それから、これからも議論になる点だと思うのですが、よく税制中立という言い方があるのですが、非常に曖昧な言い方だと思うのですよ。つまり、何が起こっているかというと、これから何も税制を変えなければ、確実にものすごく法人税収が増えていくわけです。いろいろな集計があるからわかりませんが、過去ずっと赤字で税金を払っていない企業がこれからどんどん赤字欠損から抜けていくものですから、いろいろな予測をみると、GDPに対して暫定値2から3ぐらいの勢いで瞬間的には税収が増えていく。つまり、何もしないと増税になるわけです。そうすると、ひょっとしたら法人税を下げていっても結果としてみると法人税収は増えている。法人税率を下げなかったよりは増え方が少ないかもしれませんが、増えていくかもしれない。どこを基準に議論するかという話になるわけで、いろいろなところで議論が起こっているから皆さんご存じだと思うのですが、一方であるのは、景気があるのだから、景気が良くなって法人税収が増えたからといって法人税率を下げるのだったら、景気が悪くなった時にまた法人税率を上げるのかという議論があって、景気循環に全て話を落とし込める、非常に矮小な議論が起きているのですね。
ただ、ここはぜひ考えていただきたいのは、今我々は10年、20年続いた不良債権問題、デフレという、二度と戻ってはいけない、過去に、非常に稀な経済的な問題を抜け出して、いわゆる平常状況に戻ろうとしているわけですから。ということは、今、法人税収が増えているということは、単に景気が上振れしたから税収が増えているというよりも、むしろこれまでの異常なデフレ的な状況の中で、本来あるべき状況に比べて非常に法人税収が低かったということと比べるべきかもしれない。それは実は諮問会議の中でもずいぶん議論したことで、政治的な中では決着しておりませんが。だから、代替財源ということはよくわかるのですが、そこは深く議論する必要があると思っています。

別所:わかりました。個別の法人税だけの話ではなくて、伊藤先生がおっしゃったように、歳入全体をどうするのかという位置づけで全体図を考えていくのが大事だと思っています。今後の議論がぜひそうなっていってほしいと思っております。