Yahoo! JAPAN 政策企画

熟論5【1】はじめに

別所:ヤフーの別所と申します。政府からこの6月に発表された新成長戦略は、これまでの政権が及び腰であった農業、医療、雇用といった岩盤規制に踏み込んだという一定の評価を得ています。その一方で、岩盤規制に「まだかすり傷を付けただけでないか」というような批判もありますし、規制によって不利益を受ける人たちがいますので、そういう人たちによってこれから先、骨抜きにされていくのではないかとの懸念の声も聞こえてきます。本日は新成長戦略の策定に関わられた識者の方を交えて、新成長戦略の評価と今後の課題について議論をしてまいりたいと思います。
それでは、順番にパネリストの方から、今回の新成長戦略についてひと言、最初に感想を述べていただきたいと思います。まず、最初に小泉改革のブレーンとしても活躍され、今回の新成長戦略策定の中心を担われた産業競争力会議の議員も務めていらっしゃる竹中平蔵慶應義塾大学教授からお願いしたいと思います。

竹中:皆さん、こんにちは。竹中平蔵です。このような機会を与えていただきまして、ありがとうございます。私は、一民間議員でありますので私の貢献などたかが知れているわけですが、基本的には政府が安倍総理を中心にお決めになったことで、我々はそれに対して意見を申し上げる立場だったわけですが、評価ということに関してはこれからいろいろ出ると思うのですが、実は今回の成長戦略に関する評価の特色として、海外のメディアが非常に高く評価を与えているということ。これは昨年と全く違うわけです。特に、先週出されたロンドン・エコノミストの安倍総理を中心とする改革に対する評価は、近年ちょっと例を見ないような高い評価がそこで下されている。我々も、もちろん今回の成長戦略で成しえたことと成しえなかったこと、両方常にあるわけですが、今回の海外からの評価がどうしてこんなに高いのかということに関していろいろ考えるに、要因はいくつもありましょうが、1つの大きな要因は、今年の1月のダボス会議で安倍総理が基調講演をしました。日本の総理大臣がダボスの基調講演をするのは今回が初めてです。伊藤先生も私も一緒に聞いていたのですが、そこで安倍総理が言われた4つの約束、公約を今回の成長戦略は一応果たしつつあると。それを果たす方向にいっている。
具体的には、特区を使って岩盤にドリルを開ける、規制改革を進めることと、2番目は法人税を減税すること、3番目は外国人労働を活用すること、4番目は政府の年金基金であるGPIFを抜本的に改革すること。これはもちろん百点満点でできているわけではありませんが、相当その方向に進んでいる。そのことが非常にクリアに見えている。そこが、海外メディアからの高い評価になっていると思います。政策の問題は難しいし、特に海外から見ていると細部はなかなか見えないわけですが、総理が約束をして、そしてそれが実現の方向に向かっているという方向性に対しては、そのような見方、評価が与えられたのだろうと思っております。

別所:ありがとうございました。続きまして、同じく新成長戦略策定を担われた経済財政諮問会議の委員を務められていらっしゃいます伊藤元重東京大学大学院教授、お願いします。

伊藤:私の役回りというのは、経済財政諮問会議のメンバーでございまして、主にマクロ経済運営とか、あるいは当然財政の話を議論するということで、成長戦略そのものの具体的な策については竹中さんもご参加されている産業競争力会議と主にやってきて、ただ、非常に今回痛感したことは、マクロ経済政策運営とかマクロの経済の実態とこの成長戦略は、非常に深い関係にあって、今回実際、官邸の会議でもこの2つの会議の合同会議ということで何回か重要な問題を議論できたということで非常に大きかった。
そういう意味で私の最初のコメントは、マクロ経済との関係でお話させていただきたいと思います。成長戦略、あるいは規制緩和も含めて、こういう政策に関してみると、今回これまでよりはかなり踏み込んだと思ってはいるのですが、これまでもその都度やってこられた時期があったのだろうと思います。どういうマクロ経済環境の中でそれが行われるかということは非常に重要なことです。結論から申し上げると、第一、第二の矢でデフレ脱却の大きな道筋をつけたという環境のもとで、この戦略、政策が行われたということは、非常に重要なことだと思います。そういう意味で、マクロのデフレ脱却の中で、これをどう考えるかということがこれから重要なポイントだろうと。
もう1つ、これは後からの話に非常に関係があると思うのですが、アベノミクスの3本の矢というのを誰が命名したのか、こういうのは竹中さんが詳しいのでしょうが、いつの間にかできあがって、今は政府の公式的なものの中にも入っているわけですが、3本の矢は成長戦略とは書いていません。民間投資を喚起する成長戦略と書いてあって、なかなか微妙な言い方で、成長戦略と普通に言えば、規制緩和、あるいは税を変えていく、市場を開放していくサプライヤーサイドを想定していくわけで、これはもう1つ大事なのです。サプライヤーサイドを改革していくことによって、長期的な日本の成長の可能性を高めるだけではなくて、足元でも企業の見方に対して大きな刺激を与える。ただ、民間投資を喚起する成長戦略というように、民間投資を喚起する需要のキーワードが入っているということは、もう少し成長戦略の持っているインパクトを、早く実現に回したい。つまり、今すぐ民間投資に喚起する形で成長戦略に上げていきたいのだという意図が強く表れていると思います。それは非常に重要なことで、従っていろいろなことをやる。例えば、農業改革はすごく大事だと思っているのですが、ただ農業改革をやったからといって、来年から日本の農業生産が突然見違えるように、10%、20%増えるはずではないわけです。ただ、法人税改革のような話になってくると、これはおそらく企業のパーセプションだとか、あるいは賃上げの決定プロセスとか、いろいろなところにかなりインパクトがすぐにでる可能性があるわけで、そういう意味でマクロ経済と今回の成長戦略の関係ということをきちっと見ていくことが今後大事だと思っております。

別所:ありがとうございました。続いて、経済の最前線で取材活動を続けていらっしゃる関口和一日本経済新聞社論説委員にご意見をうかがいたいと思います。よろしくお願いいたします。

関口:皆さん、こんにちは。日経の関口でございます。先ほど伊藤先生がおっしゃったように、私も民間の活力というのが一番大事なポイントではないかと思っております。アベノミクスの3本の矢ですが、1本目、2本目というのは、いわばマクロ政策ということで環境を整えたと。ロケットでいえば発射台の役割で、それが自分できちんと飛んでいくためには、自立的な飛行を促すロケット自体に変革が必要ではないかなと。そういう意味では、企業が今持っている内部留保、かなりため込んでいますが、それをいろいろな設備投資、あるいは一部雇用ということでもいいのですが、お金を使うことで経済が順調に回っていく。それが全部完成して、アベノミクスが初めて成功するのではないかと思っております。そういう意味で今回は、昨年の成長戦略がどちらかというと、メディアの目から見ると、不足というか玉不足というか。そういう印象を否めなかったわけですので、今回はそれに対して、岩盤規制が象徴でありますが、今まで手が付けられなかった部分、特に雇用や医療、農業、こういったところに具体的な方策を充てたということは、私は評価していいのではないかと思っています。ただ、岩盤規制にドリルを当てるといっても、大事なのはドリルをどういう角度で、どのくらいの力強さで当てていくのかという、これからが大切なわけですので、大事なところがどちらかというと今後の議論に委ねるみたいな書きぶりになっているものですから、ここのところをきちんと注視していく必要があるのではないかと思っています。
あと、私個人的にはIT系を担当しているものですから、その観点で見ると、今回の成長戦略に物足りなさを感じています。と申しますのも、ドリルを当てて既得権益を打ち破るとか、規制緩和するとか、非常に大事なことなのですが、その先にどうやって前に進めるかという意味では、本当の意味での成長のエンジンが必要になってくると思います。そのエンジンに相当するのが、私はITなどの新しいツールだと思っています。そのことが、今回の戦略を読んでみますと、あまり書かれていないなと。ITの部分は4ページほど割いていますが、そこにはマイナンバーとかもありますが、十分ではない印象を持っておりますし、例えば、電子政府とか遠隔医療、あるいは遠隔教育だとか電子カルテとか、もっと挙げればレセプトのオンラインとか、これまでも議論してきたのですが、こういう本来きちんとやっていかなければいけない部分というのは、ひと言も登場してきていないわけです。もちろん、各省の個別の政策があって、そちらに落ちているといえばそれまでなのですが、そういうところを改めて書き込むということもあっても良かったのではないかと、このような印象を持っています。

別所:ありがとうございます。