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熟論7【4】賃金と生産性

別所:ちょうど賃金のお話に移ってまいりましたので、そちらを取り上げたいと思います。ご存じのように、日本のGDPの60%が家計消費によって占められています。そこが伸びないと経済の活性化がないと考えておりますし、その家計消費を支える要素は賃金だと思っています。その賃金を上げるためには、基本的には労働生産性を上げていかなければ賃金は伸ばせないと言われているのですが、そこで労働生産性と賃金の間にどういう関係があるのか、日本が海外と比べてどうなっているのかということを最初に見てから議論に入りたいと思います。鈴木さん、解説お願いいたします。

鈴木:

大和総研作成

はい。まず消費があまり伸びていないということの確認ですが、これは安倍政権が誕生した頃、2012年10月-12月期を100としたときに、いま名目GDPの需要項目はどうなっているか。輸出は伸びていないと言われていますが、この中では一番伸びています。先ほど議論のあった民間設備投資が今ひとつ伸びていない。そして一番左側の民間消費が伸びていないという状況にあります。

 
大和総研作成

民間消費が伸びるためには、基本的には賃金が上がっていく必要があるということですが、グラフが3つありますが、右下が生産性と実質賃金です。いま別所さんから、実質賃金はやっぱり生産性が上がっていかないといけないとありました。私の理解では、持続的な成長というのは生産性が伸びることであり、それによって実質賃金が伸びる。実質賃金が伸びませんと、今度は左下ですが、名目賃金が伸びない。名目賃金が伸びませんと、今度は上ですが、物価が伸びない。こういう順番で考えます。
もちろん今デフレから脱却するということで、デフレ期では今申し上げたことはあまり成立していないことが、このグラフからも見て取れるわけです。まずはデフレから脱却するときには実質賃金が下がる、それによって雇用が生まれるということ起きますが、基本的に、長期的には生産性を上げていかないとデフレ脱却もできない、実質賃金も上がらないということではないかと思います。
そこで生産性を、ちょっと国際比較してみました。

大和総研作成

これは日本とアングロサクソンといいますか米国、それから大陸欧州の代表であるドイツ、それから北欧のスウェーデンです。これをご覧いただきますと、1人あたりGDPが上から3つ目にございますが、日本は4万6,531ドル、米国以下、5万ドル、4万ドル、5万4,000ドルとありますが、これは為替レート換算ですので、2012年の値ですから少し円高で高く評価されているところがあります。「PPP」とありますのは購買力平価、つまりこれに換算することによって実際の生活水準を比べることができるのですが、ご覧いただくと、日本は35,500ドルということで、ほかの国と比べてこのPPP換算の1人あたりGDPというのは結構低い。それだけ生活水準は低いということです。
これを決めている、その2つ下の「マンアワー労働生産性」、これは1人1時間あたりに生み出す付加価値の水準ですが、米国を100としますと、よく指摘されていることですが日本は61.9ということで、ドイツ・スウェーデンと比べてかなり水準が低い。これはキャッチアップが日本は終わったのかというと、この数字を見る限り、全くまだ終わっていません。少なくとも労働生産性を高める余地は大きい。その伸びをいかに高めていくかということが、賃金を高めるうえでの出発点ではないかと思います。

別所:ありがとうございます。労働生産性なのですが、私も何人かのエコノミストの方とお話しをする機会があって、その方々にうかがったところ、「日本の現状でのファンダメンタルな労働生産性の伸び率というのは、1%ぐらいしか期待できないだろう」とおっしゃっていました。2%の物価上昇を目指していくということになると、それ以上の生産性の伸びに支えられた賃金の伸びというのが必要だと思っているのですけど、生産性を上げていくために、政府としてどういう方策をお考えなのかを西村副大臣からおうかがいします。

西村:まず足元は、先ほど来議論しているように、労働需給が逼迫(ひっぱく)していますので、賃金が上がる傾向にあります。これは、いい人を確保しようと思えば賃金を上げなきゃいけないということで、当面はそういう状況にあると思うのです。賃金は緩やかに上がっていく状況だと思うのです。ただ、おっしゃるとおり、長期的・中長期的に着実に賃金を上げていくには、やはり生産性を上げてくることが必要です。ご指摘のとおり、日本は生産性の伸びがどんどん今、落ちています。
これはいろんな要因が考えられますが、ひとつに、欧米に比べてIT装備、ITを活用する資本装備率、これが非常に低いです。これはIT投資を、われわれ進めたいと思っていますし、いろいろなかたちでのモデルケースのようなものも広げていくようなことも考えています。特にサービス産業で生産性が低くてIT装備が非常に遅れているといった面を、ぜひ進めたいと思っています。
もうひとつは対日投資。海外からの投資が日本は非常に少なくて、これがOECD平均はGDP比で30%ぐらいは海外からの投資があります、先進国の平均は。ところが日本は3%ぐらいしかないのです。やはり海外の先端的な企業が日本でビジネスをやるということをもっと活発化してもらって、そうすると競争も起きてきますし、そこで生産性が当然上がってくる、そうしないと競争に勝てないということです。そういった対日投資もぜひ促進したいと思っていますので、先ほど申し上げたような外国企業、外国人が日本で生活しやすいような環境、Wi-Fiであったり、外国人医師であったり、あるいはインターナショナルスクールまで含めて、そういう環境をぜひつくっていきたいと思っています。
それから中長期的な話になると、大学改革ということも大事だと思っています。あるいは高校の改革です。キャリア教育をもっとしっかりやりたい。大学は出たが、自分自身のキャリアをよく考えていなかったり、何か身についているのかというと、特段の技能があるわけでもないという学生も非常に多いですので、将来の自分の進む道をしっかり考えるキャリア教育をもっとやっていきたいと思っています。大学の中では、いくつかの大学もグルーピングをしながら、それぞれの大学の個性を生かしてグローバルに活躍する大学であったり、地域で中核となる大学であったりということも今考えています。
実務教育をおこなう大学、同等の教育機関、新しい大学のカテゴリーみたいなものも考えています。これは、短大出たけど、特定の技能がない、しかも定員割れの短大もたくさんある。あるいは専門学校を出たはいいが、専門学校は、就職率はいいですけれども、専門学校卒業の賃金体系の中に入ってしまうということもあるので、そういう実務をやる専門大学と短期大学を合わせたような、何か専門のキャリアを身につけるような実務大学、実務教育を行う新しい大学組織みたいなものを今検討しています。そういったものを中長期的には作っていきたいと思います。
もうひとつ、日本では学び直しというのが少なくて、社会人がもう1回学び直して、キャリアを身につけてまた戻るというのが非常に少ないのですね。アメリカ・ヨーロッパで結構あるのですが。これも例えば、いま工業高校の卒業生なんかは非常に就職率高いです。技能を身につけているということで高いのですが、でも就職したはいいけれども、ずっと工業高校卒業の賃金体系の中に入っていくのではなくて、途中で、何年か働いたのちに、もう1回そういう実務教育を受けたり、大学で学び直しをして、そして大学卒業として新たな賃金体系で、もちろんそれで学んだことを生かして生産性も上げていくというようなことも必要だと思います。
それから最も大事なことだと思うのですが、先ほどもちらっと申し上げましたけれども、自分のキャリアをしっかり考えて就職をし、研修を受けたりしながらキャリアアップをしていくという仕組みです。今までは、ある企業に入れば、その企業の一員としてメンバーシップを得たということで、企業に言われるがままに長時間働き、勤務地も変わったり、仕事の内容も変わった。しかし、それは言われるがままにやっていれば終身雇用で、賃金も年功序列で徐々に上がっていくという体系の中にあったわけですが、それがもう今や、大久保さんも先ほど言われましたが、崩れかけています。もちろん1つの企業で生涯働く方もおられます。ですが、一方で自分のキャリア、自分はITの専門家として生きるのだ、あるいは自分は会計の専門家として生きるのだ、そういう自分自身のキャリアを考えて企業に入って、しかしその企業内の研修だけじゃなくて、企業の外の研修も受けながらキャリアを磨き、転職市場も整備をしながら、転職をすることによってまたキャリアアップをし、賃金も上がっていくという、そういった働き方の改革も、ぜひ進めていきたいと思っています。

別所:ありがとうございます。労働生産性を上げていく方法としては、大きく分けて2つあると思っています。1つは資本を使って労働生産性を上げるためのことをやっていく、もう1つは人の能力を上げていくということだと思います。副大臣にご説明いただいたIT投資・対日投資のところは資本のお話で、大学改革・学び直し・キャリア教育のところは人の能力を上げていくというお話だと理解いたしました。大久保議員は、この点についていかがお考えでしょうか。

大久保:西村副大臣のコメントで、だいたいカバーされていると思います。あえて3点だけ付け加えるとしましたら、1つは企業における人の評価・仕事の評価を変えていくべきだと思っています。年功序列で賃金体系を決めていくのではなくて、どういう仕事をしているのか、どういう職種なのか、そういったことでしっかりと働き方、もしくは賃金を決めていくことが必要です。別の言い方をしたら、グローバルな賃金体系に持っていくということが必要だと思います。その関係で、人材もグローバルな人材として、世界的に競争ができる人をどんどん増やしていくことが必要だと思います。
2点目は、多様化です。女性の活躍の場、もしくは高齢者の活躍の場、こういったところをどんどん増やしていく必要があると思います。最後になりますが、生産性が最も劣っておりますのは中小企業、もしくは国内流通ですから、そういったところのIT化に力を入れる。ただIT化ということで、設備投資をすればいいというものでありませんで、例えばマイナンバーを導入してそれを活用するとか、もしくはITを使った販売促進であったり、インターネットの流通、こういったことを国をあげて応援していくことは極めて重要だと思っております。

別所:ありがとうございます。お二方からIT投資というのは生産性の向上のためには重要だというお話をいただきましたが、実は日米の経営者、IT投資に関するアンケート調査というのがありまして、それを見ると、だいぶ下がるのがわかります。日本の経営者の方々はIT投資というと、間接部門、事務部門の業務の効率化というようなことを中心に考えているのに対して、アメリカの会社の経営者というのは、自分たちの製品とかサービスを改善していく、新しいものを作っていくというところにこそIT投資の価値があるのだと考えていることがわかります。ですので、この点を今後の政策に生かしていただければと思います。

大久保:実は昨年、ある思いがありまして「ビットコインに関する質問主意書」というのを出しました。金融において決済業務というのは非常に大きい仕事です。日本の場合は非常に高性能ですけど、値段が高い。場合によっては、インターネットでしたらPayPalもありますし、電子上の決済とか、そういったものをどんどん投資することによって、新しい産業が起こると思うのです。そのあたり金融庁と話をしておりますが、どうしてもこれまでの発想ということで、なかなか新しい産業を起こせないという問題点があります。
さらにはビッグデータの活用。いま個人情報保護法の議論がありますが、ここも大きいチャンスですから、政府のリーダーシップ、もしくは産業界をしっかりと支えていくことが必要だと思っております。

別所:ありがとうございます。

西村:ITを前向きに考えていくというのは、全くそのとおりです。よく農業の6次産業化という話がありますが、これは1次産業である農業に付加価値をつけて、ものづくりに変えて、さらにサービス業である、1次・2次・3次、かけるか足すか、どっちにしても6次産業になるのでやっていこうという。これも3次産業化のところではITを使って全国に売っていこう、世界に売っていこうということを含めて、あるいはITを使って農業生産の管理をしていこうとか、前向きな、いいものを作るための投資だと思います。
製造業でも同じことが言えると思います。2次産業である製造業がものづくりだけで終わったんでは、もう世界に通用しなくなっている。まさに3次産業化をしていく、合わせて2次産業であるものづくりも6次産業化していく。そこで、おっしゃるようにIT投資をして販売促進をしていくのか、あるいは大久保さんもおっしゃった、まさにビッグデータを活用して、どういうものが求められているのかというマーケティングをやるのか、いろんなことに活用してほしいと思います。そういう意味で2次産業が変わっていくためにも、このITというのは大事だと思っています。まさにIoT(モノのインターネット/Internet of Things)、最近ではThingsじゃなくてEverythingと言われるように、すべてのものがもうインターネットに接続されていく時代ですから、その中でのものづくりも考えていかなきゃいけないと思います。
もう1点、地方の人がよく、最近では大きなスーパーに負けたりとか、あるいはネット販売がどんどん増えていますから、「地方の商店街はもうだめですよ」と言うのですけれども、確かに、今ここにいても世界中のものをスマホでも買えます。逆に言えば地方にいても、その人たちが世界中に、インターネットを使えば売っていけるわけですから、そこは商人根性を出してもらって、これまでと同じ商売をやっていたら、それはもうだめなのです。今回もプレミアム商品券で1万円出せば1万2,000円の買い物ができるような仕組みを各地でやりますが、1回限りでわーっと盛り上がっちゃいけないんで、今回のをきっかけにしてネット販売を考えていくとか、新しい次へのステップをぜひ考えてもらいたい。そういう意味で、ITを前向きに考えてもらうと。地方からすると、何か「IT社会がくるから、われわれは追い込まれている」じゃなくて、むしろそれを生かして世界に売っていくということも発想の中に入れてほしいと思いますね。

大久保:実は昨年、インターネットの電子配信にかかる消費税の内外判定基準見直し(インターネット役務適正課税法案)という議員立法を出しまして、今国会で成立する予定だと聞いています。ここに関して、税の世界であったり、経産省もそうですが、ネットの世界ではもう国内と海外との差がないと。場合によっては日本国政府が、そこに対してしっかりと日本企業を応援しない限りは、どんどん海外のほうに流れてしまう可能性があります。例えばビッグデータもそうなのですが、いろんな検索エンジンを回しますが、あるところは日本法でしっかりと守られている、あるところは知らない間に外国法になってしまう。こういったことに対して、しっかりと日本国政府がリーダーシップを持って日本のIT産業を支えていく、このことがぜひ必要だと思います。西村副大臣、ぜひこのことはよろしくお願いします。

西村:はい。がんばってやります。

別所:ありがとうございます。