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熟論7【3】企業の内部留保、現預金保有、設備投資

別所:成長戦略のために何かやるのは今だというところは一致されていると思うのですが、少し焦点を絞らせていただいて、企業活動の面を考えていきたい思います。経済成長していくためには、経済活動から得られたものを再投資して、民間設備投資をしたり、あるいは賃金とか配当金というかたちで配分をおこなって、家計消費を押し上げていくことが重要だと思います。今のひとつの課題として企業がこれまで稼いだお金を内部留保としてためているのではないかという報道もよく目にします。
今年に入ってから企業の設備投資への意欲がだんだん上がってきたとか、あるいはベースアップなどの取り組みというのも積極的だという兆候がみられていると言えるのかもしれませが、まずそこを少し考えてみたいと思っています。設備投資とかが実際にどうなっているのかというところを最初に、簡単に鈴木さんのほうからご説明いただきます。よろしくお願いいたします。

鈴木:いま別所さんから内部留保という言葉が出ましたが、こちらをご覧ください。

大和総研作成

これは法人企業の内部留保額。内部留保という言葉は利益処分の一種ですので、ちょっと世の中に誤解がございますけれども、配当なんかをせずに企業の中にため込むということですね。これが2013年度で328兆円。これは今どんどん自己資本比率が上がって、無借金経営というのが、いい局面もありますが、無借金すぎるぐらい内部留保がたまっています。
これ、設備投資をしていただければいいのですが、設備投資ではなくて、生産設備になっているわけではなくて、現預金として保有されてしまっている。

大和総研作成

このグラフで言うと13年度は230兆円ほどですね。これはGDP比で、間もなく50%に達しようかという感じです。諸外国ですとイギリスで30%、フランス・ドイツで20%、米国は10%未満ということですので、ちょっと日本企業はキャッシュをため込みすぎではないかということが言われているわけです。

大和総研作成

具体的に設備投資との関係で見ますと、この図の面になっている部分、これがキャッシュフロー、利益ですね。これに対しまして設備投資というのは、この折れ線の上のほうの線で書いてあるわけですが、このキャッシュフローよりも設備投資のほうが小さいという状況が、かなり長期に続いてしまっている。成長するためには設備投資をしていかないといけないわけですが、このフリーキャッシュフローという、うまく使われていない部分のお金が非常に大きくなってしまっている。これは非常に投資マインドが低い、設備投資、計画ベースの数字はいいのですが、なかなか設備投資が出てこない。ここを成長戦略の起点として、非常に重視すべきではないかという議論は続いているわけですね。

別所:ありがとうございます。設備投資は民間企業の意欲とか努力にかかっていると思っていますけれども、政策として企業の背中を押していくような方策がもしおありであれば、西村副大臣のほうからおうかがいしたいと思います。

西村:まず大前提としてデフレのときは物の値段が下がりますから、裏返すと通貨の価値が上がっていくので、通貨の価値が上がるから、同じ通貨量でも少ない量で同じものが買えるということですね。つまりデフレのときはお金で持っているほうが得なわけです。ですから、この15年ともいえるデフレの中で、企業は投資したりするよりもお金で持っているほうが、価値が上がるということが染みついていますので、これがまだ残っているというのが現状だと思うんです。
これが先ほど来、申し上げているとおり、金融緩和を中心にしながら企業活動が、経済活動が活発になってくれば緩やかなインフレになってきます。現金の価値が下がるというのがインフレですので、現金で持っているよりは物に投資をしたほうがいい、人に投資をしたほうがいい、こういうふうになってきますので、まずは金融緩和を中心にしながらインフレ環境をつくっていくということが、まず第一です。
そのうえで、われわれとしては政労使の場でも相当議論をして、まずは賃上げに使ってくれと。賃上げが実現すれば、その人たちは消費してくれますので、旅行にも行ってくれます、物を買ってくれます。GDPの6割を占める、まさに消費を刺激するという意味で賃上げに使ってほしい。それから、いま議論になっている設備投資に使ってほしい。そのための設備投資減税であったり、先ほど少し申しました省エネ補助金であったり、ものづくり補助金というかたちでも、使えるようなものを用意しています。設備投資を促していこうということですね。もうひとつは、中小企業に対する取引価格を引き上げてほしいと。そういうかたちで、利益が出てたまっているものをうまく使ってもらえれば、いわゆる経済の好循環というかたちで循環していきますので、いい方向に回っていくということなんですね。
それに加えてコーポレート・ガバナンスと言われるもので、企業がしっかりと将来に向けて、資金をどう使うかという方向性を示していく。それに対して株主が意見を言っていく。ため込むのではなくて、しっかりと将来に向けた投資をするようにというような議決権を行使をしていくというようなことを、これは昨年イギリスに学んで、スチュワードシップ・コードと言われる、機関投資家が議決権をどう行使していくかというような方針を示しまして、これは多くの機関投資家が採用してくれています。そういう意味で、大きな株主が、たまっているお金を将来に向けての投資に使うようにというような、議決権を行使していくような方向性も出しています。
われわれとしては、たまったお金をぜひそういうかたちで、いろんなかたちで還元をして、経済の好循環につながるようにやってほしいというところを、コーポレート・ガバナンスも含めて、全体として環境を作っていきたいというふうに思っています。

別所:ありがとうございます。大久保議員は、この点いかがでしょう。

大久保:こちらに関しては、私は、実は議員になる前は銀行、もしくは外資系投資銀行におりまして、非常に関心がありました。特に内部留保に関しまして、どうして日本の企業が内部留保をため込むか。海外企業でしたら、例えばアップル社に関しては、それだけ内部留保があるんだったら株式を買い取れ、バイバックしろと、こういった圧力があります。いわゆる株主が強かったら、そういった投資をするのか、そうではなかったら株のバイバックをしろと、こういったことができます。そういう意味では、ガバナンス改革というのは極めて重要です。
私は十数年、ずっとこのことをやっておりまして、なかなか個人ではできませんでした。その点は安倍政権はよくやっていると思います。どうしてできなかったかといいましたら、経団連が相当反対をしていました。実は、私は塩崎さんと一緒に社外取締役、最低1名は必要だということで法制化も検討しました。昨年は議員立法を出しましたが、残念ながら与党になった自民党はそれはだめだと。経団連との調整があって、結局は強制でなくて、もしフェッチしなかった場合は説明しろと、こういった方向に行っています。東証の斉藤さんとも相当話をしました。金融庁とも話をしておりまして、そういったことで、少しずつガバナンス改革が出ています。3本目の矢の中で、私は一番成功しているのはガバナンス改革だと思います。
さらに企業の経営者から考えたら、どうして日本国内に投資ができないのか。それは日本の人口構造が高齢化、また人口が減るといった縮小マーケットに対して多大な設備投資はなかなか躊躇すると。でしたら、むしろ海外に展開するような、税とか、さまざまなインセンティブをつくったほうがいいのではないか思います。
国内市場でさらに、例えば消費を増やすというのも大きい手です。ですから私どもは、例えば賃金を上げてくれと、場合によっては消費性向が高い低所得者の賃金を上げる。場合によっては最低賃金を上げることによって消費を喚起すると。安心してお金が使えるように将来不安を少なくしていく。そのためには社会保障をしっかりと安心したものにする、こういったかたちで自立的な経済成長を考えている。そういう状況では自然と設備投資が増えてくると思います。

別所:なるほど。ありがとうございます。

西村:円安が定着をしているというか、行き過ぎた円高が是正をされてきたがゆえに、多くの企業が海外に出たわけですけれども、それが国内に若干回帰の動きも出てきています。これは特にアジアに出た、中国をはじめ人件費が非常に速いスピードで上がってきたがゆえに、その人件費の比較と、それから円安、為替を見たときに、これなら国内でやってもいけるじゃないかというような動きも出てきています。そういう意味で、国内に投資もぜひ、海外からの回帰、これもぜひわれわれウォッチしていきたいと思っていますし、国内の設備投資に対しては減税もあるということですので、そういったところの後押しをしていきたいと思っています。
これは国内の企業がためたお金の使い道ではないですが、先ほども申し上げたように、海外の企業も、例えば医療分野でわれわれが改革を進めたがゆえに投資をしようという動きも出てきていますし、日本企業、日本の経済がデフレから脱却して活動が活発になってきているがゆえに、日本企業、日本に投資をすればまた収益が上がるんじゃないかというような見方も増えています。
この機をとらえて思い切った規制緩和とか改革、例えば外国人が日本に来てレストランに行っても、メニューに日本語しか書いていない、これをスマートフォンなんかを使ってメニューをそれぞれの言語で見られるとか、あるいはWi-Fiが使えないというのを相当言われていまして、これも相当環境を整えていこうと思っています。わざわざ毎回、例えばスターバックスに入っても登録し直さなきゃいけないみたいな、そんな面倒くさいことはできませんので、1回、成田や羽田で登録すればいい。あるいは自分の国で登録しておくこともできるとか、いろんなやり方を今、模索をしています。Wi-Fi環境なんかも整えて、外国人の人たちも日本でビジネスをしやすい、生活をしやすい環境をぜひ整えていきたいと思っています。

別所:ありがとうございます。コーポレート・ガバナンスへの期待というのは、先ほど大久保議員のほうからもお話しいただいたので、そこを深堀りさせていただきたいのですが、日本の会社がたくさん内部留保をためているという批判はありました。これは私どもの感想なので、どれだけ正しいかどうかというのはわからないですが、伝統的に雇用確保のために一定の内部留保をきちんと持っていて、どのような経済状態になったとしてもできるだけ雇用を維持しようというような動機もあって、内部留保をためだしたというところがあると思います。コーポレート・ガバナンスを強化して株主の方の意見を取り入れていくということで、逆に言うと従業員の雇用という面に、もしかするとあまりいい影響がない部分があるかもしれないですが、そこは内部留保によって新しい産業が生まれてきたりするほうで新しい雇用さえ生まれれば、現在の雇用の確保というよりは、そちらにシフトしていっても、そこは選択肢としてそのほうがいいだろうというふうに、副大臣も大久保議員もお考えなんでしょうか。

西村:今の雇用環境が人手不足と言われるような環境、あるいは先ほど申し上げたような有効求人倍率が1.14ぐらい、1を超えて職のほうが多くなって人のほうが少ない。あるいは完全失業率もだいたい3.4%ぐらいですけれども、これも地域のミスマッチ、業者のミスマッチを考慮に入れれば、完全雇用に非常に近づいている水準だと思うんですね。ですから企業が、特に成長する企業が人材を確保していこうと思えば賃金を上げていく傾向にありまし、多くの成長企業が非正規社員を正規に変えていく、正社員としてしっかり雇って賃金も増やしていこう、職場環境もよくしていこうという方向にありますので、私はこれは非常にいい方向だと思います。そういう意味で、内部留保を賃上げに使ってもらう、あるいは正社員を増やす分に使ってもらう、こうしたことに対する支援策もありますので、これは非常にいい方向だと思います。
株主からすれば、もちろん自分たちの配当も増やしてほしいというのもあるでしょう。それから、私が先ほどから申し上げている賃上げに使う、あるいは設備投資に使う、あるいは中小企業との取引価格の引き上げに使う。こういうのをバランス良く、企業として成長のために何が必要なのか。次へのステップの手を打つ投資も必要でしょう、いい人材を確保するというので賃上げも必要でしょう。こういったことを含めて、株主の意見もしっかり聞きながら、企業としての戦略を立て直していく、そういう時期にあると思います。
先ほど大久保さんが言われた社外取締役の件は、われわれもいろいろ議論をしましたけれども、コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)という言い方をしているんですけれども、1人置くということをまずやってくださいと。できないなら、なぜ置けないのか説明してくださいというかたちで法律を去年つくったんですが、今年6月に東京証券取引所が出すコーポレート・ガバナンス・コードでは、2人以上置いてもらうということになっています。これもできなければ説明するということで、方向性としては社外取締役を置いていこうという方向になっていますし、すでに1人を置かなければ説明をするという法律ができるということも含めて、多くの企業が、上場企業はもう社外取締役を一気に増やしています。
そういう意味で、社外取締役を置いたからいい、それですべてが解決するわけじゃありませんが、やはり違う視点で企業の成長に外部の目で見て意見を言ってくれる、あるいは企業の改革を言ってくれる人が入ってくることは、これは企業のガバナンス改革にはつながると思いますし、成長には、私は大きなきっかけになると思っています。

別所:なるほど。ありがとうございます。

大久保:まず企業が内部留保をためているのは、将来景気が悪くなった場合に雇用を維持するため、そういった部分もありますが、まず認識しないといけないのは、20世紀と21世紀、雇用の仕方が相当変わっています。終身雇用制度というのは、だいぶなくなりつつあります。私がおりました金融機関、もしくはITに関しても、かなり流動的になっておりますから、むしろ社員がプロフェッショナルとして力を持っていく。もし失業した場合には、その人に対していろんな職業訓練をおこなっていく。その結果、企業は変わりますが、ちゃんとした職は残っていくと、こういうかたちが必要だと思います。特に北欧は、そういった点では一歩進んでいると思います。ですから、企業がすべて社員を守る、でも場合によっては、最後は会社が万歳してしまいましたら、かえって日本経済にとってプラスじゃありませんから、しっかりと企業のやること、国がやることを分けたほうがいいと思っています。
あと2点目。いわゆる法人実効税率を下げるということが安倍政権によって言われています。国と地方で35%の現行の税を、将来的には20%台にするということを表明されています。ところが、それが本当に経済成長のためになるのか、または財政危機という状況において企業だけの税金を下げることが本当にいいのか。私は大いに疑問です。
例えば有名な話として、トヨタの豊田章男社長が昨年の5月に、「自分たちは2008年から2012年税金は払っていなかったが、今回初めて払いました」と。非常にみなさん驚いていると思います。と言いますのは、トヨタは日本国内に相当コミットしておりますし、雇用もしっかりとやっていますし、日本国のために相当がんばっている会社です。そういった企業ですら税金を払っていなかった。つまり企業の構造が変わっています。どうして払っていないかといいましたら、当然リーマンショックのとき大きな損がありましたから、繰越欠損金を使って税金を一部縮小できた。さらにこちらが重要ですが、グローバル企業においては、売れるところで物を作りますから、そこに工場を建てて、そこで生産して売る、つまり海外の子会社に利益がたまっています。その利益を、日本に回帰した場合には税金はかからない。いわゆる配当金の益金不算入。ですから事実上は税金が相当低い。
これは財務省の資料ですが、売上高の多い5社、自動車産業においては何%かわかりますか?5%です。実質税負担が。電機もしくは家電等でしたら3.5%、商社等でしたら5%。これは全部国税ですから、今の国税の税率は25.5%。ところが実際に大企業が払っているのはその5分の1という程度です。こういった実態を明らかにしないと、ただ単に、税率を下げたらすべてがうまくいくというのはおかしいと思います。
このあたりに対して私どもは、実は野党で共同しまして資本金100億円以上の企業に対しては、少なくとも納税金額と所得金額を開示してよと。開示することによって、必要であります繰越欠損金とか、もしくはさまざまな租特に関しては、必要だったら必要だと。もっと具体的な議論をしないといけないと思います。表面的な議論よりも、実質的な議論が必要ですから、このあたりをぜひ与野党、国会で議論したいと思います。

西村:海外で上がった利益を、そのまま海外で投資をされるよりは国内に戻してほしい。そのときに税金が高く取られてしまうと、企業としては、「じゃあそのまま海外に投資しよう」となるので、そこは下げようということで、われわれ判断として下げたわけです。その戻ってきたお金がずっとためられてしまうと、これは良くありません。それは大久保さんがおっしゃるとおりなので、われわれはそれを設備投資なり、賃上げなり、いろいろなかたちで国内に経済の好循環をもたらすように使ってもらいたいということで、政労使の場を通じて経済界に申し入れをしたり、あるいは制度面でどんなことができるかということで、いろいろ考えていきたいと思います。基本的には国内でお金が回っていって、経済の好循環がいい方向に行くのが大事ですから、そのために何をできるかというのは常に考えておきたいと思います。

大久保:日本は社会主義ではありませんから、政労使で議論するのは必要ですが、国が賃金を上げろと言って本当に民間企業が上げるのか。自由な活動をしておりますから、いろいろな意味で国内需要を喚起することによって、いわゆる労働力不足ということで賃金が上がっていく、それが自然な姿です。国が賃金を上げろと言うのは、もしかしたらうまくいかない可能性が高いのではないですか。

西村:そこは、われわれもよくわかっています。わかっているのですが、デフレから脱却をしていく、通常は賃金が上がってくるのは、どうしても1年、2年遅れてくる。これは企業としても一時的でいいのではないかと。しかもずっとデフレでしたから、本当にインフレの環境の中で経済が活発化していくのか、収益がずっと上がっていくのかという見通しがつかない中で、なかなか上げにくいのだと思います。そこは、いろんな成長戦略なんかにもコミットしながら、われわれもやっていく。だから企業としても好循環をしっかりつくっていくためには、賃上げをやや、これはわれわれとしては政府が介入するのは異例だし、これはなかなか無理筋だというのはわかっているのですが、しかし15年来のデフレから脱却するには、もうこれしかないということです。もちろんお願いベースです。社会主義じゃありませんから、最終的には労使の交渉で決まっていくわけですが、われわれとしては要請をして、全体としてそういう環境をつくっていっているというのが現状です。