Yahoo! JAPAN 政策企画

APEC TEL51@Boracay:青少年保護ワークショップで日本の取り組みを紹介

5月11日から5月16日まで、フィリピン・ボラカイ島でアジア太平洋経済協力会議(APEC)の第51回Telecommunications and Information Working Group(電気通信・情報作業部会。略称APEC TEL51)が開催されました。Yahoo! JAPANもこのAPEC TEL51に参加し、青少年保護に関するワークショップでは日本のネット企業による自主取り組みや活動実績について発表し、参加者と意見交換を行いましたので、その様子をご紹介します。

今回の会場となったボラカイ島は、マニラから南へ約200km、美しい白砂で世界的に有名なビーチを有するリゾートです。しかし、日本からの道のりは、なかなかハード。ボラカイ島には空港がないため、いったんマニラからボラカイ島のすぐ南にあるパナイ島へ向かいます。国内便でパナイ島へ到着すると、その先は陸路と海路。APEC参加者のために準備されたパトカーに先導されながら島内のデコボコ道を走ること1時間半。車酔いでフラフラとなったところで救命胴衣を渡され、ボートに乗り換え、放心状態で波に揺られているうちに、ついにボラカイ島に到着しました。
これから会議が行われるとは思えない雰囲気のビーチに到着した各国の会議参加者一行を現地フィリピンのスタッフたちが迎えてくれます。スタッフには若い人がかなり多く、周辺の大学から学生らがこの一大イベントのサポート役として参加しているとのこと。各国の参加者たちを親切にホストしてくれました。


●APEC TELの概要
APEC TELは、APEC域内における
・新たな成長へ向けたICT開発
・ICT利活用を通じた社会経済活動の向上
・安全・安心なICT環境の推進
・地域経済統合の推進
・ICT分野における協力の強化
などをテーマにAPEC域内のICT政策の担当者や関係事業者が集まって議論を行う場です。取り上げる政策テーマが多岐にわたることから、実際の議論は、これらの各テーマに取り組むために設置された、
・Development Steering Group (DSG、開発分科会)
・Liberalization Steering Group (LSG、自由化分科会)
・Security and Prosperity Steering Group (SPSG、セキュリティ繁栄分科会)
という3つの分科会において進められています。政策担当者が主な参加者ですが、Yahoo! JAPANのように各国・地域の企業も参加して、政府とビジネス双方が入り混じって議論がなされる場です。今回の日本側出席者も、政府機関からだけでなく、企業、シンクタンク等からも複数の参加がありました。
今回のTEL 51では、LSGでOTT(Over the TOP)やオープンデータ、DSGでIoT(Internet of Things)やホワイトスペース、SPSGで安全なインターネット環境の整備、サイバーセキュリティフレームワークや災害対応というテーマでワークショップやラウンドテーブルが開催されました。今回、筆者は、SPSGにおける安全なインターネット環境の整備に関するワークショップ、DSGにおけるIoTに係るワークショップに参加しました。このうち、SPSGのワークショップでは、Yahoo! JAPANをはじめとした日本のネット企業による青少年保護のための自主取り組みや活動実績についてプレゼンし、参加者と意見交換を行いましたので、このセッションでの議論について報告します。


●青少年保護に関するワークショップの議論
SPSGでは、5月13日に「安全なインターネット環境の整備」をテーマとしたワークショップが日本政府主催のもと開催されました。このワークショップのなかで「青少年保護」をテーマとしたセッションが開催され、日本、台湾、マレーシア、フィリピンの政策担当者、研究者、民間企業の担当者らが、自らの取り組みや経験を共有しました。

インターネット上での青少年保護の取り組みについては、これまでの日本の議論は、
①青少年が成長段階に応じてインターネットを使いこなすための能力を身に付けるための支援
②青少年を犯罪被害から守るための違法行為の検挙や違法・有害コンテンツの削除
という2つの側面の双方を重視して進められてきました。また、こうした取り組みにあたっては、他のインターネットユーザーの表現の自由に最大限配慮し、青少年自身の表現の自由や知る権利にも配慮する必要があります。したがって、青少年に対する犯罪行為などに対して当局による厳正な対処が必要な一方、「青少年にとって有益な情報はなにか?有害な情報はなにか?」という「情報の中身」に関する判断については公権力が介入せず、保護者、教育関係者、アカデミア、企業等の民間主体の自主的な判断に委ねるべきであるという考えに基づいた取り組みが、これまでなされてきました。
こうした観点に立ち、日本からは、KDDI研究所から青少年のインターネット・リテラシーの計測指標(前述①の実施に対する評価に必要となる指標)を紹介するとともに、Yahoo! JAPANから日本のビジネスコミュニティによる青少年保護のための違法・有害情報の削除のための活動(前述②の民間による実施例)を紹介しました。
具体的には、Yahoo! JAPANをはじめ日本のインターネット関連企業が一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)で行っている、違法・有害情報の通報を受け付ける民間版ホットライン業務(詳細はhttp://www.safe-line.jp/)を紹介し、この業務経験や統計をもとに問題の所在や対策の方向性について意見を述べました。
SIAの活動に関するプレゼンの要旨は以下のような内容です。

・SIAは、Yahoo! JAPANをはじめ日本のインターネット関連企業がインターネット上のさまざまな社会問題の実効的な解決を目指して2013年に設立した団体である。SIAはインターネットを将来にわたって多くの人々が自由で安価に利用できるよう、現にインターネット上で起きている社会問題を解決し、インターネットに対する信頼を維持していくことを目指している

・SIAに寄せられる違法・有害情報の通報内容、INHOPE(ヨーロッパを中心とした約50カ国のホットラインセンターの連携組織)やIHC(インターネット・ホットラインセンター)の統計から判断するに、児童ポルノやリベンジポルノなどの青少年の権利を著しく侵害する違法情報の多くが、複数の国のサーバーに散在しており、こうした情報への対処には国際連携が重要となる

・一般的に、海外サイトに掲載された違法情報を削除するにあたっては、違法情報の定義が各国で異なること、違法情報の削除に関するプロバイダ等の法的責任の範囲が各国で異なることなどがハードルとなると考えられている

・もっとも、現在流通している、違法情報の多くが違法行為目的の専用サイトではなく、一般消費者向けサービス(SNS、メッセージアプリ、動画共有サイト等)に掲載されており、違法情報の掲載をサービス提供者が申告等によって認識することができれば、各サービス提供者の利用規約に基づく対応で削除措置を取ることが可能である。また、各国で利用されている大手のネットサービスの利用規約は同一企業によって提供されていることも多く、共通部分も多い

・したがって、海外の違法情報は対応が難しいと一般的にいわれているものの、消費者向けサービスを提供する事業者が適切に通知を受ける仕組みができれば、海外サイトに掲載されている情報であっても利用規約に基づく削除が可能な場合も多い

・実際、SIAで削除依頼を行っている児童ポルノやリベンジポルノの動画や画像は海外サイトに掲載されているものであっても相応の比率で削除されている

出席者からは、実務経験や統計に基づきよく分析がなされているとのコメントもいただきましたが、他方で、例えばマレーシアの出席者から、SIAが念頭に置いているような児童ポルノやリベンジポルノなどの違法情報は利用規約に基づいて各国共通の対応が可能だろうが、宗教的侮辱(宗教指導者に対する皮肉やパロディ)については米国のSNSに投稿されても削除されない例もあり、民間事業者による利用規約に基づく対応が必ずしも機能しない例もあるということが指摘されました。
宗教に対する侮辱表現などは、Yahoo! JAPANが日本でサービスを運営しているなかで直面する場面は極めて限定的ですが、多様な文化・宗教・歴史的背景をもつ国々が集まったAPECという枠組みにおいては、宗教に関する表現をどのように取り扱うかは大きな問題であるということを実感しました。

このほか、台湾のInformation & Communication Security Technology Centerから、台湾の青少年保護のための法制度に関して、全体の枠組みの説明があった後、SIAと同様にホットライン業務を行っている台湾のiWINという機関の紹介やiWINに寄せられる通報内容の分析などについて説明がありました。iWINでも通報された違法情報が海外サイトに掲載されていることが問題となっている点などは日本と共通しており、今後、互いの活動のノウハウを共有しあうことでより実効的な対策を取る余地が大きいように思われます。来月、台湾において、iWINを中心に日本、韓国、香港等の関係者が集まって青少年にとって安全なオンライン環境をどのように構築するかについてシンポジウムが予定されており、SIAもゲストとして参加します。こういった場を通じて、各国の共通課題について解決に向けた連携を探っていきたいと思います。また、マレーシアから、青少年向けに行ったインターネット・リテラシー向上のためのワークショップの教材の紹介などもありました。いずれの地域も、青少年のスマートフォン利用が拡大するなかで生じる新たな問題に直面して、それぞれの模索を始めています。


●インフォーマルな場こそ大事な交流の場
APEC TELでは、分科会やワークショップなどの公式会合のほかに、休憩時間のティータイムやランチタイムでの非公式の意見交換、また、Welcome DinnerやCocktail Partyなど、APEC域内さまざまな地域から集った参加者が交流するための場が準備されています。TEL参加者は、各国を代表する立場であるとともに、情報通信分野の専門家として共通の課題認識をもった一つのコミュニティであり、そのコミュニティにおける議論を実のあるものにするには、参加者同士の人間的なつながりが非常に重要になってきます。
こうした場で、積極的に参加者の輪に入っていくことは、多くの日本人が苦手とするところかもしれませんが、公式の会合以上に率直な意見交換が行われる重要な場です。今回、筆者はワークショップでプレゼンしたこともあり、複数の参加者から率直なフィードバックを受けることができました。日本は、APEC域内でも、表現の自由に重きを置く国の代表例であるとともに、非常に早い時期から青少年のインターネット利用が一般化し、それに伴い青少年保護の取り組みの積み重ねがあります。もちろん、文化や歴史が異なる国々に、日本の考えや政策をそのまま適用できるわけではありませんが、今後、各国で青少年保護の取り組みを進めるにあたって、日本の経験が貢献できる余地は大きいはずです。公式の会議、非公式の交流の場、双方でもっと英語で発信していかなければいけません。


余談ですが、会場となったホテルから歩いてすぐのビーチでは、毎日、見事な夕陽を眺めることができました。日没の時間になると、浜辺は夕陽に向けてスマホをかざすカップルやファミリーであふれます。会議の議長も、夕方が近づいてくると、「早く会議を終えて、皆さん、夕陽を見に行きましょう」と冗談めかすなど、会議を終えた後に眺める夕陽が今回のTEL51の一つの名物だったようにも思います。今度はプライベートで来たい、いやあの悪路はもうゴメンだ、そんなことを考えるボラカイ島の夜でありました。次回、TEL52は2015年秋にニュージーランドで開催されます。