Yahoo! JAPAN 政策企画

アジア太平洋地域のインターネット・ガバナンス・フォーラム(2016 APrIGF Taipei)に出席(後編)

2016年7月27日から29日にかけて、台湾・台北の国立台湾大学病院の国際会議場(NTUH International Convention Center)において、アジア太平洋地域のインターネット・ガバナンス・フォーラム(Asia Pacific Regional Internet Governance Forum:APrIGF)が開催されました。後編では、Yahoo! JAPANが参加したその他のワークショップやレセプション等を一部ご紹介します。

1. その他のワークショップ
7月27日から29日にかけて、さまざまなワークショップが開催されました。今回のAPrIGFの全体的なテーマは「新たなインターネットの時代-物理空間とサイバー空間の融合(A New Internet Era – Merging Physical Space with Cyberspace)」、サブテーマは①IANA機能の管理移管の将来的な影響、②セキュリティー、③人権、④国際協定や政策の影響、⑤ユニバーサリティー、⑥サイバー・コネクティビティーでしたので、全体的なテーマを念頭に多岐にわたる議論が行われていました。

・2016 APrIGF Taipeiのアジェンダ:https://2016.aprigf.asia/program/agenda/ 

上記アジェンダにもあるように、フォーラム期間中、実に30以上のワークショップが開催されました。また、クロージング全体会合では、台湾情報基盤振興協会(NII)の最高経営責任者(CEO)、Kuo Wei Wu氏から、今回、300人以上が現地で参加し、580人以上が遠隔で参加したとの発言がありました。Yahoo! JAPANは実際に参加し、海外におけるインターネット・ガバナンスに対する関心の高まりを感じました。

(1) Internet Architecture & Human Rights
7月28日、インターネット・アーキテクチャがとりわけプライバシーやデータ保護、表現の自由との関係で人権に関するインプリケーション(含意)を持ちうるとの認識が高まっているとして、インターネットの資源管理を行っているICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)や、インターネット技術の標準化を推進する組織であるインターネット技術タスクフォース(Internet Engineering Task Force: IETF)における議論を踏まえつつ、ワークショップが開催されました。そこでは、インターネット・アーキテクチャにおける人権やデータの保護、表現の自由の保障に関する各ステークホルダーの役割、ICANNやIETFのようなコミュニティーにおける個人データの保護の責任(accountability)をいかに確保するか、インターネット・レジストリーが管理するインターネット資源の登録情報を提供するサービスであるWHOISの現状と今後等について話し合われました。各登壇者からは、そもそもプライバシーとは何かに加え、各国・地域におけるプライバシー関連法や政策の差異について説明がありました。また、IANA機能の管理移管プロセスに関する提案の中にも人権に関する定款上のコミットメントが入っていること、WHOISの後継と言われているプロトコルであるRDAP(Registration Data Access Protocol)に関する議論についても紹介がありました。最後に、国際的なデータの流通に関する政府の立場や、米国とその他諸国との間で犯罪の証拠を交換するためのものである「刑事共助条約(Mutual Legal Assistance Treaty: MLAT)」の現状と問題点についても説明がありました。

(2) The Role of the Key Stakeholders in Disrupting the Dissemination of Child Sexual Abuse Material (CSAM) Online
7月28日、DotKids FoundationおよびECPAT International共催にて、オンライン上の児童ポルノの発見や拡散防止に向けた産業界や市民社会の取り組み、そして官民連携に関するワークショップが開催されました。マイクロソフト社からは、児童ポルノを自動的に検知し通報する無償のサービスである「Photo DNA」の紹介があり、同社が保有する膨大なデータをもとにこれまで実績を残してきたこと、児童の誘拐が大きな問題となっている中国でのプロジェクトにつき説明がありました。また、一例として、4年間行方不明だった児童をこの「Photo DNA」を使うことによって発見できたことにつき話がありました。フェイスブック社からは、コミュニティー規定違反に関するフラグ機能や非政府組織(NGOs)との連携を通じ、児童ポルノの問題については厳しい姿勢で取り組んでいる旨の説明がありました。この他、ECPAT Taiwanからは、ウェブ・ベースのホットラインや米国の非政府機関(NGO)である「児童失踪・児童虐待国際センター(International Centre for Missing and Exploited Children: ICMEC)」の活動、児童ポルノが国外サイトに掲載されていた場合の管轄権の問題等に関するがあり、DotKids Foundationからは、1989年に国連総会で採択された「児童の権利に関する条約」に言及しつつ、児童関連の分野別トップ・レベル・ドメイン(gTLD)は児童の福祉(well-being)のために使用されるべきとし、児童によるインターネット・ガバナンスへの参加や児童ポルノの通報サイト(eHelpline)等、包括的なプレゼンテーションが行われました。加えて、ICMECのシンガポール支部からは、児童の搾取の現状やICMECの活動、米国の「反児童ポルノ金融連合(U.S. Financial Coalition Against Child Pornography: FCACP)」や2009年から始まったアジア太平洋地域版のFCACP(APAC-FCACP)にYahoo! Inc.も含め多くの企業が参加していること等につき紹介がありました。

(3) Cybersecurity Threats Possible Collaboration in South and South East Asia
7月29日、南アジアおよび東南アジアにおけるサイバー・セキュリティーに関するワークショップが開催されました。アフガニスタン、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ等におけるインターネットの接続状況やサイバー・インシデントの状況、ならびに各国におけるサイバー・インシデントへの対応ぶりについて、各登壇者から報告がありました。例えば、アフガニスタンではインターネットの普及率が6%しかないにもかかわらず既にサイバー脅威にさらされており、実際に被害も発生しているそうです。また、アフガニスタンにはパキスタンとイランから海賊版のソフトウエアが入ってきており、政府でさえもライセンス版を使っておらず、ぜい弱性を含んだソフトウエアを使い続けているとのことです。パキスタンでは、サイバー・セキュリティーに関する政策と立法が相当程度遅れており、現在の状況に追いついていない上、国境を越えるサイバー脅威への対策が進んでいないとのことでした。この他、バングラデシュやスリランカにおけるコンピューター緊急対応チーム(Computer Emergency Response Team: CERT)の活動、2001年に採択された「サイバー犯罪に関する条約」への加盟状況等についても説明がありました。

その他、市民社会のイニシアチブである「媒介者責任に関するマニラ原則」を取り扱ったワークショップや、中小企業によるデジタル経済への参加を取り扱ったワークショップにも出席しました。また、興味深いワークショップとしてインターネット政策と野生生物の保護を取り扱ったものがあり、オンライン上の違法な野生生物取引に対しどのように取り組んでいくかが議論されていたようです。クロージング全体会合では、香港の非営利組織DotAsia OrganizationのPRキャラクターであるアジトラ(Ajitora)が登場しました。


(クロージング全体会合に登場したアジトラ。2022年までにトラの生息数を2倍にするという目標「Tx2」の大使を務めているそうです。)

2. ネットワーキング・イベント
フォーラム期間中、アジア太平洋地域のさまざまな利害関係者と意見交換を行う場が多数用意されていました。ワークショップの合間には30分の休憩時間があり、会議室の外のスペースにコーヒーや軽食が用意されていました。また、オープニング全体会合が行われた会場にビュッフェ方式の昼食も毎日用意されていました。さらに、7月27日の夜はフォーラム会場にて、同28日の夜は台北の超高層ビル「台北 101」の75階にあるGoogle Caféにて、ディナー・レセプションが開催されました。Yahoo! JAPANはこのディナー・レセプションにも参加し、数多くの利害関係者とネットワーキングを行うことができました。


(「台北 101」の75階にあるGoogle Caféでのディナー・レセプションの様子)

インターネット・ガバナンス・フォーラムにおいても、さまざまな利害関係者との意見交換を通じたネットワーキングが非常に重要です。参加したワークショップの内容を掘り下げたり、参加できなかったワークショップの内容を聞くことができるのみならず、それぞれの利害関係者が専門としている分野の最新動向や今後の協力について話し合うことができます。そして、これまでも述べてきていますが、国際的なルール・メイキングに特定の意見を反映させるためには、こうした活動を通じた「仲間作り」が必要不可欠なのです。

3. 会合を終えて
ICANNのBoard MemberであるMarkus Kummer氏がオープニング全体会合で述べ、クロージング全体会合でもAPNIC事務局長のPaul Wilson氏がその言葉を引用したように、インターネット・ガバナンス・フォーラムは意思決定を行うためのものではありませんが、意思決定者(decision makers)のために存在するものです。さまざまな利害関係者が一堂に会し、多種多様な視点から議論を行うことによって、インターネット・ガバナンスに関するさまざまな課題の解決策を検討します。そしてその結果が、インターネット・ガバナンスに関する意思決定権限を有するさまざまな利害関係者の判断要素の一つになり得るのです。
この点、国連の下に設けられたグローバルなインターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)においては、国別および地域別イニシアチブ(National and Regional IGF Initiatives: NRIs)を重視する傾向にあります。したがって、APrIGFも地域別イニシアチブの一つである以上、そこでの議論がグローバルなレベルで考慮されていくことになるでしょう。その意味では、APrIGFにも積極的に参加し、さまざまな利害関係者とのネットワーキングやワークショップの開催、そして統合文書(Synthesis Document)への意見出しを行っていく必要があります。
Yahoo! JAPANは、世界中の誰もが自由に参加できる、グローバルで共通な環境こそがインターネットの本質的価値であり、国境を越えた表現活動や経済活動をより活発化することのできるツールであるということを繰り返し述べてきています。そうしたインターネットが本来のインターネットの姿であり続けられるように、アジア太平洋地域におけるインターネット・ガバナンスの議論にも積極的に参画していきます。

※なお、来年のAPrIGFはオーストラリアのメルボルンで開催される予定です。


(パワースポットとして有名な龍山寺)

(KM)