Yahoo! JAPAN 政策企画

世界貿易機関(WTO)パブリックフォーラム2016に出席

2016年9月27日から29日にかけて、スイス・ジュネーブの世界貿易機関(World Trade Organization: WTO)本部において、WTOパブリックフォーラム2016が開催されました。今回、Yahoo! JAPANはこのフォーラムに参加しましたので、ご紹介します。

1. 世界貿易機関(WTO)とは?
WTOとは、ウルグアイ・ラウンド交渉の結果、「関税および貿易に関する一般協定(GATT)」を継承する形で1995年1月1日に設立された国際機関です。WTO協定(WTO設立協定およびその付属書に含まれている協定の集合体)には、国際貿易に関するさまざまなルールが定められており、その分野としては、大きく分けて①物品、②サービス、③知的所有権があります。また、加盟国間の貿易紛争を解決するための紛争処理制度や、加盟国の貿易上の政策や慣行を定期的に審査する貿易政策検討制度もあります。

WTOの任務は、その設立協定の第3条に規定されていますが、簡潔に言えば、加盟国間のさまざまな貿易がルールに基づいて円滑に行われるよう支援するとともに、多角的貿易関係に関する加盟国間の交渉の場を提供することです。また、紛争処理制度を通じ多角的貿易体制に安定性および予見可能性を与えたり、貿易政策検討制度を通じ各加盟国の貿易政策や貿易慣行についてさらなる透明性を確保したりすることも重要な任務です。さらに、必要に応じて国際通貨基金(IMF)、国際復興開発銀行(IBRD)および同銀行の関連機関と協力することも任務として挙げられています。

多角的貿易交渉は「ラウンド」と呼ばれ、GATT時代に8回にわたり開催されました。WTO設立後は、2001年11月から多角的貿易交渉が行われていますが、開発途上国の意向を踏まえ「ドーハ開発アジェンダ(DDA)」と呼ばれています。このDDA交渉は長年にわたり停滞しており、2013年12月にインドネシアのバリで開催された第9回WTO閣僚会議(MC9)の結果、貿易円滑化、農業、開発の3分野の部分合意を中心とした「バリ合意」に達したものの、2015年12月にケニアのナイロビで開催された第10回WTO閣僚会議(MC10)では、今後もDDA交渉を継続すべきかにつき、これまでの経緯を踏まえ打ち切るべきとする先進国と継続すべきとする途上国で対立し、結局MC10の成果文書である閣僚宣言には、両者の立場を併記する内容となりました(なおMC10の主な成果としては、情報技術協定(ITA)品目拡大交渉の複数国間合意や、輸出補助金を含む農業分野の輸出競争等の合意が挙げられます)。

(世界貿易機関(WTO)本部入口)

2. WTOパブリックフォーラムとは?
WTOパブリックフォーラムは、毎年スイス・ジュネーブのWTO本部で開催されるWTO最大規模のイベントです。政府や国際機関のみならず、市民社会やアカデミア、民間セクター等から毎年1500人以上が参加するもので、国際貿易に関する最新の動向を共有したり、いかにして多角的貿易体制を強化できるかを議論するためのプラットフォームであると言われています。

今年で15回目になるWTOパブリックフォーラムは、9月27日から29日にかけて開催されました。テーマは「Inclusive Trade(包摂的な貿易)」でしたが、主に以下3つのポイントに焦点を当てて、100を超えるさまざまなセッションが開催されました。

(1) 今後中小企業(SMEs)が国際貿易においてより大きな役割を担うことを踏まえ、中小企業(SMEs)によるグローバル市場への参加を強化するためにはどのようにすべきか?

(2) デジタルイノベーションが国際貿易の成長に寄与し、同時に国際貿易がデジタルイノベーションの原動力となることから、新たな技術と貿易の関係性の強化やインターネットガバナンスの問題をどのように考えていくべきか?

(3) 女性による国際貿易への参加をどのように強化すべきか?

100を超えるセッションの中には、これまでにも増してデジタル貿易に関するものが多く、電子商取引やサイバーセキュリティー、情報格差(Digital Divide)を中心に数多くのセッションが開催されていました。Yahoo! JAPANは今回のWTOパブリックフォーラムに実際に参加し、政策面におけるインターネットと経済の融合、そしてインターネットと国際貿易の融合にさらに注目が集まっていることを実感しました。そして、世界各国のさまざまな利害関係者が、企業による事業活動に直接的な影響を及ぼす国際的なルール・メイキングに向けて積極的に活動している姿を見て、日本の民間セクターがもっと声を上げていく必要性を改めて痛感しました。

3.ワークショップ「Digital Trade for Digital Economy」に出席
Yahoo! JAPANは、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部が主催したワークショップ「Digital Trade for Digital Economy」に出席しました。このワークショップは、デジタル経済がグローバルな経済成長に大いに寄与していることを踏まえ、とりわけ国境を越える情報の自由な流通の重要性、ならびにある国の領域で事業を行うための条件として、その領域においてコンピューター関連設備の利用や設置を要求するデータローカライゼーション(Data localization)の影響に焦点を当て、WTOがどのような役割を担うべきかにつき議論を行うものでした。パネリストには、Cody Ankeny氏(米国情報技術産業協議会(ITI))、Javier López González氏(経済協力開発機構(OECD))、横澤誠氏(経済団体連合会(経団連))、Torbjörn Fredriksson氏(国連貿易開発会議(UNCTAD))が名を連ね、Jonathan T. Fried氏(在ジュネーブカナダ政府代表部大使)がモデレーターを務めました。

Cody Ankeny氏からは、データセンターとインターネット・エクスチェンジ・ポイント(IXP)の距離がインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)にとっての費用や効率性の観点から重要であり、データローカライゼーションはそうした企業にとって追加的な費用を発生させるといった発言がありました。また、Torbjörn Fredriksson氏からはアフリカを中心とした情報格差(Digital Divide)の問題について、Javier López González氏からは情報の自由な流通がグローバル・バリュー・チェーン(GVC)に及ぼす影響や、一口にデータローカライゼーションといっても具体的にどのような措置があるのかを詳しく調査し、共通の要素を抽出し、その影響を評価する必要があるといったような発言がありました。横澤誠氏からは、いくつかの企業の実例を挙げながら、全てのデータビジネスがデータローカライゼーションによって影響を受けるといった説明がありました。

各パネリストからのプレゼンテーションが終了した後は、国境を越える情報の自由な流通の確保とデータローカライゼーションの問題を誰がどこでどのように取り扱っていくべきかやWTOが果たすべき役割について、パネル・ディスカッションが行われました。

(在ジュネーブ国際機関日本政府代表部主催ワークショップの様子)

4. 在ジュネーブ国際機関日本政府代表部主催レセプションに参加
Yahoo! JAPANは、上記ワークショップに引き続いて、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部が主催したレセプションにも参加しました。そこでは、日本政府の関係者のみならず、各国政府代表部のWTO担当官や国際機関職員、国際商工会議所(ICC/BASIS)の関係者と意見交換を行いました。

(在ジュネーブ国際機関日本政府代表部主催レセプションの様子)

5. 結びにかえて
米国情報技術産業協議会(ITI)は、各国のデータローカライゼーションに関する措置や潜在的な措置をリストアップし公表しています。ある国の領域で事業を行うための条件として、その領域においてコンピューター関連設備の利用や設置を要求するものがデータローカライゼーションですが、そうした措置を各国が採る目的としては、自国でプライバシーやセキュリティーを守り、経済成長を促進するためと言われています。他方、国外の企業からすれば、適切なプライバシー保護法制がなく、サイバーセキュリティーが整備されていない国からそのような要求を受けた場合、追加的なコストの可能性を含む過度なビジネスリスクを抱えたままその国に進出せざるを得なくなります。あるいは最悪の場合、進出そのものを断念せざるを得なくなります。この点、Albright Stonebridge Groupが2015年9月に発出したペーパー「Data Localization: A Challenge to Global Commerce and the Free Flow of Information」は、データローカライゼーションに関する措置のグローバルな増加を理解する上で中心となる5つの点を挙げています。要約すると、

(1) インターネットはグローバルなものであるにもかかわらず、データローカライゼーションはローカルな措置であるために矛盾を引き起こしている

(2) 消費者に関する莫大なデータを保有する企業にとってはグローバルな規則と国レベルの規則の組み合わせを理解し対応しなければならない一方、政府にとってはデータとそのアクセス方法を管理している企業からいかにして協力をとりつけるべきかを考えなければならず、この問題を取り扱うためには民間セクター、NGOs、そして国家の継続的協力が必要となる

(3) 世界中の人々がデジタル時代における個人情報の脆弱性に懸念を有していることをもって、多くの国がデジタル貿易の物理的管理を主張しようとしており、その結果データローカライゼーションが一手段として挙げられるようになっている

(4) データローカライゼーションはいわゆる「データ保護主義(data protectionism)」の兆候であるが、ここでも、自国産業の保護という短期的な経済発展を目的としてコンピューター関連設備の利用や設置を国外の企業に対し要求することによって、長期的には外国投資の減少を引き起こすような深刻な経済的影響を及ぼしうるという矛盾が生じる

(5) 国外企業がデータローカライゼーションに反対してきているものの、国内企業は未だ自らの利益を守るために立ち上がっておらず、データローカライゼーションに反対する何らかの措置を採らなければ、今後企業は重要なマーケットへの進出を諦めるか、自らの消費者や経済的利益を損なうような規則に従わざるを得なくなってしまうであろう

インターネットは本来、誰もが自由に接続ができ、意見や情報を発信できるグローバルで共通な環境であり、そのような参加への障壁の低さや情報の自由な流通こそが、活発な経済活動や自由な表現活動などの国のかたちの根幹を支える価値をもたらします。データローカライゼーションは、このようなインターネットの本質的価値やそのユーザーを損なうのみならず、グローバルなインターネットの断片化(fragmentation)を引き起こしかねません。

デジタル貿易は、インターネットの本質的価値を尊重することなしに発展することはありません。言い換えれば、デジタル貿易に関する適切なルール・メイキングを進めていくためには、国際通商のルールのみならず、インターネットガバナンスに関する専門的知見が必要です。そして何よりも、伝統的に各国政府のみが参加する貿易交渉と、政府のみならずさまざまな利害関係者が参加するというマルチステークホルダー・アプローチを採っているインターネットガバナンスとをどのように調和させていくかが、今後デジタル貿易に関する国際的かつ適切なルール・メイキングを進めていく鍵となるでしょう。Yahoo! JAPANは、国内外の全てのビジネスに大きな影響を及ぼすであろうデジタル貿易に関する分野横断的な専門的知見を積み重ね、デジタル貿易が世界中のより多くの人々の豊かな生活に資するよう、国内外の議論に参加していきます。

(※なお、現在発効が待たれている環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の第14章にはデータローカライゼーションの禁止が規定されています(第14・13条)。もっとも、公共政策の正当な目的を達成するための措置であって、恣意的もしくは不当な差別の手段、または偽装的な貿易制限とならないように適用され、目的の達成のために必要以上に制限的でない場合、例外的にデータローカライゼーションが認められるとされています。)

(KM)


【参考資料】
WTOホームページ:https://www.wto.org/ 
外務省の関連ページ:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page2_000003.html 
経済産業省の関連ページ:http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto/ 
在ジュネーブ国際機関日本政府代表部の関連ページ:
http://www.geneve-mission.emb-japan.go.jp/itpr_ja/event_20160927_j.html 
内閣官房TPP政府対策本部:http://www.cas.go.jp/jp/tpp/index.html 
米国情報技術産業協議会(ITI)の関連ページ:
https://www.itic.org/policy/forced-localization/data-localization