Yahoo! JAPAN 政策企画

インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF Mexico 2016)に出席(後編)

2016年12月5日から9日にかけて、メキシコ・グアダラハラの文化通信宮殿(Palace of Culture and Communication: PALCCO)において、インターネット・ガバナンス・フォーラム(Internet Governance Forum: IGF)が開催されました。後編では、Yahoo! JAPANが主催したもの以外のセッションやレセプション等を一部ご紹介します。

1. その他のセッション
12月5日から9日にかけて、さまざまなセッションが開催されました。今回のIGFのメインテーマは「包摂的で持続可能な成長を実現する(Enabling Inclusive and Sustainable Growth)」でしたが、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にあるような持続可能な成長を実現する上でインターネットが果たしうる役割に焦点を当て、非常に多岐にわたる議論が行われました。

セッションの形式としては、通常のワークショップに加えて、メイン・セッション、オープン・フォーラム、ダイナミック・コアリッション、ベスト・プラクティス・フォーラム等がありました。ワークショップのテーマについては、以下のように分類されていました。

(1)アクセスと多様性(Access & Diversity)
(2)重要なインターネット資源(Critical Internet Resources)
(3)サイバー・セキュリティー(Cybersecurity)
(4)新たな課題(Emerging Issues)
(5)ジェンダーと若年者に関する課題(Gender and Youth Issues)
(6)オンラインの人権(Human Rights Online)
(7)さまざまな利害関係者間の協力(Multistakeholder Cooperation)
(8)持続可能な開発とインターネット経済(Sustainable Development & the Internet Economy)

・IGF Mexico 2016のアジェンダ:https://igf2016.intgovforum.org/ 

(オープニング・セッションの様子)

会合後の議長サマリー(12月16日付)にもあるように、今回のIGFには、123カ国から2000人を超える人が約200の各種セッションに現地参加し、加えて1000人を超える人がオンラインで参加したとの事です。これらの数字は、世界各国のさまざまな利害関係者が、いかにインターネット・ガバナンスの重要性を認識しているかを物語っていると言えます。

Yahoo! JAPANは、このIGFにおいても多くのセッションに参加しましたが、その中からいくつかを以下にご紹介します。

(1)OF 20: Japan
12月6日、日本政府主催のオープン・フォーラムが開催されました。このセッションでは、鈴木茂樹総務審議官をはじめ日本の官民関係者のみならず、ドイツ政府、欧州委員会、インターネット協会(Internet Society: ISOC)の関係者も参加し、本年4月末に開催されたG7香川・高松情報通信大臣会合および同伊勢志摩サミットの概要と成果、そして各利害関係者の現在の取組みと今後について話し合われました。質疑応答では、ISOCイタリア支部や英国政府から発言がありました。セッションでは、インターネット政策の議論にさまざまな利害関係者が参加するマルチステークホルダー・アプローチの重要性に関する認識が共有されました。

(2)WS87: Law Enforcement, Cyberspace & Jurisdiction
12月7日、欧州評議会(Council of Europe)やブラジルの検察当局、マイクロソフト等が登壇し、サイバー空間が属地主義(territoriality)や管轄権(jurisdiction)の概念に及ぼす影響や法執行当局にとっての課題、そしていかにしてサイバー空間の断片化を避け、法の抵触を減らし、オンラインの人権を守るかにつき議論が行われました。そこでは、他国に所在する企業に対し執行管轄権を行使することは困難であること、ある一国の法律を守るためにその国の当局によるデータ提出要請に従えば、他国の法律違反につながるといったこともありうるため、サイバー空間における法執行については国家間協力が不可欠であるといった話がありました。加えて、コンピューター・システムに対する違法なアクセス等一定の行為の犯罪化、コンピューター・データの迅速な保全等に係る刑事手続きの整備、そして犯罪人引渡し等に関する国際協力等につき規定している「サイバー犯罪条約(ブダペスト条約)」(2001年11月23日署名)についても言及がありました。

(3)WS152: Working Together: Collaborative Security in local contexts
12月7日、インターネット協会(Internet Society: ISOC)と日本インターネットガバナンス会議(Internet Governance Conference Japan: IGCJ)の共同提案で、ISOCが提唱するセキュリティーに対する考え方である「協調的セキュリティー(Collaborative Security)」とそのアプローチが持続可能な経済社会的成長にどのような影響を与えるかにつきワークショップが開催されました。そこでは、IGCJセキュリティードキュメントチームが執筆した「セキュリティに対する考え方」が紹介されました。その上で、「Think Globally, Act Locally」の考え方や官民セクターの連携、大陸レベルと地域レベルでの連携の重要性に関する発言がありました。この他、サイバー脅威に対するレスポンスに関する共通理解の醸成、脆弱(ぜいじゃく)なDNSサーバーを減らすだけでもサイバー・リスクをかなり減らすことができること、国の状況に応じたベストな方法を見つける必要があるが、サイバー・セキュリティーはグローバルなインフラストラクチャーの観点から重要であり、国内にとどまるものではないといった発言等、サイバー・セキュリティーの問題を考える上で鍵となる発言が相次ぎました。

(4)OF 23: China
12月7日、中国政府主催のオープン・フォーラムが開催されました。このセッションには、中国関係者のみならず、国連教育科学文化機関(United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization: UNESCO)のIndrajit Banerjee氏等も参加し、インターネットが文化の多様性、とりわけ少数民族の文化の保存や促進に果たしうる役割、中国における文化の保存に関する取組みについてプレゼンテーションが行われました。その中には、若い世代や外国人が伝統的な文化を理解する上でインターネットが積極的な役割を担うといった発言や、言語は文化を知る上で非常に重要といった発言もありました。なお、フォーラムの開始直前に、11月16日から18日にかけて中国浙江省烏鎮で開催された「第三回世界インターネット大会」の報告書(冊子)が会場の出席者に配布されました。

(5)WS66: Children’s rights to privacy, safety & freedom of expression
12月9日、インターネット上の児童保護のためのドイツセンター(German Center for Child Protection on the Internet)、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(London School of Economics and Political Science: LSE)、ディズニー・ワールドワイド・サービシーズ(Disney Worldwide Services, Inc.)、アジア観光における児童買春根絶国際キャンペーン(The International Campaign to End Child Prostitution in Asian Tourism: ECPAT)等の関係者が登壇し、プライバシーやセーフティー、表現の自由といった児童の権利についてプレゼンテーションや議論が行われました。そこでは、児童によるインターネットの利用状況と両親の役割、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の利用に関する同意の年齢や年齢制限をどのように考えていくべきか、そして児童の表現の自由とプライバシーにつきどのようなアプローチを採っていくべきかについて、さまざまな意見が述べられました。議論の中では、企業がマネタイズのために児童のデータを収集しているというコメントに対し企業関係者が反論するといった一幕もありました。


(中国政府主催のオープン・フォーラムの様子)

2. ネットワーキング・イベント
フォーラム期間中、世界各国のさまざまな利害関係者と意見交換を行う場が多数用意されていました。セッションの合間には休憩時間があり、会議室の外のスペースにコーヒーや軽食が用意されていました。また、公式プログラムには掲載されていなかったレセプションも複数あり、非常に多くの人が参加していました。

これまでも繰り返し述べていますが、国際会議の場でさまざまな利害関係者とネットワーキングを行うことは非常に重要です。なぜなら、参加したワークショップの内容を掘り下げたり、参加できなかったワークショップの内容を聞くことができるのみならず、それぞれの利害関係者が専門としている分野の最新動向や今後の協力について話し合うことができるからです。そして何よりも、自らの主義主張や具体的活動を国際的なルール・メイキングに反映させるためには、こうしたグローバルな「仲間作り」が必要不可欠です。

(レセプションの様子)

3. 会合を終えて
前編でも述べたように、IGFは何らかの意思決定を行う場ではなく、政府、民間セクター、技術コミュニティー、アカデミア、市民社会といったさまざまな利害関係者が一堂に会し、非常に多岐にわたるインターネットの公共政策課題を議論する場です。しかしそれ故に、12月9日に開催された「Taking Stock: Emerging Issues – Future of the IGF and IGF Retreat Consultation」というセッションの中でも発言があったように、「IGFでは議論ばかりして具体的な成果がない」といった批判があるのも事実です。もっとも、IGFで取り上げられたテーマや議論された事項は、国内外の意思決定権者に伝わりますし、ある提案が実際のルール・メイキングに反映されたり、ある国で実施されている措置が他国で実施されることも十分にありうるため、この批判が必ずしも正しいわけではありません。むしろ、どのようなインターネットの公共政策課題があってそれをどのように解決しうるのかを、世界各国のさまざまな利害関係者間で議論する貴重なフォーラムとして今後も重宝されていくでしょう。そしてそこで醸成された雰囲気が政策につながり、その政策が国内外の具体的なルールに落とし込まれていくことになるでしょう。

会議体としてIGFを見たときに、今後いかにして参加者を増やし国内外のプレゼンスをさらに高めていくか、国別および地域別イニシアチブ(National and Regional IGF Initiatives: NRIs)との連携をどのように強化していくか、次世代の若者をどのように取り込んでいくか、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)とのリンケージをどのように考えていくか、そして他の国際会議や国際機関との連携をどのように進めていくか、といったさまざまな課題があります。これらの課題を解決できるか否かは、国連関係者のみならず、実際にIGFに参加する利害関係者にかかっていると言えるでしょう。

私たちは普段、当たり前のようにインターネットを利用しています。しかし、世界には今もインターネットを利用できない人が約40億人も存在するのです。インターネットの利用が可能な国や地域においても、何らかの形でインターネットの利用に規制がかかっている場合も少なくありません。そうしたインターネット世界の状況の中に日本が存在するということを忘れてはなりません。

2050年には世界の人口が約100億人になる一方、日本の人口は1億人を切ると言われています。そうした日本の状況を鑑みても、グローバルで共通な環境であるインターネットを活用したビジネスはますます重要な意味を持っていくことになるでしょう。すなわち、国内にいても常にインターネットに関する国際的な動向を意識していかなければならないことを意味します。もしインターネットの規制を強化し、情報の自由な流通を大幅に制限しようとする国が増えてきた場合どうなるでしょうか。インターネットの国家管理を主張する国が数の力で世界を圧倒し、グローバルなインターネットが断片化すればどうなるでしょうか。各国市場への直接的・間接的な参入障壁が高くなり、インターネットによって推進されてきた世界規模のイノベーションや経済成長は損なわれ、人々もより良い生活のための多くの選択肢を失うことになるでしょう。そうであるからこそ、インターネット・ガバナンスを真剣に考え、議論に参加していく必要があるのです。

Yahoo! JAPANは、国境を越えた表現活動や経済活動をより活発化することのできる、グローバルで共通な環境というインターネットの本質的価値を守るために、そしてより多くの人々や社会の課題を解決し新たな希望を作り出すために、今後もIGFに積極的に参画していきます。

(K・M)