Yahoo! JAPAN 政策企画

憲法企画キックオフ記念イベント

憲法企画の立ち上げにあたり、今年2月20日、「憲法について議論しよう!」と題したイベントを行いました。東京大学大学院の宍戸常寿教授、京都大学大学院の曽我部真裕教授、日本経済新聞社の清水真人編集委員にご登壇いただき、国会や内閣のあり方など統治機構に関して活発に議論が行われました。

憲法における国会や内閣のあり方は 「統治機構」をテーマに討論会

ヤフー紀尾井町オフィス コワーキングスペース「LODGE」で開催した憲法イベントの模様
[写真]ヤフー紀尾井町オフィス コワーキングスペース「LODGE」で開催した憲法イベント

「憲法記念日に向けて」

今年は憲法施行70年の大きな節目であり、憲法改正論議が活発におこなわれています。
そして、5月3日の憲法記念日にもさまざまな催しが開催され、多くの方々が憲法について考える機会を得られることと思います。もちろん、そのような機会は重要です。
しかし、1年のうち憲法記念日以外の364日も憲法について考えてみてはいかがでしょう。
憲法改正というと、9条をめぐる「護憲VS改憲」という構図に着目されることが多いですが、憲法は「国の組織作用に関する基礎法」であり、国の大きなガバナンスのあり方を規定する「統治機構」も定めています。

ヤフー政策企画部では、憲法改正論議において、これまでとりあげられることの少なかった統治機構に関するテーマを中心に、憲法と憲法から導かれる各種の関連制度について議論を深めていきます。
そして、より多くの方々に、憲法を考えるきっかけとしていただけるよう、学者や実務家の方々との対談形式でわかりやすく統治機構上の論点を提示し、順次「政策企画ブログ」などでご紹介していく予定です。
今回は、2月に有識者の方々を招いて開催した初回の対談イベントについて紹介します。

なお、このイベントの模様をより簡潔にまとめたレポートが「THE PAGE」上でもお読みいただけます。

憲法における国会や内閣のあり方は? 「統治機構」をテーマに討論会

この対談イベントでは、憲法学者として、東京大学大学院の宍戸常寿教授、京都大学大学院の曽我部真裕教授にご参加いただくとともに、長く政治取材に携わってこられた日本経済新聞社の清水真人編集委員にもご登壇いただき、多くの参加者に熱心に耳を傾けていただきました。

「統治機構」というと耳慣れませんが、一般的に、国会や内閣、裁判所といった国家機関をいいます。
その統治機構のあり方の最も基本的な事項を憲法が規定しています。
そして憲法はすべての法律の上位にあり、憲法の規定に反する法律は裁判所によって無効と判断されます。
また、歴史的には、憲法は権力者を縛り、国民の権利を守るものとみなされています。
そもそも憲法とはどのような存在なのでしょうか。

憲法とはどんな存在か

東京大学大学院の宍戸常寿教授 登壇の模様
[写真]東京大学大学院の宍戸常寿教授

宍戸教授によれば、憲法とは「国の組織作用に関する基本法」です。
そして統治機構を支える理念は、現代の立憲主義の国家では「何よりも国民の個人の自由を確保するのが一番重要」で、その理念を具体化するために、法の支配、権力分立、国民主権という基本原理があるとします。

そうした理念や基本原理をどう制度化するかは、国ごと、時代ごとに異なります。
例えば日本のような議院内閣制で中央集権の国もあれば、アメリカのように大統領制で、政治システムとして完結した地方単位で構成された連邦制の国もあります。

宍戸教授は、「理念を具体化するために、どのような制度化を行うかは、憲法を制定、あるいは改正する上で極めて重要なポイント」だとした上で、その制度が設計者の意図どおり運用されているか、実際の運用状況まで見ないと「憲法の現実を把握できない」と語ります。では、日本の状況はどうなっているでしょうか。

まず、制度についてみると、日本が採用する議院内閣制では、有権者が定期的な選挙で国民の代表である国会議員を選び、その国会議員で構成される国会が政治的な意思決定を行う内閣を組織し、内閣が財務省、総務省、外務省などの行政各部(省庁)を指揮・監督します。
この一連の流れの中で、国民から国会へ、国会から内閣へ、内閣から行政各部へと権力の「正統性」が授けられていきます。
一方、この「正統性」の連鎖の流れとは逆方向に、すなわち、行政各部は内閣に、内閣は国会に、国会は国民に対して責任を負います。

統治機構 正当性と責任 制度化の図
(出典)宍戸教授資料

では、その制度はどのように運用されているでしょうか。
宍戸教授は、現行制度の運用上の論点として、3点を例示しました。

  1. 制度上定められた国会や内閣は、実際には「政党」によって運用されている。政党の存在をどのように考えるか。政党の位置付けを憲法で明確に規定すべきという意見をどう考えるか
  2. 近年の「内閣が強すぎるのではないか」という見方をどう考えるか
  3. 平成の統治機構改革が「憲法」の改正は伴わず、法律の改正のみですべて行われたことをどう評価するか

こうした点を挙げるのは、今後の日本の統治機構を議論するにあたっては、その運用上の課題や過去の統治機構改革における経験を踏まえて議論することが必要不可欠であるからです。

なお、統治機構にかかわる事項を定めるのは、憲法だけではありません。
国会法、公職選挙法、内閣法、国家行政組織法、裁判所法、地方自治法、財政法など、さまざまな関連法が存在します。
こうしてみると、統治機構の改革は憲法改正によってのみなされるものではなく、以上のような関連法の改正によっても実現されるものといえます。
現に、日本は既に関連法の改正などによって大規模な統治機構改革を経験しています。
1990年代、衆議院に小選挙区を導入した「選挙制度改革」や内閣の機能強化を図った「橋本行革」などによる「平成の統治機構改革」です。

平成の統治機構改革とは

日本経済新聞社の清水真人編集委員 登壇の模様
[写真]日本経済新聞社の清水真人編集委員

1990年代以降に進められた一連の「平成の統治機構改革」において、特に影響が大きかったものとして、清水編集委員が挙げたのが、(1)非自民の細川護煕(もりひろ)連立政権時代に小選挙区制を導入した選挙制度改革(1994年)と、(2)橋本龍太郎首相のもとで推進された「橋本行革」(1997~98年)です。

(1)の選挙制度改革では、それまでの1選挙区で複数人が当選する中選挙区制を廃して、1選挙区で1人を選ぶ小選挙区制が衆議院に導入されました。
(2)の橋本行革では、首相がリーダーシップを発揮しやすいよう内閣官房の機能強化や、内閣府に経済財政諮問会議を設置するなどしました。
また中央省庁も統廃合して、それまでの1府22省庁から1府12省庁とする2001年の省庁再編につなげました。

この2つの改革はその後の政治状況にどのような影響を与えたのでしょうか。
清水編集委員は、小選挙区制の導入により「政権交代の可能性がビルトイン」され、橋本行革で「首相主導」の政策決定の実現に向けた舞台装置の整備がなされたと説明します。

それ以前の日本政治は、いわゆる「55年体制」とも呼ばれ、自民党が長く政権を独占する時代が続いていました。
象徴的に言えば、首相や官房長官の仕事場である官邸や国会ではなく、「自民党本部で重要政策が決まる」状態だったと清水編集委員は形容します。
つまり、国の重要政策は、首相や官房長官を擁する内閣が決めるのではなく、自民党の派閥の領袖がその方向性を決定し、「建設」「農林」「郵政」など縦割りの省庁と結びついた自民党の「族議員」が国会や内閣を迂回して法案作りなどに影響力を発揮していました。
制度上は、国民から選ばれた国会議員の多数派が内閣を組織し、その内閣が行政各部を指揮監督することが想定されているものの、実際の運用は、与党幹部や官僚など制度的な位置づけが明確でない「憲法には直接出てこないプレーヤー」が実質的な政策決定を担っていました。

このように制度的な位置づけが明確でないプレーヤーによって「密室」で権力が運用される政治状況に対して、先に挙げた2つの改革が行われました。
1選挙区で1名だけを当選させる小選挙区制の導入によって選挙で勝利するには多数派の支持を集めることができる大政党が有利になり、長期にわたって自民党が政権を担当してきた日本においても2大政党の競争による政権交代の可能性が生まれました。
また、内閣機能の強化によって、縦割りの各省や与党に頼らなくても首相が重要政策を主導しやすくなりました。

平成の統治構造改革の急所の図
(出典)清水編集委員資料

ここで、清水編集委員は一つの論点を指摘します。

平成の統治機構改革によって政治は良くなったのか。
現状の政治に不満があるとすると、それは「改革の失敗」ゆえか、それとも「改革の不足」ゆえかという点です。
「改革の失敗」という立場に立てば、小選挙区制によって政権交代は起きたものの、首相主導が「安倍自民一強」に至った現状を見て、憲法学者の中には55年体制を再評価する声もあるといいます。
政治はかえって劣化していないか、「改革の失敗」では、というわけです。

一方で「改革の不足」すなわち「一連の統治機構改革は、いまだ統治システムが全体として整合に向かう過程にあり、改革が不足している状態」との見方も可能です。
平成の統治機構改革以降の政権運営をみても、衆参両院の多数派が異なる「ねじれ国会」で政策決定がなかなか進まない時期がありました。
この見方によれば、選挙改革や内閣機能強化は進められたものの、衆参両院の関係には「改革が不足」しているほか、政治主導が強まる中で公務員制度の改革も進んでおらず、統治システムが全体として整合性を確保できていないことが問題の根底にあるとも考えられると指摘しました。

海外の統治機構との比較

京都大学大学院の曽我部真裕教授 登壇の模様
[写真]京都大学大学院の曽我部真裕教授

国際比較の中で日本の統治システムを見てみるとどうでしょうか。

京都大学大学院の曽我部教授は、内閣が下院(衆議院)を解散できるとする解散権について、「現代においてはかなり限定されているのが国際的な傾向」であるなか、首相が解散権を裁量的に行使できることを日本の特徴にあげます。

日本の状況を諸外国と比較すると、議院内閣制のイギリス、ドイツでは、解散権は「限定的」であり、半大統領制のフランスでも解散権はあるが「実際はまれ」と紹介しました。
大統領制を採るアメリカでは、大統領に議会の解散権はありません。

大統領制と議院内閣制のそれぞれの仕組みを確認すると、大統領制では、国民は「大統領」と「国会議員」の双方を選挙で選び、二元的に正統性を与える統治機構となっています。
議院内閣制では、国民が選挙で選んだ議員が国会を形成し、国会が内閣を選ぶという、国民-議会-内閣という正統性の連鎖が一元化されています。
内閣は国会の信任を得て存在する一方、国会は内閣の不信任決議によって退陣を迫ることもできます。
一方、大統領制では、議会は、大統領の弾劾という制度はあるものの、基本的には、国民から直接選ばれている大統領を辞めさせることができません。
また、大統領も、議院内閣制のように、議会との間に委任関係にあるわけではないため、議会を解散することはできません。

日本では「解散は首相の専権事項」といわれ、首相が自身の判断で自由に下院(衆議院)を解散できます。
衆議院の任期は4年ですが、任期満了前に解散することが多いため、3年毎に半数が改選される参議院議員選挙とあわせれば、日本ではここ10年で7回も国政選挙が行われている現状を踏まえ、曽我部教授は「選挙が毎年のようにあると、政権は短期的な利益を追わざるを得ないのではないか」と指摘しました。

また、アメリカ、ドイツ、日本の憲法の条文の分量と違憲判決数を比較すると、分量が非常に多いドイツの憲法などと比較して、日本の憲法は分量が少なく、規律が一般的かつ抽象的に記載にとどまっています。
結果として、日本の憲法は柔軟性がある一方で「規律力」の弱いのではないかとも合わせて指摘がありました。
現に、法律を違憲とした判決の数は、ドイツが486、アメリカが415であるのに対し、日本はわずか10です。
日本の状況は「裁判所が抽象的な条文から解釈によって詳細なルールを導き出し、法律を違憲にする、つまり政治を縛っているわけではない」といえます。

曽我部教授は、このような柔軟だが規律力の弱い憲法を維持する考え方と、より規律力の強い条文に変えていく考え方があり得るとして、「この二つの選択をどう考えるかが憲法論議の中で問われてくる」と締めくくりました。

憲法の分量、違憲判決数、憲法改正回数の比較の図
(出典)曽我部教授資料

パネルディスカッション

パネルディスカッションの模様

まず、清水編集委員より、パネルディスカッションにあたって憲法改正の3原則が示されました。
この3原則のなかでは、憲法改正論議を国会議員のみで進めるのではなく、憲法の専門家が主導的な役割を果たし、統治機構に関する議論を重ねていくべきという提案もありました。

憲法改正の3原則の図
(出典)清水編集委員資料

これを受けて宍戸教授より、「何のために憲法改正を行うのかなどの前提が国民全体で共有され、醸成されることが重要」との指摘や、曽我部教授より、「あまり抽象的条文を増やすのではなく、一般の法学の作法と同様、裁判所の解釈・議論のしやすい方向で検討をすることも重要」と指摘がありました。
曽我部教授によれば、フランスの2008年の憲法改正は、大統領が出したアジェンダ案を専門家である憲法学者で議論し、それを国会で審議し最終改正に至ったとのこと。
専門家の議論を通じた専門的正統性と、国会での議論を通じた民主的正統性に基づく議論が組み合わさった改正で示唆的です。

つづいて、会場から寄せられた質問に各登壇者が答えました。

質問
日本の違憲立法審査権について現在の憲法の規定で十分なのか。
宍戸教授
日本の最高裁判所は、法律が何年も運用され、膨大な権利義務関係が形成された後で判断することになっているが、そのままの運用でいくのか、このような現状を改め、司法が積極的に法律のあり方に関与し、社会の安定性を保つ統治システムを目指すのかが大きな論点となる。
また、政治的憲法争議を第三者として裁くための憲法裁判所の設置の議論も重要である。
曽我部教授
静態的裁判所として民事・刑事事件を中心に担当するのか、動態的裁判所として、行政訴訟や違憲審査も含めた大きな判断を行うのか。
前者の裁判官は全国同じような判決を下す必要があるし、後者は、どのように国民・社会の信頼性を得るのか、その整理も必要。
質問
現憲法で、内閣の解散権に制約はないのは通説か、制約するためには憲法改正が必要なのか。
曽我部教授
解散権については、法的にも政治的にも制約がなく自由な解散権を認める立場と、国民に信を問うのに正当性がある場合に限り認められるとする立場がある。
憲法改正について、国会と内閣との関係で、国会が内閣を解散する法律を作れるのかなど大いに議論が必要。
質問
国会が複雑化する社会に対応しきれていないのではないか。
清水編集委員
国会議員に高度な専門性を期待するのはスタッフの数の少なさから見ても難しい。
むしろ内閣の政策リソースの充実が課題ではないか。
曽我部教授
国会が法案を十分に議論できていないのではないか。
諸外国では、法案審議の際に一条ずつ逐条審議を行うが、日本では概括的に審議して何時間かけたら終了というやり方で、大きな違いがある。
質問
二院制において、参議院の役割は何なのか。
曽我部教授
二院制については参議院の権限問題に偏りがちだが、国会全体で、第二院としての参議院にどのような役割を期待するのかを議論すべき。
宍戸教授
参議院はうまく機能していない面があるが、選挙方法だけでなく何を目的としてどのような役割を第二院に期待するか。
例えば、参議院を地方代表とするなど柔軟な考え方が必要。
質問
統治機構改革で政治のリーダーシップを強めたことが財政規律を緩めたといえるか。憲法で財政規律を設けるべきか。
清水編集委員
統治機構改革と財政赤字が増加した時期が重なっているが、因果関係はわからない。
財政が厳しい状況では、かつての55年体制のような合意形成型ではなく、首相のトップダウンでの多数決型の方が国として思い切った決断ができるのではという改革の議論があった。

会場との熱のこもった質疑応答の後、最後にヤフー執行役員の別所より、「今後も議論を続けていく。いままで憲法論議に参加してこなかった人にも、ぜひ参加して欲しい。今回は議論のスタートとして皆様からの意見を期待したい」と議論の活性化への期待を述べました。

今後も議論の裾野を広げるため、「統治機構」について、有識者を交えた対談企画等を行い情報発信していきます。引き続きご注目ください。

カテゴリー「憲法について議論しよう!」の記事

  • 憲法企画キックオフ記念イベント (2017/04/26)