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高知県大川村の「町村総会」設置検討とインターネットの可能性

人口400人の高知県大川村で、村議会を廃止し「町村総会」設置検討を進めるようです(文末リンク参照)。町村総会とは、地方自治法に位置付けられた、議会に代わりうる住民の総会のことで、わが国では60年以上前に2例ほどあるだけで、今は全くありません。昨今の高齢化や過疎化によって議員の成り手がないということから提起されたわけですが、この異例事態に、さまざまな議論を呼びそうです。

記事によれば、これまでにも町村総会への移行が検討されてきたようですが、高齢化や交通手段の問題で、物理的に集まることが難しいことから、立ち消えになってきたそうです。

ここで思いつくのが、インターネットを使った課題の解決です。ひとつ参考となる取り組みが、栃木県塩谷町において始まっています。栃木県塩谷町は、県都宇都宮市に隣接する人口12,000人弱の町で、勤労者の過半が宇都宮市や矢板市、日光市へと通勤しています。他の地方自治体の例に漏れず、人口の流出による減少問題が大きな町民の関心事であり、町内の国有地が3・11由来の稲わらなどの指定廃棄物を処理する処分場調査候補地とされ、現在も環境省との間で議論が続く町でもあります。

この塩谷町では、2015年10月から『塩谷町全員会議』というプロジェクトを立ち上げ、運用をスタートしています。これは、中学生以上の全住民にIDを発行して、スマートフォンやパソコン、紙の回答用紙から町の意思形成に参加できる仕組みです。第一回目は、「人口減少の状況にどう対処してゆくか」について、各年代から2,000名以上の参加者と町議会議員12人全員から回答を得て、”人が育ち産業振興に繋がる町づくり”という方向性が見いだされ、現在は、”人が育つ町”を具現化するために、中学生へのアンケートなど次のテーマを行う準備が進められているそうです。

従来の意識調査では回答して終わりで、その集計結果がどのように生かされているかわかることはほとんどありませんが、この仕組みを使えば、議員と直接つながることで、集計結果がそのまま条例を制定したり、改正したり、予算配分を決める議会を動かす力となります。回答にあたっては選択肢に人口動態や経済構造についてのデータが示されており、感覚的な意識での回答ではなく、事実を踏まえて考えを回答できるように設計されています。参加を通じて住民は自分の考えをまとめることができ、他の住民の考えを世代や性別ごとに幅広く知ることができます。また議員にとっては、自身の考えを広く周知することができるというメリットがあります。代議制と直接民主制のいい所を合わせた仕組みですが、こうした取り組みからも現代の技術や制度を踏まえた形での直接民主制が可能であることがわかります。特にITの出現によって、必ずしも全員が一堂に会すことなく意思表明が可能になることは、大きな可能性でもあります。(取り組みの詳細は塩谷町の町民全員会議のサイト(shioyanews.polineco.jp/)からも知ることができます。)

一方で、高齢者のITリテラシーの問題や、専門的な議案の賛否について一般住民に判断を委ねられるか等、本質的な問題も指摘されると思います。アメリカ独立の理念を記した論文集『フェデラリスト』の中で、マディソンは直接民主制に表される「鏡」としての民意を、選良による「議会」によって「濾過する」と表現しました。今の議会がどれだけ「濾過」しているかはさておき、専門的な議論を行っていることは確かであり、そのすべてを全住民に委ねる、というのも無理があります。

この点も、「塩谷町民全員会議」が参考になるでしょう。同会議では、町議12人の回答をコメント付きで公開しています。自分がどの選択肢を選んでよいかわからない住民は、「〇〇さんがAを選んでいるから」という理由で選択することもできるわけです。これが、議員のいない「町民総会」であったとしても、公開してもよいと考える住民がその回答をオープンにすることで、他の住民の参考にもできます。こうした仕組みは、インターネットならばすぐに作れるわけです。

今回の高知県大川村の件が、一気にインターネットによる前進にならなかったとしても、必ずここで示したような取り組みによる新しい民主主義の形ができてくるはずです。

さて、この機会に、「町村総会」に関係する条文を確認しておきましょう。

地方自治法 第八十九条

普通地方公共団体に議会を置く。


同 第九十四条
町村は、条例で、第八十九条の規定にかかわらず、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる。

とあります。議会を設置することが前提となりますが、町村にだけは例外として「町村総会」を設けることができる、とあります。ただ、ここで想起されるのが憲法との関係です。
憲法 第九十三条

地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。

憲法にはこのようにあり、「町村総会」は憲法に違反するのではないかとの議論もありました。現在の解釈では、「直接民主制は間接民主制よりも住民自治の理念に適合しており、通常は直接民主制を採用することが困難であるから次善の策として議会制民主主義を採用していると考えられる。したがって、直接民主制が可能な規模の地方公共団体がこれを採用することは違憲とは言えないだろう。」(『地方自治法概説』宇賀克也著 有斐閣)とあります。

この解釈が定着していることに理解はできるものの、やはり本筋は正面から憲法改正を視野に入れた議論が避けられないでしょう。今回、大川村の件で「町村総会」にスポットがあたりますが、そもそも二元代表制でなければいけないのか、欧米では、議会の議長が首長を兼ねるケースや、民間人らを行政の責任者に任命する「シティ・マネージャー制度」を採る自治体が多いことが知られています。日本には、人口が1,000人を下回る町村が36、10,000人を下回る市町村が513あります。いずれそう遠くない頃に、これらの自治体の中から、二元代表制がそもそも物理的に無理となるところが出て来ることでしょう。そうしたことも見越して、民主主義をいかに守り、機能させるかについて、議論が進んで行かねばいけません。

Yahoo! JAPAN政策企画では、今後こうした課題意識のもと、民主主義の発展をインターネットを通じて支えていくとともに、憲法に関する論点も議論を深めていきたいと思います。

(T・I)


<高知・大川>村議会を廃止、「町村総会」設置検討を開始【毎日新聞】
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170501-00000001-mai-pol

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