Yahoo! JAPAN 政策企画

民法の改正を前提としたさらなる問題

本日、民法の一部を改正する法律が公布されました。1896年に民法が制定されて以来、約120年経ってはじめての抜本的な改正です。
Yahoo! JAPAN政策企画では、今回の改正の議論において特に約款に関する規律を民法に設けるべきだということを主張してきました。

今回、定型約款として非常に合理的な内容の規定が設けられました。IoT、自動運転等々の技術の進展により、様々なものがネットワークにつながっていきます。それを画一的に運用するためのルールメイキングをどうするのかということを考えると、今後ますます約款の重要性が高まり、今回の定型約款に関する規定の存在意義が増すものと考えています。

この定型約款に関する意見は、これまでもYahoo! JAPAN政策企画ブログ等でご紹介してきましたので、ここでの詳細な説明は割愛し、今回は民法の改正を前提としたさらなる問題についてご紹介します。

改正民法を適用しないことを明示的に予定している規定
実は、私たちが日常生活の中で消費者として締結する契約について、今回改正された民法を適用しないことを明示的に予定している規定があります。
消費者と事業者との間で締結される消費者契約については、民法の特別法である消費者契約法が民法に優先して適用されることになっています。
2016年6月に公布された改正消費者契約法の中で、仮に民法が改正された場合にはそれを適用せず、別のルールとする旨の規定が既におかれていたのです。
それは、消費者契約を取り消した場合の返還義務に関するルールです。
消費者庁が公開している消費者契約法逐条解説84ページ以下には、「本法第4条第1項から第4項までの規定により取消権を行使した消費者の返還義務の範囲については、改正民法第121条の2第1項ではなく、本条が適用されることを定めるものである」、「本条は、民法改正法の施行の日に施行される」との記載があります。
その概要は以下のとおりです。
民法改正法の施行前においては、取消権を行使した消費者は、当該商品を使ってしまった場合には手元に残っている範囲(現存利益)で返還すればよいのですが、民法改正法施行後においては、使ってしまった商品分の価値も返還しなければならないことになります。
例えば、サプリメント5箱を1箱1万円(合計5万円)で購入し、2箱使ってから契約を取り消した場合、民法改正法施行前は残っている3箱のみ返還すればよいのですが、民法改正法施行後は残っている3箱だけでなく使ってしまった2箱分の価値(2万円)も返還する必要があります。
これでは、消費者契約の取消しを認める意味がないとして、民法改正法施行後も従前どおり、消費者の返還義務の範囲を限定するため、消費者契約法を改正して対応することとなりました。
これは、事業者による不適切な説明等を理由に消費者が契約を取り消す際のルールですので、確かに消費者契約法による手当ての必要性がありそうです。

このように改正民法の内容が合理的でない、不十分であるとして、消費者契約法での手当てを望む意見は他にもあります。

消費者契約法における定型約款に関する議論
定型約款についても消費者契約法での手当てが必要だとする意見があり、消費者契約法の改正を検討している消費者委員会の消費者契約法専門調査会で議論されることになりました。
具体的には、契約締結前に定型約款の内容を相手方に示す必要があるのかどうかという論点です。この問題は、民法の改正の際にも大きな論点となっていました。

当事者が認識した上で合意をしていなければ契約内容にならないのではないかという伝統的な意思主義の考え方を貫くべきかが議論の主な対象となります。
この点、民法においては、法務省の民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明の370ページに以下のような記載があります。

約款を用いる取引の中には、公共交通機関や宅配便などの、少額の契約が日常的に締結されているような場合や、電話での会話によって契約が締結されるような場合もある。このような場合には、約款の開示要件を厳格に課すのは現実的ではないと考えられる。また、約款を用いる取引は様々であり、どのような取引であれば約款の事前の開示の例外を認められるかを明確にかつ取引の実情に合わせて規定することは困難であるという指摘もあった。

また、民法(債権関係)部会資料75Bの11ページには、以下のような記載があります。
定型条項を用いて契約を締結する場面では、相手方も定型条項の中身を逐一見ようとしない場合が多くあると考えられるため、常に相手方に事前に内容を開示しなければ契約内容とならないとすると、かえって煩雑になると考えられる。他方で、相手方が、自分が締結しようとし、又は締結した契約の内容を確認することができるようにすることは必要と考えられる。そこで、相手方の請求があった場合には、条項準備者は、定型条項の内容を示さなければならないとするものである。
このように、民法においては、常に相手方に事前に内容を開示しなければならないとするのではなく、相手方の請求があった場合に定型約款の内容を示さなければならないこととされました。
法務省の資料でも記載されているような取引の実情の問題のほか、消費者に現実に生じる不利益はいわゆる不当条項、不意打ち条項として総合的な事情を考慮して解決することが可能である等の理由から、この結論は合理的なもののように感じます。

民法改正に関する参議院の附帯決議においても「消費者契約法その他の消費者保護に関する法律について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずること」とされていますが、もともと定型約款は消費者契約において主に用いられるものとして、消費者契約を念頭に議論されてきました。その法務省の判断を消費者委員会で覆すことになるのか、今後の動向が気になるところです。

(R・H)