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イギリス政治におけるインターネットの存在感

6月8日、イギリスの総選挙が実施され、保守党が第一党を維持したものの、解散時には思いもよらないような失速ぶりで、過半数を割るという結果になりました。4月18日にメイ首相が解散の意向を表明した際には、保守党の支持率は44%で労働党の23%とダブルスコア近い差をつけていましたが(YouGov調べ)、一月半の間に急激に情勢が変化しました。

これにはさまざまな要因が指摘されていますが、メイ首相の発言の変遷を皮肉った動画「彼女は噓つきだ!(Liar, liar,)」がYouTubeで300万回近く再生されるなど、インターネットによって情報が一気に拡散し、情勢の劇的な変化に寄与したと考えられます。インターネットによる情報革命は、民主主義のプロセスである選挙の形も、確実に変えていると言っていいでしょう。

さて、このイギリス選挙を通じて、改めてその存在感を示したのがインターネットを利用した市場調査会社の世論調査についてです。

議会が解散されてから投票日に至るまで、日本でもイギリスの世論調査結果が伝えられてきましたが、日本の主要紙が頻繁に引用したのが、世論調査会社「YouGov」(www.yougov.co.uk)のものでした。「YouGov」は、インターネットを通じた世論調査に特化した会社で、世界38カ国に500万人のオンラインリサーチモニターを有し、社員は約700人で、2016年度の売り上げは8820万ポンド(約125億円。1ポンド=142円で計算)となっています。モニターは任意にリサーチに答え、換金性のあるポイントを得ることができます。その集まった回答から、年齢、性別、階級、居住地域、新聞購読の有無などでウェイトを調整して、同社独自の“世論調査”をはじき出す、という仕組みです。

YouGovは、イギリスBBCやフィナンシャルタイムス、ガーディアン紙やタイムス誌とも提携し、調査結果を提供しています。2015年のイギリス総選挙や、昨年のEU離脱の国民投票における世論調査では、事前の調査結果と実際の結果が異なったことで、その信頼性に疑問の声を投げかける向きもありましたが、今回は投票日数日前から保守党の過半数割れを予測するなど、それなりの実績を示せたと考えてよいでしょう。同社以外にも、イギリスにはインターネットのみを活用した調査会社や、インターネットと電話調査の併用など、いくつかのスタイルがあり、世論調査においてインターネットの存在は欠かせないものとなっています。

日本においては、世論調査と言えば大手メディアによるRDD(Random Digit Dialing)方式による電話調査(電話番号をランダムに発生させ、その番号に電話をかける調査方法)が主流です。世論調査は、その代表性こそが命とされ、そもそもの利用者が限定されるインターネットを通じた調査は、世論調査とは言えない、と考えられているようです。内閣府政府広報室が、毎年一回「全国世論調査の現況」と題して、日本国内の新聞社や政府機関などが実施した世論調査の調査を行っていますが、その調査要領には、「インターネット調査を除く」と明記されています。つまり、それだけインターネットを通じた調査は、信頼に値しないと考えられているのでしょう。

一方で、固定電話を対象としたRDD調査への限界は、誰もが実感しているところです。最近では、独身者の四割が固定電話を持たないとの調査もあり、それを意識して、メディアの中には、携帯電話を対象としたRDD調査を実施したり、インターネットでの調査も並行して始めたりしています。しかし、依然、固定電話や面接調査がベースにあることには変わりはないようです。

いわゆる世論調査に関しては、インターネット調査の存在感が薄い日本ですが、市場調査に関しては、別の様相を呈します。欧州世論・市場調査協会の報告書(2014年版)によると、日本のマーケットリサーチにおいて、インターネットによるものが全体の46%と主要国の中で最も高く、全世界平均の24%をはるかに上回っています。アメリカが会場集合調査やグループインタビューが高い割合であるのと対照的で、この分野において、日本は最先端を走っているとも言えます。

マーケティングの市場調査においてこれだけ存在感を示しているインターネットは、選挙の予測や世論調査にも生かせるはずです。今後、日本においても、さまざまな形でインターネットの強みを生かした調査が出てくることを期待したいと思います。

(T・I)

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