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イギリス議会のE-Petition -インターネットを使った市民と議会の新しいパイプ

衝撃的な結果となったイギリス総選挙から2カ月近くになりますが、議会が解散されて以来ストップしていたあるサイトが、近々再稼働すると見込まれています。それは、イギリス議会の「E-Petition (https://petition.parliament.uk/)」というサイトで、ブレア政権時にスタートした、国民が直接、議会ないし政府に「請願」できる仕組みです。

政府が設けたサイトに、国民が請願したい内容を書き、署名が一万件以上集まれば政府が対応、さらに十万件以上集まれば議会に設置された「請願委員会(petition committee)」で取り上げられることになっています。これまで、一万件以上の署名を集め、政府からすでに返答のあったものが479件、十万件以上の署名を集め議会で取り上げられたものが56件となっています。

一万件以上集まり、国から返答があったものは、「航空局に2016年の航空ショーでの入場料設定を再考させよ」、「台湾を国家として認めよ」、「両親が共働きの二歳児の医療費を無料にせよ」など、実に多様です。十万件以上の署名を集めて議会で取り上げられたのは、「個人事業主ないし小規模事業者に課される四半期ごとの納税申告義務を廃止せよ」というような直接国民が影響を受ける具体的なものから、「シリア空爆をやめよ」、「ドナルド・トランプの英国入国を禁止せよ」など国民的関心が高いものまであり、とても興味深いです。ただ、規定以上の署名が集まったからといって、すべて請願者の思い通りになるわけではありません。EU離脱の是非を問う国民投票の結果を受けて、再投票をすべきだとの請願には、最終的に400万件以上の署名が集まりましたが、再投票は実現しませんでした。

イギリスのビッグベンの写真
(画像:アフロ)

いずれにせよ、国民が直接、議会ないし国に対して請願を行える仕組みは、まさにインターネットの力によるものと言えるでしょう。この取り組みに倣い、アメリカにおいてもオバマ政権時に、「We the people(https://petitions.whitehouse.gov/)」という請願サイトを立ち上げ、トランプ政権に交代した今も、継続して稼働しています。

日本にも、請願の制度はあります。憲法16条に規定された請願権に基づくものですが、国会の制度では、請願の際に「紹介議員」が必要となります。紹介議員とは、請願を取り次ぐ国会議員のことで、請願手続きは国会議員ないし秘書が行うこととなっています。そして、その請願内容に応じて、関連する委員会に付託されることとなります。例えば「私立学校への公費助成拡大に関する請願」であれば文部科学委員会、「介護報酬の増額に関する請願」であれば厚生労働委員会へ、というような具合です。これを受けた国会の委員会では、それぞれの請願に関して審査を行い、会議にかける、つまり議論するかを決め、その請願を採択するか否かを決めます。そして内閣に送付されたものは、後に「請願処理報告」として内閣から国会に報告が返ってくることとなっています。一見、もっともらしいプロセスですが、実際に請願に関してきちんと委員会で議論されることは皆無に等しく、請願処理報告も無味乾燥で、形骸化していると言わざるを得ません。
これとは別に、国会議員には「質問趣意書」を提出できる権限が与えられています。これは国会質問と同じ効力があるとされ、政府は閣議決定をした回答を出さなくてはなりません。つまり、質問趣意書を通じて、政府の公式見解が得られることになります。しかしこの質問趣意書は、議員であるからこそ保持している権利であり、憲法16条の請願権に即したものとは基本的に異なります。

こう考えると、わが国は今一歩、国民に対して開かれた政治に向けた仕組みづくりに不熱心なように思えます。これだけインターネットが普及した社会になったのですから、わが国においても、もっと積極的に政治と国民の距離を近づけるために、いろいろな試みをしてもらいたいものです。

《参考》憲法16条
何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の規定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

(T.I)

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