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民法改正記念対談シリーズ (上)「民法改正にいたるまで」

民法改正に携わられたご経験に基づき、改正のための検討が行われた目的、経緯などについて伺いました。

今回の民法改正の目的とは
今井:本日は、民法改正を記念して、改正に携わられたご経験に基づいてお二人からお話を伺えればと思っております。

まず、民法改正の目的について、どのようなことを目指してきたのか、なぜ改正する必要があったのかお聞かせください。

内田:2009年に法務大臣から法制審議会に債権関係を中心とした民法の改正の諮問が行われています。その諮問の中では改正の目的が2つ挙げられています。1つ目は、民法制定後110年以上が経過しており、その間の社会経済の変化に対応する、すなわち現代化するということです。もう1つは国民一般に分かりやすいものにするということが挙げられています。

前者に関しては、例えば、消滅時効制度の中に職業別に短期の消滅時効が細かく規定されていますが、これはヨーロッパの中世以来の慣習に由来するもので、現代では職業別に時効期間を変える理由がなく、ドイツやフランスでも廃止されています。日本も同様に廃止することになりました。また、法定利率の民事5%、商事6%というのは19世紀末の途上国であった日本を想定して決められた利率であるため、現在の金利水準からかけ離れており、見直されました。

後者の国民一般にわかりやすいものにするという点については、百年以上の間に条文の外に条文を解釈した判例法が蓄積されて、法律の専門家は知っていてもそれ以外の方は条文を読んだだけでは判例法がわからない、そして、判例法がわからなければ民法がわからないという状態になっています。そこで、判例によって形成されたルールが見えるように条文の中に明文化していくということになりました。これが民法をわかりやすくすることの代表的な姿といえます。


これまでの民法改正への関わり・立場
今井:今回の改正にあたって、内田先生はどのような役割を担われてきたのかについて、お聞かせください。

内田:私は大学を退職して法務省に移り、法務省の参与として改正に関わりました。法務省で実際に法案を立案する職員は、裁判官出身者とか弁護士、他省庁からの出向者であり、みんな実務家なわけです。ところが、民法というのは古代ローマ法以来、2500年以上の蓄積のある領域なので、やはり民法の歴史とか学問的な蓄積、比較法などを踏まえる必要があります。そこで、法務省と学界との間の橋渡しをするのが私の一つの役割でした。比較法的にみても、現在の国際的な状況のもとで恥ずかしくない、問題を生じない法改正を実現するために適宜助言をするという役割でした。

もう一つ私の役割として、改正に関する情報不足や理解不足を少しでもなくすために対外的な説明を行い、国民各層の理解を得るということがありました。今回の民法の改正については、実務家や経済界含めて、情報不足による誤解とか、あるいは理解が不十分であるために反対という方が全国にたくさんおられました。中身を十分わかっていただいた上で反対されるなら、もちろん構わないわけですが、情報不足とか理解不足に基づくものであればこちらに説明の責任があるということで、担当参事官と一緒に全国を巡り、説明を重ねてきました。


私としては、日本のこれまでの実務界の一世紀以上の蓄積を反映するような改正を実現することを目指して法務省に移りましたので、自分の学説を主張したり、それを反映したりすることはもともと全く考えていませんでした。実際、成立した改正法は私の理論からかけ離れた内容が多いですが、私が果たすべき役割からすれば当然のことで、それを不満に感じたりはしていません。



日本は、19世紀末にヨーロッパから法典を輸入して近代化をスタートしましたが、それから一世紀以上、外国人の助けを借りることなく自前で運用してきました。そのような国はあまり例はないのではないでしょうか。ですから、今回の民法改正の実現で、日本は、完全に自前の実務経験に基づいて民法を抜本改正した非西欧国のなかで最初の国ということになります。世界史的に見ても大きな意味があったと思います。

今井:視点を変えて事業者の立場からお話をお伺いします。
Yahoo! JAPANが民法改正に関与するきっかけとなったのは、2009年4月、早稲田大学の大隈講堂で開催された「債権法改正の基本方針」というシンポジウムでした。この改正について、当初、Yahoo! JAPANはどのように受け止めていたのでしょうか。

別所:実は、このシンポジウムで話を聞くまで、あまりよく知らなかったのが実情です。大隈講堂には本当に多くの方々が集まっていて、会場で配られた400ページくらいの分厚い資料を見ながらひととおり話を伺った記憶があります。

それまでYahoo! JAPANとしても個別の業法などについては改正の検討に加わったことはありましたが、債権法のように論点が非常に多岐にわたるものに関わったことはなく、どこに自分たちにとっての課題があるのかわからないところから出発しました。一企業があれだけ分厚い資料を読みこなせるのかということさえ社内では議論になっていました。しかし、やはり債権法は会社にとっても非常に重要かつ基本的な法律であるため、できるだけのことをやろうということで取組みを始めました。

もっとも、それまでの研究等を通じて論点整理がなされており、私たちとしてもそこからスタートすることができたのは幸運なことでした。本当の意味での法改正作業のスタートは、そのような論点整理を始めた時からであって、非常に長い時間をかけてあそこまでまとめていただいたなと感じています。それによって私たちのスタート地点を引き上げていただけたのかなと思っています。


内田:当時は学者主導で改正しようとしているとも言われましたが、全然そういうことではなかったのです。やはり、民法をどう変えましょうかと実務界に投げかけても、すぐに具体的な改正の要望などは返ってこないのですね。そこで、とりあえず学界から問題提起し、およそ考え得る全ての論点についてこういう改正が考えられますよと実務界にボールを投げるかたちで議論をスタートしました。私は、学者グループのなかで事務局長として、とりまとめをしていたのですが、第一線で活躍する個性的な方々を集めて、全体として整合性のあるひとつの案にまとめあげるのは大変な仕事でした。

改正案そのものには、実務界から反対もいただきましたが、案をつくる過程で勉強したことや調べたことをまとめた分厚い解説書が、その後の法制審議会の議論などでも基礎資料として非常に役に立ったと思います。

別所:最初に資料を拝見した個人的な見方ですけれども、案というよりも本当にきれいに論点を並べて整理していただけているなと思いました。最初から論点が整理がされていたということが、後から追いかける実務界としては非常に助かったと思います。

内田:そのように受け止めていただければ本来の趣旨が達成できたと思います。「基本方針」という名前は、条文を作る前の政策的な方針を提言しようという趣旨で、そのための論点を整理したということなのですが、法務省はそのままそれを条文にするのではないかと受け取った方々から批判を受け、法制審議会の中でもその案を正面から議論の対象にしにくい時期が初期にはありました。しかし、そのうちだんだんと自由に議論ができるようになりました。

(RH、YK、RI)

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