Yahoo! JAPAN 政策企画

APEC TEL56@バンコク

2017年12月11日から15日、タイ・バンコクにて、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の第56回電気通信・情報作業部会(Telecommunications and Information Working Group: TEL)が開催されました。今回、Yahoo! JAPANは、12月12日に開催された自由化分科会(LSG)にて日本政府総務省主催によるワークショップ「Enhancing Online Connectivity for Unleashing the Potential of Digital Economy」においてモデレーターを務めるとともに、自社発表も行いましたので、ご紹介します。

●アジア太平洋経済協力会議の電気通信・情報作業部会(APEC TEL)とは?
→2017年4月25日「APEC TEL55@メキシコシティ」をご参照ください。
 https://publicpolicy.yahoo.co.jp/2017/04/2517.html

1. オープニングセッション:各国・地域に迫られる「変化するビジネス環境への対応」
TEL56は、開催地であるタイの首都バンコクを象徴するような会合となりました。タイの「のんびりとしたリゾート」という印象とは対照的に、首都バンコクは1000万人超の人口を糧としてタイ国内総生産(GDP)の30%以上を稼ぎ出す、経済発展目覚しいメガシティーです。タイのみならず、西はインド、北は中国、東はベトナム、南はマレーシアへと巨大な経済回廊が伸び、各経済回廊の基点となるバンコクはまさに東南アジア諸国連合(ASEAN)経済の心臓といえます。他方、タイは世界で3番目に経済格差が大きい国ともいわれます。クリスマスの華やかなデコレーションが施された高層ビルの裏側では、排ガスで曇る路上に小さな屋台がひしめき合い、ニワトリから中古携帯電話まで雑多な商品が販売されていました。バンコクでは、経済発展の光と影を同時に見ることができます。

開催地である、タイ王国の首都バンコク中心街の夜の写真

(バンコクの夜)

タイ王国デジタル経済社会大臣によるオープニングスピーチで始まった会合では、「ICT発展により変化するビジネス環境に、各国・地域はどのように対応していくのか」という大きな課題が投げかけられました。ICT技術の発展により誰でも少額の資金で起業することが可能となり、次々生まれるスタートアップに対する旺盛な投資需要と相まって、APECを取り巻くビジネス環境は大きく変化しています。

この現状を踏まえ、各参加メンバーからも、スマートシティー促進やデジタル経済拡大、5G導入に向けたロードマップなどICT活用によるビジネス活動の活性化を促す政策が多く発表されました。一方で、農村部や島しょ部への携帯通信網およびインターネットアクセス拡大の難しさ、サイバーセキュリティーに対する対応の遅れも指摘されました。オープニングセッションでは、ICT利活用による経済発展だけではなく、安全なビジネス環境の整備やデジタルデバイドによる社会的格差拡大への早急な対応の必要性が、参加メンバーの共通課題として認識されました。


2. 自由化分科会(LSG)のWorkshop on Enhancing Online Connectivity for Unleashing the Potential of Digital Economyに登壇
2日目となる12月12日、日本の総務省主催により、オンラインコネクティビティの強化をテーマとしたワークショップが開催されました。このワークショップは、TEL前回会合(第55回@メキシコシティー)に続いて開催されました。前回会合では、デジタル経済の発展のために必要となるICTインフラの質の向上やデータ利活用の活発化を促進するための制度やルール整備について議論がなされました。今回は、質の高いインフラを通じたオンラインコネクティビティの向上によって提供されるサービスが、いかに経済社会課題の解決に資するのか、民間企業や政府による具体的な取組みを踏まえた議論がなされました。

ワークショップは2つのセッションに分かれており、第1セッションでは官民連携による公共インフラ事業の事例、第2セッションではオンラインコネクティビティ向上を目的とした政府施策の事例が発表されました。今回、Yahoo! JAPANは、第1セッションのモデレーターを務めるとともに、パネリストとして発表も行いました。

第1セッションでは、日本企業5社(KDDI、NEC、富士通、Yahoo! JAPAN、古河電気工業)が登壇し、各社が日本およびアジア・太平洋諸国で実施しているソフト・ハード双方のICTインフラ事業の事例紹介を行いました。デジタル経済発展を促すために必須となるオンラインコネクティビティの向上を進める上で問題となる社会経済的ギャップを、いかに官民連携を通じた事業によって解決していくかを議論しました。具体的には、データ活用による災害への備えと対応、スマートシティーによる渋滞など都市問題の解決、IoTによる農業生産性の向上、監視カメラの画像分析による防犯・治安対策など、主に発展途上国や新興国が直面している社会経済課題をICT技術によって解決している事例の紹介が行われました。

会場からは、事業推進にあたり障害となった法律上の課題やコスト、活用するデータの質の確保に向けた工夫など、民間企業との具体的な連携方法について多くの質問が寄せられました。特に、インドネシアやロシアなどオンラインコネクティビティ向上に苦慮している地域からの関心度が高く、セッション終了後の休憩時間も、各パネリストと活発な個別議論が行われました。

Yahoo! JAPANからは、Yahoo!防災速報アプリによる災害・リスク情報の提供、隠れ避難所の特定などビッグデータの災害時活用の可能性、CSR事業である「緊急災害対応アライアンスSEMA」における官民連携の取組みなど、ICTの力を活用した災害やリスクに対する備えと対応についてプレゼンテーションを行いました。
アジア太平洋経済協力会議、第56回電気通信・情報作業部会におけるヤフー・ジャパンのプレゼンテーションの様子の写真

(Yahoo! JAPANのプレゼンテーションの様子)

第2セッションでは、米国AT&TのChris Perera氏がモデレーターを務め、パネリストとしてAT&Tに加え、台湾NCC(国家通信放送委員会)、ベトナム・情報通信省、日本・野村総研が登壇し、各国政府が実施しているオンラインコネクティビティ向上に向けた施策とその活用事例が紹介されました。特に、米国政府が設置する「Universal Service Fund」を活用してAT&Tが実施している、採算が取れない遠隔地へのWi-Fiインフラの拡張事業に対しては、技術や政策、コストなど多方面からの質問がなされました。また、台湾NCCが進める災害や国家的危機発生時の国民警告システム(Public Warning System)は、日本政府が実施しているJアラート/Lアラート、Yahoo! JAPANの防災速報アプリを解した情報提供システムに近しい試みであり、参考とすべき点が多く見られました。


3. 今後のTEL主要テーマ
APEC TELでは、「戦略的行動計画(SAP)2016-2020」を策定し、以下の9項目を優先課題としています。

i) デジタルデバイド削減に向けたハイスピードブロードバンドなどICTインフラ開発
ii) ICTの安全かつ信用できる利用、およびサイバーセキュリティーの拡充
iii) 緊急対応やソーシャルインクルージョン、障害を持った人々や遠隔地協従者および社会的弱者へのアクセス向上に向けたICTの活用
iv) 中小企業およびスタートアップのグローバル経済参加促進にむけたICTサポートの拡充
v) インターネットとデジタル経済の発展
vi) APEC域内の電子政府化の促進
vii) アジア太平洋地域をカバーする情報インフラの構築
viii) LTE、ビッグデータ、IoT、クラウドコンピューティング、人工知能(AI)、量子技術といった新しいICT技術の開発と活用
ix) デジタル時代における、雇用促進と個人のエンパワーメントに向けたICTの活用

また日本政府では、今後TEL会合において、ブロードバンド技術(4K/8K)推進やサイバーセキュリティー強化といったハード分野のみならず、高齢化社会への対応やグリーン経済の促進、インターネットセキュリティーといったソフト分野においても議論を進めていく方針を示しています。

Yahoo! JAPANとしては、こうしたAPEC TELで可視化されていく社会の共通問題や、国内外のルールおよびコンセンサス形成の動向を引き続き把握していきたいと考えています。その上で、「課題解決エンジン」をミッションとして掲げ、「マルチビッグデータドリブンカンパニー」を目指す企業として、災害対応、ウェブアクセシビリティーの向上、そして雇用促進といった社会貢献的な観点からも、社会の期待に応えられるようなサービスの提供を行っていきたいと考えています。


4. 結びにかえて
政府間会議では、公式会合において議論される内容や結果は事前に決まっており、今後の方針や本質的なルールメイキングの駆け引きは、会議の合間のコーヒーブレークや、会合終了後のディナーといった非公式な場所で行われることが多々あります。APEC TELは半年に1回、10年以上にわたって開催されていることから、参加者のほとんどが顔見知りであり、他の政府間会議よりも、非公式な場での議論が活発に行われていました。「TELファミリー」ともいえるネットワークの中に入っていけるか否かが、参加者にとってルールメイキング動向を知る鍵となっています。

筆者も以前、国際公務員として多くの政府間会議に参加した経験がありますが、今回は民間企業の立場からの初参加であり、「TELファミリー」に受け入れてもらえるかどうか、少々どきどきしながら、バンコクの会場へと向かいました。

きっかけは意外なところから転がってきました。それは、「カラオケ」でした。

会合初日の夜、タイ政府主催による公式ディナーが開催され、筆者はたまたまフィリピン政府団の方と隣の席になりました。この方はTELで歌う有名人であり、あれよあれよという間に、筆者は公式ディナーの舞台に引き上げられ、参加者全員の前でカラオケを披露しなければならなくなりました。

「もう、やるしかない……」

筆者は、半分やけくそになりながら、スマホを駆使してアジアで流行している日本語の歌を検索し、歌詞を探し出し、生バンドに演奏の指示をしながら、SMAP「世界に一つだけの花」と坂本九「上を向いて歩こう」を日本語で歌いました。

タイ王国主催の公式ディナーにおいて、筆者が日本の歌を披露する写真

(タイ政府主催公式ディナーの様子)

歌は万国共通語。歌い終えた後、会場からの大きな拍手をいただき、筆者は「TELファミリー」の一員として、その後もフィリピン人参加者とコンビを組み、レストランやカラオケボックスにおいて、日本語の歌を歌いまくることとなりました。その効果か、参加者に顔と名前を覚えていただけ、非公式な夕食や飲み会に誘っていただき、より多くの議論に参加することができました。筆者はエンジニア出身ではありませんが、TEL56を通じて、短期間に多くの技術的知識を得ることができ、またAPECにおけるICT関連ルールメイキングの動向を知ることができました。

次回のTEL57はパプアニューギニアのポートモレスビーにおいて、2018年初夏に開催される予定です。


(M.K)

【参考資料】
APEC TELのホームページ:
http://www.apec.org/groups/som-steering-committee-on-economic-and-technical-cooperation/working-groups/telecommunications-and-information.aspx

APEC TEL56のホームページ:
http://apectel56.com/