Yahoo! JAPAN 政策企画

インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF Geneva 2017)に出席(後編)

2017年12月17日から21日にかけて、スイス・ジュネーブの国連ヨーロッパ本部(United Nations Office at Geneva:UNOG)およびジュネーブ国際会議センター(CICG)において、インターネット・ガバナンス・フォーラム(Internet Governance Forum: IGF)が開催されました。後編では、Yahoo! JAPANとして登壇したもの以外のセッションについてご紹介します。

1. デジタル経済に関するメインセッションを主催
12月21日、デジタル経済に関するメインセッション「Digital Transformation: How Do We Shape Its Socio-Economic and Labor Impacts for Good?」が開催されました。このメインセッションは、筆者がIGF・マルチステークホルダー諮問グループ(MAG)の日本委員としてリード役を務めたもので、ホスト国(スイス政府)とビジネスコミュニティー(国際商工会議所(International Chamber of Commerce: ICC)・情報社会支援ビジネスアクション(Business Action to Support the Information Society: BASIS)等)が合同で開催したものでした。

メインセッションは、原則的にMAG委員が提案し主催するものです。基本的には、通常のセッションよりも大きな会場で、6つの国連公用語による通訳付きで、ハイレベル関係者を招いて開催します。2017年のIGFでは、選考の結果、純粋なメインセッションとしては以下の6つが採用、開催されました。テーマとしては、技術的事項、サイバーセキュリティー、ジェンダー、デジタル経済の4つに、会期間活動の一つであるダイナミック・コアリッション(DCs)と国別・地域別イニシアチブ(NRIs)が加えられた形でした。

12月18日(Day 1):
Local Interventions, Global Impacts: How Can International, Multistakeholder Cooperation Address Internet Disruptions, Encryption and Data Flows

12月19日(Day 2):
Empowering Global Cooperation on Cybersecurity for Sustainable Development & Peace

12月20日(Day 3):
Dynamic Coalitions: Contribute to the Digital Future!
NRIs Perspectives: Rights in the Digital World
Gender Inclusion and the Future of the Internet

12月21日(Day 4):
Digital Transformation: How Do We Shape Its Socio-Economic and Labor Impacts for Good?

上記にありますように、デジタル経済に関するメインセッションは1件のみです。その1件のみのメインセッションのリード役を務められたことは非常に良かったのですが、開催までの道のりは平坦なものではありませんでした。2017年6月にリード役を務めることになって以降、ホスト国(スイス政府)、国際商工会議所(ICC/BASIS)、そして他MAG委員といったサポーティングオーガナイザーとともに、デジタル経済に関するメインセッションの内容や登壇者等につき、緊密な連携を続けました。この点、ハイレベル関係者は通常Day 1またはDay 2までしか出席しないことや、今回のIGFの前週に第11回世界貿易機関(WTO)閣僚会議(MC11)がアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催され、経済担当の政府・国際機関関係者やビジネス関係者の多くが、MC11に出席後、年末年始休暇に入ることが見込まれたため、累次のMAG電話会議の際やメーリングリスト等で、デジタル経済に関するメインセッションを、その重要性ゆえにDay 1またはDay 2に置いて欲しいと訴え続けました。しかし、結果的にIGF直前になってDay 4開催で確定であることが告げられ、また初めから登壇者を探し始めなければならなくなりました(全ての登壇者が確定したのは、デジタル経済に関するメインセッションの開催前日の夜でした)。残念ながら、現在のMAGの検討プロセスには多くの不透明性が残っており、そうした負の影響を受ける結果となってしまいましたが、後述しますように、さまざまな関係者の多大なるご支援のおかげで、最終的には非常に有意義なメインセッションを成功裏に開催することができました。

2. デジタル経済に関するメインセッションの内容
デジタル経済に関するメインセッションは、2つのパートからなる、全体で3時間の長丁場でした。まず、本メインセッションを代表して、筆者がオープニングステートメントを行いました。そこでは、デジタル経済が各国におけるイノベーションや経済成長にとって非常に重要であり、データそのものの価値が見直されている一方、人的資源の確保や社会保障、雇用といった課題に各国が直面しており、デジタル化と人的資本のバランスをいかにとっていくかを検討することが重要であると述べました。また、前週に開催された第11回世界貿易機関(WTO)閣僚会議(MC11)の場で、日本政府が電子商取引をはじめとする情報通信技術(ICT)分野の支援として、今後3年間で330億円規模の支援を実施する用意がある旨を表明したこと、また、日本政府主導で70カ国・地域の有志国が、電子商取引の貿易関連側面に関する今後のWTO交渉に向けた試験的な作業を開始する旨の共同声明を発出したことに触れ、こうした日本政府のイニシアチブを歓迎するとともに、電子商取引の貿易関連側面に関するルールメイキングが透明かつ包摂的な形で進められることを期待すると述べました。
デジタル経済に関するメインセッションで筆者がオープニングステートメントを行っている様子

(筆者がオープニングステートメントを行っている様子(©Internet Governance Forum))

筆者のオープニングセッションの後、まずパート1として、「Digitization, global production, and flows of digital commerce」といったタイトルのサブセッションが開催されました。このサブセッションでは、経済協力開発機構(OECD)の民間カウンターパートである経済産業諮問委員会(BIAC)のデジタル経済政策委員会(CDEP)の共同委員長を務める横澤誠氏がモデレーターを務め、2018年のG20議長国を務めるアルゼンチンの近代化省ICT事務局規制担当次官や国連貿易開発会議(UNCTAD)のICT政策課長等が登壇し、電子商取引が従来のビジネス・エコシステムに与える影響や新たなICT技術の可能性、経済のデジタル化の中で政府や国際機関、そして民間セクターが果たすべき役割について議論を交わしました。議論の中では、電子商取引の普及度合いが先進国と途上国で大きく異なり、経済格差を広げる結果となってしまいかねないため、途上国におけるICTインフラ整備やICT人材育成等が急務であること、また、それが結果的にグローバルバリューチェーンの発展につながるといった意見がありました。加えて、新たな技術は各国の社会課題の解決につながりうること、データの利活用やそれに必要な技能を身につけることが競争力強化の観点から必要であること、新たな技術の発展のためには規制撤廃が重要であること、情報の自由な流通が重要ではあるものの、同時にプライバシーの保護も考慮に入れる必要があり、貿易協定がその解決の道筋を示すかもしれないといった発言がありました。
電子商取引の可能性や課題に関するサブセッション・パート1の様子

(サブセッション・パート1の様子)

パート1に引き続き、パート2として、「Digitization, automation, and employment issues」といったタイトルのサブセッションが開催されました。このサブセッションでは、ポルトガル、エジプト、欧州連合(EU)といった政府や国際機関関係者のみならず、労働組合の国際組織(UNI Global Union)や技術コミュニティーの関係者が登壇し、新たなICT技術によるデジタル化や自動化が雇用に与える影響について議論が行われました。議論の中では、どれほどデジタル化や自動化が進展したとしても、各国の政策は「人」が中心となって立案されるべきであること、若年層の最も大きな懸念が雇用であり、デジタル化や自動化の中でも生き残っていけるような知識や技術を若者が習得できる機会を設ける必要があること、ICT技術の発展によって新たな仕事が出てくることもまた事実であって、どのような仕事が出てくるのかを予測することは困難ではあるものの、それを機会と捉えて人材育成を行っていくことが重要であるといった意見がありました。
デジタル経済における雇用の問題に関するサブセッション・パート2の様子

(サブセッション・パート2の様子)

デジタル経済に関するメインセッションの詳細については、こちらをご覧下さい。動画、報告書、そしてトランスクリプトが掲載されています。幸いにも、国連ヨーロッパ本部(UNOG)のニュースでも取り上げられました。前述のように、開催までの道のりは平坦ではありませんでしたが、本メインセッション自体は想定以上に良いものとなり、成功裏に開催することができたと言えます。世界各国の官民関係者への素晴らしいインプットの機会にもなりましたので、登壇者、サポーティングオーガナイザー、そしてIGF最終日の午前中にもかかわらず出席してくださった多くの関係者の皆様に、この場を借りて御礼を申し上げます。

3. 結びにかえて
前編でもご紹介したように、今回のIGFには、142以上の国から2,000人を超える人が200以上の各種セッションに現地参加し、加えて数千人がオンラインで参加しました。IGF期間中、ほぼ毎日のようにネットワーキングの機会があり、公式・非公式会合を含め、今回も多くの官民関係者と意見交換を行うことができました。そこで痛感したことは、IGFの意義に関する根本的な考え方です。世界各国の官民関係者は、途上国出身であろうと先進国出身であろうと、「意思決定を行う場ではない=意味がない」とは考えておらず、これだけ多くの世界各国の官民関係者が一堂に会する貴重な機会をどう有効活用するかということを考えています。同時に、どれほど時代が進んでも最後は結局「人」が鍵になるため、世界各国の官民関係者は、こぞって幅広くネットワーキングを行っています。「成果がないからネットワーキングの意味がない」のではなく、「成果を出すためにはネットワーキングが必要不可欠」なのです。

今、私たちはどのような世界に住んでいるでしょうか。日本企業の競争相手が外国企業であるとか、日本のユーザーの多くが利用しているサービスが外国企業から提供されているものであるとか、日本の政策や法律が海外の影響を受けて変わるといったことは、今や当たり前の時代です。「国内にいるから安泰」であるとか、「国内にいるから国際情勢は関係ない」と言える時代は、とうの昔に過ぎ去っています。私たちは、もはや海外の動向に無関心ではいられないのです。世界は常に競争を続けていますし、内向きの者や対外関係を軽視する者を待っていてくれるほど甘くはありません。世界中の誰もが自由に接続できるインターネットの世界においてはなおさらです。私たちが思う理想のインターネット公共政策があるのなら、それを積極的に発信していく必要があります。外国語を駆使して世界各国の官民関係者を巻き込んでいく必要があります。Yahoo! JAPANを含め、日本の全ての関係者が国際的なルール形成戦略の重要性をより一層認識すべき時が来ているといえるでしょう。日本が激化する国際競争の時代に勝ち残れるか、それは私たち一人ひとりがどれだけ真剣に考え、変われるかにかかっています。
ローヌ通り近くにあったクリスマスツリーの写真

(ローヌ通り近くにあったクリスマスツリー)

(K・M)