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消費者契約法改正案の概要 ~情報通信技術の発達・高齢化の進展や若年成人の救済等の社会経済状況の変化への対応~

1 消費者契約法の改正の経緯
消費者契約法の改正法案が国会に提出されました。可決されれば、公布日から1年後に施行されることになります。
今回の改正は、前回の改正に際して2015年12月に取りまとめられた「消費者契約法専門調査会報告書」の中で今後の検討課題とされたもののうち、衆議院の附帯決議において“優先的に検討すべき課題”とされたものを中心に検討が行われてきました。

検討は、情報通信技術の発達や高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化へ対応することを求める内閣総理大臣の諮問の内容をふまえて行われました。加えて、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられる民法改正の影響にかんがみ、20歳未満の若年成人に生じうる消費者被害の防止という観点からも手当てされることになりました。
以下では、改正法案によって新たに規定される条文についてご紹介します。

2 解釈に疑義の生じない条項の作成《新3条1項1号》
事業者が消費者契約の条項を定める場合には「解釈について疑義が生じない」程度に明確なものでかつ平易なものになるように配慮することが努力義務として規定されています。
この規定は、契約条項について解釈を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残る場合には、条項の使用者に不利な解釈を採用するという条項使用者不利の原則の採否の問題として議論されてきましたが、現行法の3条1項で定められている明確かつ平易なものになるように配慮するという努力義務に追加する形で規定しようとするものです。

3 個別の消費者に対する配慮《新3条1項2号》
事業者は「消費者契約の目的となるものの性質に応じ」、「個々の消費者の知識及び経験を考慮した上で」消費者に必要な情報を提供することが努力義務として規定されています。
この規定は、個々の消費者が契約を締結するかどうかを決定するに際して適切な判断ができるように契約の内容や消費者の状況という個別的な事情に応じて事業者が情報提供すべきことを明確にしようとするものです。

4 不利益事実の不告知《新4条2項》
これまでは「故意」により不利益事実を告げなかった場合のみが契約取消しの対象とされていましたが、事業者に「重大な過失」がある場合にも適用対象を拡大することとされています。
従来も「故意」の要件のもとで、事業者が重大な過失により重要な事実を告げなかったといえる場合においても取消しを認める裁判所の判断がなされることがありました。しかし、裁判外における消費者相談の現場において、「故意」ではないと主張された場合の解決が極めて困難であるということから、より実効的な条文にすることを目的とするものです。
「重大な過失」が要件に追加されることで要件の立証が容易になったといえますが、本来の重大な過失の意味である“故意と同視しうる程度の不注意”の解釈が不明確にならないよう、消費者庁の逐条解説に具体的な適用事例等を示すなどして適用範囲を明確にする必要があると考えられます。

5 過大な不安があることを知りながら煽る告知をして契約させた場合の取消し《新4条3項3号》
消費者が社会生活上の経験が乏しいことから就職、結婚、生計、容姿、体型などに関する願望の実現に過大な不安があることについて、事業者が知りながら正当な理由なく当該願望を実現するために必要であると告げたため、消費者が困惑して契約を締結した場合に取消しを認めることとされています。
これは、現在予定されている民法の改正により成年年齢が20歳から18歳に引き下げられ、未成年者取消権を行使できる範囲が狭くなることに伴い、特に若年層に生じがちな被害の救済を図ろうとするものです。
例えば、もともと就職活動に過大な不安のある大学生に対して、事業者がそのことを知りながら正当な理由がないのに「このセミナーを受講しなければ一生就職できない」などと告げて受講契約を迫ったという場合などがこれにあたるといわれています。
高齢者であっても、取引内容によっては「社会生活上の経験が乏しい」ということもありえますので、この規定が高齢者に一切適用されないという趣旨ではないと考えられます。他方で、この「社会生活上の経験が乏しい」という要件は年齢を重ねると該当しにくくなってくるようにも考えられ、消費者庁の逐条解説に適用事例等を示すなどして適用範囲を明確にする必要があると思われます。
また、事業者としては広告に適用されるのかが重大な関心事です。この点、従来から議論されている「勧誘」の要件に加え、「知りながら」という要件が課されているところ、不特定多数者を対象とする場合に当該消費者が「過大な不安」を抱いているという事情を事業者が知りながら広告をすることは想定し難いことから、この規定を適用することは非常に困難であると考えられます。

6 恋愛感情などの人間関係につけこんで契約させた場合の取消し《新4条3項4号》
消費者が事業者側の勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、事業者側も同様の感情を抱いているものと消費者が誤信しており、事業者がそれらのことを知りながらそれに乗じて、消費者に対して契約を締結しなればその関係が破綻することになる旨を告げたため、消費者が困惑して契約を締結した場合に取消しを認めることとされています。
これは、若年者に比較的被害の多いとされるデート商法を取消しの対象としようとするものです。
2017年8月の「消費者契約法専門調査会報告書」においては、「新たに」構築された関係のみに限定されていましたが、法案ではその文言が削除されているため、従来から継続している関係であっても適用の対象となりうることになります。
一方で、「関係が破綻することになる旨を告げ」という要件からすれば、契約を締結したら恋愛関係になってあげると告げるようなケースに適用することは難しいように考えられます。

7 契約締結前に契約内容を実施して契約させた場合の取消し《新4条3項5号》
事業者が義務の内容を先に履行することによって、消費者を困惑させたところにつけ込んで締結させた契約を取消しの対象とすることとされています。たとえば、竿竹屋が消費者の目の前で竹ざおを切ってみせ、消費者が困惑したところで契約を締結させるようなものが想定されています。
これは、事業者が履行に相当する行為を実施し一定の既成事実を作出すると、消費者は何らかの対応の必要性や事業者への負い目といった心理的負担を生じさせられることになり、 自由な判断に制約を受けるということから救済を認めようとするものです。
取消しが可能といえるためには、「義務の内容の全部または一部」を契約の前に履行して「困惑」させたことが必要であるとされますが、試飲・クルマの試乗のような日常的にお試しサービスとして行われているようなものは「義務の内容」に当たらないと考えられます。しかし、「義務の内容」に当たるか判断するのが難しいケースや、義務の内容を先行すると捉えられかねないケースもあり、消費者庁の逐条解説に具体的な適用事例等を示すなどして適用範囲を明確化する必要があると考えられます。

8 勧誘の手間や交通費などの損失の補償を請求して契約させた場合の取消し《新4条3項6号》
事業者が消費者契約の締結を目指した事業活動を実施した場合に、当該事業活動によって掛かった費用などの損失について補償を不当に請求することにより、消費者を困惑させて契約させた場合に取消しを認めることとされています。
これは、事業者が消費者と契約の締結を目的とする行為を実施したにもかかわらず消費者が当該契約の締結を拒否することは、これまで消費者のために事業者が要した費用や労力を無駄にするものであるとして、消費者の倫理感に働きかけ消費者を非難し、契約の締結を強引に求めることが不当であるということから救済を認めようとするものです。
具体的には、遠方から不動産の営業に来た事業者が、交通費などを不当に請求することにより消費者を困惑させることで契約したような場合が想定されています。
先ほどの「契約締結前に契約内容を実施して契約させた場合」とは異なって、「当該消費者からの特別の求めに応じたものであったことその他の取引上の社会通念に照らして正当な理由がある場合でないのに」という限定が加えられています。

9 事業者が自らの損害賠償責任の有無を決定する権限を付与する条項の無効《新8条1項各号》
従来から8条1項各号には、事業者の債務不履行・不法行為に基づく責任を免除するような条項を無効とする規定がおかれていましたが、事業者が債務不履行・不法行為の要件該当性を判断する権限を自らに付与する条項(「過失」への該当性の判断権限を事業者に付与するものなど)のように、実質的に責任の有無を事業者が判断できるようなものも、8条1項各号を潜脱するものとして無効とすることとされています。
この規定によって無効とされるのは、債務不履行・不法行為に関する責任のみとされているため、あらかじめ事業者が債務の内容自体を限定するようなものであれば、当然本条にはあたらないとされます。

10 事業者が消費者の解除権の有無を決定する権限を付与する条項の無効《新第8条の2各号》
従来から8条の2項各号には、消費者の解除権を放棄させるような条項を無効とする規定がおかれていましたが、解除権の有無を事業者が決定する場合も同様に消費者が不当に解除権を奪われることになることから、不当条項として無効とすることとされています。
解釈権限付与条項・決定権限付与条項一般についても議論されていましたが、消費者利益の保護等のため実務上必要なものがあるということから、今回この点については規定されないことになりました。

11 消費者が後見等の審判を受けたことのみを理由に解除権を付与する条項の無効《新8条の3》
消費者が後見・補佐・補助開始の審判を受けたことのみを理由として事業者に解除権を付与する条項は無効とされています。
過去にも消費者が後見等の開始の審判を受けたことを理由に建物賃貸借契約が解除され住む場所を失うのは、成年後見制度等の趣旨に反するとして、適格消費者団体により条項の使用差止めが求められたケースがあり、このような契約解除は不当であるとして無効としようとするものです。
もっとも、審判を受けたこと「のみ」を理由とする解除権は認められないとされており、例えば高リスクの金融商品において消費者に損害が生じることを防止するなど他の事情も併せて考慮することを要件とする場合には無効とはならないと考えられます。
また、あくまでも解除権を事業者に付与することが禁止されるのであり、一時的な利用停止措置をとることは同条項に抵触しないことになります。

(RH、RI)

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