Yahoo! JAPAN 政策企画

2016-2018協力強化に関するワーキンググループ(WGEC)・第五回最終会合に出席

2018年1月29日から31日にかけて、スイス・ジュネーブの国連ヨーロッパ本部において、2016-2018協力強化に関するワーキンググループ(Working Group on Enhanced Cooperation: WGEC)の第五回最終会合が開催されました。今回も、Yahoo! JAPANは日本政府の関係者とともにこの会合に参加しましたので、ご紹介します。

1. WGEC 2.0 第五回会最終合までの経緯
2017年9月25日から27日にかけて開催された第四会合では、第三回会合に引き続き、第一回会合の結果定められた以下の2つの質問のうち、2つ目の質問に対する各メンバーの回答(勧告提案)を一つずつ検討していきました。また、本ワーキンググループの成果文書となる報告書の構成についても議論が行われました。

(1)What are the high level characteristics of enhanced cooperation?
(2)Taking into consideration the work of the previous WGEC and the Tunis Agenda, particularly paragraphs 69-71, what kind of recommendations should be considered?

第四回会合後、同会合で合意のあったスケジュールにしたがい、まず10月15日まで既に提出された勧告提案の再改訂期限が設けられました。その後、11月14日に、議長であるブラジルのBenedicto Fonseca Filho大使が作成した報告書素案がメンバーに送付され、12月15日までコメントが受け付けられました。年が明けてすぐの2018年1月16日、複数のメンバーから提出されたコメントを踏まえ、議長が報告書素案・第二稿を作成、メンバーに送付しました。第五回最終会合では、この議長報告書素案・第二稿に基づき、交渉が開始されることになりました。
第五回最終会合が開催された会議室の入り口の写真。

(第五回最終会合が開催された会議室)

2. WGEC 2.0 第五回最終会合に出席
(1)議長報告書素案・第二稿:Executive SummaryおよびIntroduction
1月29日、第五回最終会合のアジェンダが採択された後、議長から、報告書素案・第二稿の作成経緯と内容について、簡単な説明がありました。その後、各メンバーからの発言を踏まえ、素案を最初から一つずつ検討していくことになりました。

まず、報告書全体の概要部分であるExecutive Summaryから議論が開始されましたが、既にこの時点から細かな文言につき意見の相違が出始め、またCarlos Afonso氏およびカナダから、これは報告書の要約部分なのであるから、まずは本文から議論をはじめ、その後Executive Summaryの議論に戻ってきた方が良いとの意見があり、この部分についてはいったん据え置かれることになりました。

その後、Introductionに規定されたパラグラフを1つずつ議論していきました。まず、第一回会合から第五回最終会合までの概要が記載されたパラグラフ(4から8)を、1つのパラグラフにまとめ整理する議長提案が示されましたが、米国やイラン、その他Richard Hill氏やMarilyn Cade氏といった個人資格で参加しているメンバーからも、事実の記載であってそれほど長いパラグラフではない上、概要があった方が後で読み返したときに分かりやすいとして反対の意見が出され、結果的に各会合の概要をパラグラフごとに記載する方法が維持されました。

また、パラグラフ12に関し、議長から、「新たなメカニズム」に関する賛否両論を、付属書IIの中に枠を作って記載する案が提示されましたが、コンセンサスを得られたものについては本文に記載すべきと主張する米国、英国、カナダ、Nigel Hickson氏といったメンバーと、コンセンサスのないものについても本文に記載すべきと主張するロシア、キューバ、イラン、Parminder Singh氏といったメンバーやサウジアラビア(※非メンバー)との間で意見が対立、この議論についてもいったん据え置き、後でもう一度議論することになりました。

(2)議長報告書素案・第二稿:Recommendations
報告書素案・第二稿の中でさまざまな勧告が規定されたRecommendationsの部分についても、パラグラフを上から1つずつ議論していきました。この作業は、結局1月30日(2日目)の夜まで続きました。このRecommendations部分の議論においては、主に以下の3点について、意見の対立が鮮明となりました。

①「開発のための情報通信技術(ICTs)」という議題項目の下、毎年、国連総会の場で協力強化のさらなる実施のための議論を行うという勧告については、国連総会がそれを議論するようこのワーキンググループに要請したのに、それを国連総会に投げ返すことはわれわれの責任放棄になるといった意見があり、米国、英国、カナダ、日本、Lea Kaspar氏といったメンバーから反対の意見が表明されました。

②インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)との連携を示した勧告については、カナダ、トルコ、EU、スイス、ハンガリー、メキシコ、ポーランド、Marilyn Cade氏、Jimson Olufuye氏といったメンバーから支持があった一方、IGFはWGECとは異なる別個のトラックであり、WGECのマンデート外であるとして、キューバやロシアといったメンバーやサウジアラビア(※非メンバー)から、この勧告が規定されたパラグラフを全て削除すべきとの意見がありました。

③「新たなメカニズム」を創設すべきとする勧告には、開発のための科学技術委員会(CSTD)の元に恒久的かつ無期限のワーキンググループを設置すること、IGFの年次会合で議論を行う恒久的なメカニズムを設置すること、そして政府がインターネットに関する国際的な公共政策課題を議論するための新たな仕組みをIGFの下に設置することの3つが規定されていましたが、米国、英国、日本といった、既存の枠組みで十分に対応できているとする立場のメンバーから反対の意見が表明されました。

Recommendations部分の議論がひととおり終了した後、今後どのように進めていくべきかにつき、議長を中心に非公式会合の形式で議論が行われました。夜20時頃まで、「新たなメカニズム」に関する勧告と、同勧告を報告書のどこに規定するのかにつき主に議論が続けられましたが、意見の対立が激しく、最終日に持ち越されることになりました。
議長を取り囲んで交渉が行われている様子をとらえた写真。

(議長を取り囲んで交渉が行われている様子)

(3)最終日の激しい攻防
1月31日、ついに最終日を迎えました。前日の議論の続きとして、主に上記①の「開発のための情報通信技術(ICTs)」という議題項目の下、毎年、国連総会の場で協力強化のさらなる実施のための議論を行うという勧告、そして②インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)との連携を示した勧告について議論を行いましたが、やはりまとまらず、何ら進展がないまま午前のセッションを終えました。

午後の会合前、これまでの議論を反映した議長報告書素案・第三稿が共有されました。まず議長から、第三稿のポイントに関する説明があり、その後同第三稿に基づいて議論が再開されました。しかし、「新たなメカニズム」そのものや、そうしたコンセンサスのないものをどのように報告書の中に反映させるかにつき両陣営一歩も引かず、意見の対立が続きました。その後、米国、英国、カナダ、EU、日本を中心とする先進国メンバーは、個別に対立国に接触したり、別室に移って対応を協議する等、緊迫したぎりぎりの交渉が続けられました。会合は断続的に続けられ、先進国メンバーがぎりぎりのラインまで妥協案を提示し続けましたが、1つ妥協すれば対立国陣営がさらなる妥協を求めてくるといった状況が続きました。翌2月1日未明、午前1時まで交渉が続けられましたが、結果的に交渉は決裂、WGEC2.0のマンデートであった報告書はとりまとめることができず、2018年5月に開催される第21回CSTD年次総会には議長レポートが提出されることになりました。
メンバーが一箇所に集まって緊迫した交渉を行っている様子をとらえた写真。

(緊迫した交渉が続けられている様子)

3. 結びにかえて
以上のように、2015年12月の世界情報社会サミット(WSIS)+10国連総会ハイレベル会合の結果設置されたWGEC2.0は、2016年9月から2018年1月の間に計5回の会合を開催したものの、国連総会から受けたマンデートを果たすことなく、その役割を終えることになりました。

このブログでもご紹介したように、前回WGEC1.0でも交渉が決裂していましたので、今回で2度目の交渉決裂となります。このことは、インターネットに関する国際的な公共政策課題の解決に向けた協力の強化を、マルチ(多国間)の場で議論することがいかに難しいかを物語っています。そしてある意味では、国連という多国間システムが機能不全に陥っていることを、この分野でも如実に示してしまったと言えるでしょう。

筆者は、WGEC2.0のみならず、過去にさまざまな国際交渉を経験してきましたが、今まさに感じていることは、交渉項目、交渉メンバー、交渉プロセス、そして交渉タイミングの全てがうまくはまらなければ、多国間交渉の中で成果を挙げることはほとんど不可能であるということです。一方で、それがいつ、どこで起きるかを予測することは難しく、事前の情報収集と根回し、そして、時代を読む力が必要不可欠です。

国際的なルールメイキングというものは、常に難航するものです。しかし、難航するからといって放棄してしまって良いものではありません。国内のルールメイキングにしかできないことがあるように、国際的なルールメイキングにしかできないことがあります。インターネットに関する国際的な公共政策課題に係る協力強化を、今後もこうした形式で議論することが賢明な選択肢であるとは思えませんが、ICT技術のさらなる発展とともに、本来的に国境を意識しないインターネットに関する国際的な公共政策課題は今後ますます増えていくでしょう。そのような環境の中で、私たちはいかに振る舞うのか。こうしたグローバルな社会課題の解決は、実は私たち一人ひとりの課題の解決に向いているのかもしれません。

Yahoo! JAPANは、今回の経験を活かし、インターネットに関するさまざまな公共政策課題の解決に向けて、今後も国内外で活動していきます。

(K・M)